この人の文章を真似てみる

<以下の文章は2021年の年末に書いたものです>

この作品「やりたい仕事を見つける方法」を書いた著者のことをいまさら言うまでもないだろう。noteを愛読している人たちであればだれもが知っている人だ。私自身も会ってから10年経った。いまは会いたいときもあるけど、会えない。

わたしは、普段、大学生に向けて自由なテーマで書いている。書く上でこの人の文章を参考にしている。これから著者に許可なくこの文章を引用をし、ちょっと大学生に参考にしてほしいことを書いてみる。(著者に怒られるかもしれない)

参考にしてほしいのは、2点ある。ひとつは、この人の生き方である。もうひとつはこのひとの文章である。生き方については、書ききれないこともあり、ここでは書かないことにしよう。この人は10年以上noteで書き続けているからそちらを参考にするほうがよい。もう一つの方、この人の文章のことである。

ひとことでいうと、この人の文章はとてもうまい。

書くことを仕事の基礎にしているためかよく書かれている。では、大学生は、どう参考にしたらいいか。分析をしてみるのがよい。ちょっとしてみよう。

文章を分析する

文章は全部で9段落ある。まず、「質問をもらった」という起点があり、それに対して2段目で「決めること」と答えている。読者はどういうことだろう、なぜだろうと理由を聞きたいはず。そこで次の3段目で理由を3つ書いている。

(1)情報過多、(2)素養、(3)有限(時間)と3つの視点を出す。この3つの視点を出すというのはうまい文章を書くコツである。すると読者はぞれぞれになんのことだろうと説明をしてほしい。そこで4段、5段、6段で説明に続く。7段目で、「だからこそ・・・」と2段目の「決めること」を再主張している。この構成はとても参考になる。

そして8段目で自分自身の経験を引き合いに出して、最後で「行動してみること」と結ぶ。論法としてもわかりやすい。やりたい仕事を見つける方法というタイトルに着地する。

このような文章は普段から良質な本を多読、精読し、頭の中で整理しておかないとなかなか書けない。ひょっとしたら文章を書く上での生活習慣(食事、睡眠、運動、ストレス管理、呼吸)においても大いに参考になるはずだ。

この人の文書を読むとき考える。一体どんな結晶体が頭の中にできあがっているのだろう。

これはひとつの術であって、多くの大学生が大学時代に身に着けるとは限らない。着けないということは実にもったいないことだ。この人の文章を真似てみてほしい。

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10年以上前に会って、日曜日の早朝、渋谷で読書会をしていたときのこと。この人は集まってきたメンバーの前で、ホワイトボードに青のマーカーでみごとな肖像画を描いて見せた。なぜかいまでも忘れずにはっきりと覚えている。わたしは、あの場、あの瞬間、この人の中に芸術家としての才能を見た。

自分の才能を見出すのは難しかったが、人の才能を指摘することはできる。おそらくできることはそれくらいしかない。そんなこともあり、大学の講師を10年続けた。

文章を比較する

前回、大学生の皆さんが文章を書くときのお手本を紹介した。そのお手本のタイトルは、「やりたい仕事を見つける方法」。この中に参考になる材料がいっぱい詰まっている。内容面では知識や経験を積むにつれて深く理解できるようになる。形式面では文章構成で、これは、いまでもとても参考になる。

参考にするには文章構成を分析する。すると全体として結晶体のように整然とした文章になっていることがわかる。そしてきっと書く前に、つまり、タイピングをする前に結晶体が頭の中にできあがっている。できあがってからタイピングしている。

さて、大学生の皆さんは、はたしてほんとうなのか、わたしが後付けで都合よく解説しただけではないかと疑問をいだくかもしれない。そうではない。ただ、もしそのような疑問があった場合の反証を書いてみる。

たとえば、この文章を見てほしい。この文章は、最近のThe Economistに載った文章。The Economistというのは、その文体がすぐれていることで知られており、一流の記者が独自の取材をして出版する。

この記事を見ると前述の文章といくつかの共通点がある。項目を左側に出して、2つの文章を対比してみた。

スクリーンショット 2021-12-30 132247 やりたいことを

完全な一致はするはずがありません。しかし、この二つの文章が構成をきっちりととっていて整然としていることがわかる。流れがわかる。いい文章というのは流れがわかるもの。

2つの文章構成がある程度一致していて流れが読み取れるのは決して偶然ではない。執筆者は、The Economist を15年以上読み、皇居をランニングしているときもイヤホンでリスニングをしているという。長く続けると流れが見れる文章を書けるようになる。流れを発見できる文章。これがうまい文章といえる。

これはわたしにとっては驚くべきことであった。35年前に投資銀行に勤務していた時、上司に聞いた。どのような読みものを読めばいいのでしょう。上司は答えた。The Economist を読むとよい。よく書かれている。それだけいって雑誌を渡した。それがどんなことなのかよくわからなかった。

あの時、ひとりで読み始めたけどすぐに挫折してしまった。そしてその23年後。50歳になったときに読書会を知った。あれを読んでくる人たちはどういう人たちだろう。とにかく上を目指している人たちだろう。何を目的に渋谷に日曜朝8:00にくるのか。当時は、議論に強くなるという目標でした。それには議論を英語でするのに限る。日本語ではできない。

そしていつかダボスのような国際会議に行く人たちがくるな。英語でプレゼンテーションをしたいひともくるだろう。そこまではありました。しかし、文章として体得していき、それを日常生活の中に組み入れていく。それを書く習慣にして実践していくというのは聞いたことがなかった。そういうことをしている人はひとりもいなかった。

