2017年の外国貿易概況を利用してここでは、対中貿易、対米貿易を検討する(写真は増上寺三解脱門)。まず中国については(輸入が輸出を上回る）入超の状態、これに対し対米で大きな（輸出が輸入を上回る）出超になっている。対米出超の理由が、輸送用機器すなわち自動車の輸出であることは明白である。
　米国との関係では、日本が食料・原料を輸入して製品を輸出する構造になっている。そして出超額が異様に大きいことは注目されてよい。このような米国との貿易関係は、長期的に維持できるものであろうか？
　このように一次産品を輸入して、工業品を輸出するという国家間の分業を垂直的分業vertical international specializationと呼ぶ。これは教科書上は発展途上国と先進国との間の分業関係である。
　これに対して、対中国貿易は、中国から食料品の輸入が大きいが、化学製品などでは日本の供給の方が多い。工業製品では輸出入額とも大きく、電気機器やその他で中国側からの輸入が勝っている。これは工業製品について両国で棲み分けをして互いに輸出する関係を推測させる。こうした関係は水平的分業horizontal international specializationと呼ばれ、教科書上は先進国間の関係とされている。
　対米貿易は垂直的分業を示し、対中貿易は、水平的分業を示すように見える。しかしこの見せかけの関係の背景には、先端企業のファブレス化が絡んでいると思われる。
　一般に先進国の企業では労働コストの上昇とともに、収益率が下がったモノを作るところを社外にアウトソースoutsourceする傾向が強まった。最終的に企業は利益率が高いデザイン・設計などを社内に残す一方、肝心の製造については、労働コストの安い海外の企業に委託することを始めた。このようにして生まれた「工場を持たない」企業をファブレスfablessとよぶことがある。現在では最初から、ファブレス企業fabless companiesとしてスタートする企業も増えている。これは製造拠点を、労働コストの安い海外に移す選択としても理解できる。つまり工業製品を輸入に見えるものは、こうしたファブレス企業の部品・製品の調達の動きである可能がある。工業製品を輸入しする側が先進国で、輸出する側が途上国ということは十分あり得るし、むしろ途上国がモノづくりの拠点になる傾向がある。
　 なおoutsouceの受託企業そして部品や素材の専業メーカーは、生産規模を拡大することによって、規模の経済scale merit or economy of scaleを生かしてそれぞれの製造コストを下げる役割を果たしている。ファブレス側はコストの引き下げを求めるので、受託企業、部品・素材メーカー間では、生き残りをかけて投資競争が展開される。
    生産を外部委託する場合で、かつ受託企業のデザイン・設計力に差がある場合、委託企業が、デザイン・設計など詳細を決めて、受託企業が相手先のブランドで生産するという「委託生産」関係は OEM： original equipment manufacturingと呼ばれる。その後、受託企業が技術力を蓄えて、自らデザイン・設計を委託することができるようになると、デザイン・設計を含め委託するという関係が生まれる。この後者はODM: original design manufacturing と呼ばれる。そして受託企業が成長するとともに、企業間の受託関係にも変化が生じ、両者の力関係も変化してゆくと考えられる。
　話を戻すと、対米貿易における垂直的関係、対中関係の水平的関係、これら貿易関係には企業間の、製品の委託生産や、委託生産に材料や部品を供給する企業の動きも反映している側面がある。

  2017 　対中国貿易  端数切捨て　単位10億円 %
              　　 輸出　輸入
　　　　　　　a        b         a-b　   a/c     b/c
食料品　　　　68　  910    -842　   0.5     4.9
原料品      　　434　 200　  234       2.9     1.1
鉱物性燃料　  117　 110       -7　     0.8     0.6
化学製品　　 2299   1129    1170     15.4    6.1
原料別製品　 1754　2118      364     11.8  11.5
一般機械　　 3311   3113       198     22.2  16.9
電気機器　　 3376   5479    -2301     22.7  29.7
輸送用機器　 1395     491       904       9.4    2.7　
その他            2131   4903     -2772    14.3   26.6
総額c  　　  14889   18459    -3570  100.0  100.0

2017 　対米国貿易  端数切捨て　単位10億円 %
              　　 輸出　輸入
　　　　　　　a        b         a-b　   a/c     b/c
食料品　　　　94   1438   -1344　  0.6　17.8　　　
原料品              65      462    -397      0.4      5.7　　　　　
鉱物性燃料　   61      689    -628      0.4      8.5 
化学製品　　 885    1346    -461      5.9     16.6
原料別製品     972     375      597      6.4　   4.6 
一般機械　   3399    1286    2113    22.5　 15.9 
電気機器　   2066    1079      987    13.7　 13.3 
輸送用機器　6066     534     5534   40.1       6.6 
その他           1502     876       626     9.9    10.8
総額c  　　   15113  8090     7073  100.0  100.0

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