見出し画像

双雪涛「心臓」『上海文学』2019年第3期

1983年生まれ瀋陽在住の双雪涛による短編である。彼女自身の経験のように読める。簡単にあらすじを追いかける。(見出しに使った写真は六義園の裏道である。)

著者のお父さんが心臓病になったとき、救急車に父親を載せて、付き添いの医師と救急車で北京に向かうその顛末を描いている(《2019中国年度短篇小说》漓江出版社2020年1月pp.98-109)。

著者はそれまで意外にも北京に行ったことがなかった。父親は、2015年11月6日の夜、突然発症した。心臓病は父親方の一種の遺伝のようなもの。そして心臓病の治療が、著者が住むL市では難しいので、北京に向かうことにしたと説明が入る。
夜7時、真っ暗になったなか、L市医科大学付属病院の医師、運転士、筆者の3人で、お父さんを救急車に載せて、北京に向かった。医師は30歳前後、博士を出たばかりの女性で彼女は、行程は約8時間、場合によっては途中でお父さんが亡くなる可能性もあると、最初に注意を述べた。
遺伝病があることから、家族はそれぞれ健康に気を付けていた。お父さんの場合は人知れず、毎日、太極拳を続けてきた。

運転が始まり数時間経ったところで、計器の数字を見ていた医師の徐先生(徐大夫)は心拍が落ち続けている、お父さんの心臓を弱っていて、北京まで持たないかもしれないと告げた。

運転が進み深夜3時半頃。徐先生は眠くなったので、点滴と心拍をみていて何かあれば起こしてくれと言って仮眠を取り始めた。

その後もお父さんの心拍の数値はどんどんさがってゆく。
北京が近くなったところでお父さんが気が付いて、太極拳をしたいと言い出す。そこで筆者とお父さんはこんな会話をする。
「お父さんがいない生活は考えられない、もう少し頑張って。」
「お前は私を高く見過ぎているんだ。お前の存在に何か意味があり、それが私を超えたんだよ(你的存在可能有些意义,你的存在吞掉了我的存在)」
最後にお父さんは「抱いておくれ」といって筆者を抱き、耳元で「さよなら、ここで逝くよ」と言った。

計器の警報が鳴り、徐先生が目を覚ました。

徐先生と相談し、休憩のあと、筆者は戻ることにした。ホッとするとともにすべきことも目標もなくなり、自身の心臓の鼓動とともに、深い眠りに入った。

画像1


main page: https://note.mu/hiroshifukumitsu  マガジン数は20。「マガジン」に入り「もっと見る」をクリック。mail : fukumitu アットマークseijo.ac.jp