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日本の幽霊が三角巾を頭に付け、足がないのはなぜか

 ふとどうでもいいことを思い出した。日本の幽霊はなぜ三角巾を時に頭につけているのか。調べると、三角巾は死に装束の一つで宗旨によっては、亡くなった方に三角巾を頭に付けて納棺することもあるとか。しかし私自身は、正直、そうした葬式に出くわしたことはないと思っていた。もっとも亡くなられた方の納棺された御姿を拝見するのは、親しい方の場合に限られるので、実は気が付かずに出席していたのかもしれない。また三角巾は、天冠、宝冠ともいい、要するに冠を付けて正装させているのだと。なお宗旨のなかで浄土真宗の場合は念仏で成仏するという考えから、このような死に装束は行わないとも。
 疑問は、今では納棺時にあまり見ない、三角巾をなぜ、日本の幽霊は時に頭に付けているのだろう、ということだ。ここからは仮説だが、三角巾など死に装束の風習が昔はかなり一般的だった時期があるのではないか。そこから死者といえば、三角巾を付けて現れるということになり、そのことが、幽霊の装束として一部に残り、意識されているからではないか。ただ三角巾はすべての宗旨に共通のことではないし、また「正装」なので、幽霊がこれをきちんとつけて現れるのは少し滑稽な感じもする。なお白装束も冥途に行くための正装だ。
 なお「歌舞伎」での幽霊の装束をネットで確かめると、三角巾を付けている例は検索した限りではなかった。
 次に日本の幽霊に「足がない」問題であるが、これについては円山応挙(1733-1795)の「幽霊図」が評判を呼んで、「足がない」ことになったという説がある。しかし応挙よりもほぼ1世紀前の浄瑠璃本に、「足がない」幽霊が描かれた複数の事例があるとされ、円山応挙が最初という説は根拠がない、との指摘もある。また応挙の「幽霊図」については、そもそもお香の煙で足の部分が見えないだけとの説もある。私自身は、浄瑠璃本の例からしても、円山応挙起源説は、俗説のように受け止めているが、応挙の絵の影響を認めて良いのではないかとは考える。

天明4年(1784年)奉納「返魂香之図」 久渡寺(青森県)


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