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移民政策は緩和しない

わたしは人口問題がクローズアップされたころに大学講師になった。その年は2011年。あの東日本大震災が起きた年でもあった。震災の2か月後にはじめて東京都めじろ台駅から少し離れたところで講義をした。留学を奨励する内容で国際人としての心構えを説明するところだった。留学を前提にして国際的な仕事をする。できれば起業家精神を発揮する。きわめて困難な道筋を示したものだった。

その前提としてこれからアジア諸国を含めて多くの人たちが日本に来て仕事をするようになる。その人たちとどう仕事をしていくのがいいか。それらを含めたものだった。今日その前提が間違ったものだったということが判明した。わたしは日本はたとえ労働力の不足があろうとも移民の緩和や外国人の流入はしないほうがいい。そういう答えにたどりついた。

あるオンラインイベントで先進国が移民をかなり受け入れているというテーマで話す予定がある。いくつかの事柄で説明できるという。まず先進国に就職口がたくさんあること。通貨がまだアジアの通貨に比べて競争力があること。次に政府が外国人の流入を奨励していること。海外の労働者を教育すれば労働力として通用する。それらによるというのが理由だ。

しかしながらわたしはこれらのトレンドに対して懸念を示している。移民政策は緩和しないほうがいいと考えている。どうしてだろうか。

まず一時的な労働不足の解消にはなるものの移民として定住はしてもらわないほうがいい。そさまざまな社会福祉制度や年金制度の中に移民の人たちが入ってくるからだ。次に労働としては短期的には充足できるかもしれない。しかし日本のサービスといった無形の奉公は外国人の労働者は理解できない。なにより日本人が外国にいかないために海外の労働者の価値が理解できないといった理由がある。

日本に来てなんらかの労働不足解消のために働く。そういった外国人がいること。これは大変重要なことだ。そこには高度なスキルをもったごくわずかな外国人が長期的に滞在する。一方で日本人がやりたがらない骨の折れる安い給料で働く仕事につく。割の合わない仕事を外国人がする。それも存在する。

外国人がそれほどのスキルを持たなくてもできる仕事はアルバイトの仕事にすぎない。そういった仕事は短期的なものであり3年くらいの上限で自国に帰ってもらったほうがいいであろう。高度人材は長期滞在として対面する国の橋渡しとして必要なこともある。

そういった人たちを日本人と同じような待遇で健康保険制度や年金保障制度の中で雇う必要はない。これらは日本人として日本という国に生まれて結婚をして家族を持つこと。それを前提とした長期安定雇用に基づくものだ。外国人の価値観と一致はしない。

次に日本人として生まれて日本で育った人はよくわかるであろう。サービスの質が世界一であること。それは様々なところでわかる。マクドナルドはどこにいってもきれいである。スターバックスでは日本人は静かにならんで順番を待っている。コンビニにおいてもてきぱきと仕事をするしコピーサービスはかなり質が高い。いえばすぐにトナーを交換してくれる。

しかも都合の悪い時には謝罪をしてくれる。お客様をとても大切にする商習慣がある。しかし外国では客というものをもてなしたりはしない。おもてなしというのは理解できないのだ。かなりのお金を払ったりチップを奮発すればおもてなしをしてれる。それ以外はうわべをとりつくろったものだろう。気持ちを込めてはいない。外国では職場や仕事にもはや胸を張ってプライドを持って仕事をしていないところが多い。そのためサービスの劣化が激しい。

外国人にとってはサービス業で日本のおもてなしというのは理解できない。そこに移民がはいってくると大切にしてきたものが失われてしまう。

最後に日本人がますます海外にいかなくなった。海外にいかないということは外国のことがわからないということであろう。日本人の留学数は減少の傾向をたどり現在は5万8千人程度だという。それだけの数しかいない。これでは海外とは仕事を通して貿易や投資ができない。ますます先細っていく。

海外のことがわからない。仕事をしてきていないということは海外の仕事ができないということにつながる。であれば海外の仕事は外国の人にやってもらうしかない。移民という形態をとらなくても現地にいながらにして日本企業とのやりとりはできるであろう。日本に物理的にいる必要はない。

日本にアメリカから出張してもらう。あるいはズームでやりとりをしてもらう。それでいいであろう。わざわざ移民をして日本に滞在しながら仕事をすることもなかろう。しかも日本人と同じような保証制度を用意することもない。あれは日本人にあった前提としてつくられている。

わたしはめじろ台の学生たちが書くレポートを読んでいくつか考えたことがあった。あの授業では留学を奨励していたけれども実は学生たちはそれほど海外にいきたいとは考えていなかった。日本人として生まれて東京で暮らすうえでは海外経験は必要ない。無理にリスクを冒したくないだろうということだった。それに海外にいくメリットがそれほどあるわけではない。

学生の中には海外にいって英語を使って仕事をする。そのため仕事量が二倍になるのではないか。それで報酬はアップするのかという質問もあった。わたしはこう答えた。海外にいって帰国したからと言って報酬がよくなるわけではない。むしろ仕事量は増える。海外帰国組が必ずしも優遇されてはいないのだ。たとえば経営大学院(MBA)はことごとく失敗している。やたら仕事量が増えただけで日本では優遇されない。そういったことも答えた。

こういった日本の特殊性を考慮すれば移民政策を緩和しないほうがいいだろう。デメリットがメリットを上回る。