The Economist の記事のような文章が書ける。それを目指して3年間練習してみた。Mediumに130本書いてみた

2011年から10年間、5つの大学で大学生のレポートを見てきた。人数にして1,200名。レポートを読むと、内容面では、それほど差がないのにもかかわらず、形式面、つまり、文章の構成のとりかたで随分と損をしているレポートを読んだ。整然としているかどうかでずいぶんと差が出てくる。

構成を決めて、コンテンツをいれていく。コンテンツは材料であって、型の中に入れ込んでいくと文章がすっきりとする。

いまは大学生が書くことを学ばない。また、大学の先生も書くことを教えない。実にもったいない大学生活の送り方。書く習慣を身につける。それでクリエイティブな時間をつくることは、至福の時間を過ごすもの。それを投稿することで読者にどれだけの影響を与えることができるか。

読者にとっては、この人の文章は贈り物と考えてよい。

真似てみる

いい文章を真似ること。そのためにまず文章を分析してみる。それを1回目で実践して記録を書いてみました。でも都合よく分析しただけではないのか。後付けではないのかという疑問に対し、反証しました。作者の愛読雑誌であり、わたしも10年以上読み続けたThe Economistを引き合いに出しました。そこの記事と比較してみました。その結果が2回目に書かれています。

さて、ここまで書いても大学生の皆さんの中には、はたして自分であのような文章が書けるのか。真似すらできないかもしれない。そう疑っている人もいるでしょう。それではオリジナルの作者のいうとおり、まずはなんでもやってみること。構成を真似てタイピングをすること。わたしがやってみよう。

これから書く文章は盗作です。形式面であるオリジナルの構成はそのまま。型の中にわたしの経験をいれこみます。まったく違う文章のようですがパクリです。オリジナルを投稿をした著者はほんとうに怒るかもしれません。流れがまったく同じなのですから。

それはそれでいたしかたないとして、流れが全く同じのを内容だけ変えて書いてみる。断っておきますが、内容面ではきわめて不健全で世俗的。内容は真似をしないでください。真似るのはあくまで文章構成。では、スタートします。

先日、大学生と話をしていてどうやってやりたいことを見つけたらいいかという質問をもらった。(実際にはもらっていませんが、ここではもらったことにします)

結論としては、「偶然を計画してみましょう」。きっかけをみつけましょう。私自身は、6社で計25年働き、その後、大学講師として5つの大学で10年講義しました。それはもともと大学時代に計画したものが偶然の連続でそうなっただけ。それぞれの局面でざっくりと計画をしておいたものに基づいている。

大学生であった20代には、やりたい仕事を見つけるのにぼんやりとした計画をたてました。(1)専門性の高い仕事、(2)幅広い分野で活躍する仕事、(3)年収の高い仕事。この三つです。

まず、専門性が高いということは、プロフェッショナルしかできないということです。そのためには、学歴の高いひとが集まってくるところで働く。だから一生懸命勉強していい大学に入学したのです。入学しただけでなく成績もよくして大学院にいこうとしました。

簡単すぎる仕事をするのは退屈である。単純で同じことを繰り返すのは合わない。恐ろしく退屈である。それよりは、複雑で深い知識と経験を求められる仕事に就く。わたしにしかできない仕事を見つけたい。

次に、幅広く仕事をしたい。金融、IT、コンサルティングといったハードなところ。金融はお金の動きを把握します。ITは、コンピューターによって情報の流れをつかさどる。そしてコンサルティングのように組織を強くする仕事。これらはファイナンス、情報技術、そしてソフトスキルが必要なところです。大学院のような専門機関で学んだあと活躍できるところです。大学だけでは満足しない。

最後に年収の高いところで働く。安いところは嫌。やる気がなかなか起きない。安いところにいくくらいならば、なぜわざわざ一生懸命勉強をして苦しい思いをした意味がない。いい大学にいっているのはそのあとでいい年収につきたいからです。その苦労を考えるならば、卒業をした大学の平均年収は上回りたい。めいっぱいGAFAのようなところ目指したい。

Google社の平均年収は3千万円。若いうちにばりばりと働き、世界的な企業で働く。Meta社(facebookの親会社)の平均収入はさらに上で3.5千万円。せっかく苦労していい大学にいっているんだから、それだけの年収を払ってもらいたい。苦しい仕事だから対価はしっかりもらいたい。労働は苦痛なのだから当たり前のこと。やりがいはあればいいけれど、年収が高くないといけない。

こういったぼんやりとした計画をたてました。(GAFAはあのころにはありません、別の会社です)あとは、仕事を探す局面で偶然に見つかればよし。見つからないことも大いにありうる。見つけようとしてもあるとは限らないし。しかし、計画を大学時代に頭の中に何度も繰り返しすりこんでおけば、偶然にそういった仕事を見つけられる。事前に計画しておかなければ見つからない。気づきもしない。

わたしは、20代は、とにかくなんでもやりたかった。なかでも世界をかけめぐるような仕事がしたい。そのために欧米のビジネスを選択していた。地理的に西欧のビジネスをしたかった。日本国内だけですんでしまうような狭い範囲の仕事は考えてはいなかった。海外留学をしてきた連中が集まる職場は絶対条件だった。

また、欧米のビジネスであるから英語によるコミュニケーションは与件であった。異文化間のコミュニケーションを基盤としたかった。同一民族の、同一文化といった同質性でなく、異質なものを取り入れる。多様性を必要条件とした。人種、性別、年齢、宗教、国籍による排除・差別は耐えられなかった。

そして外資系企業であること。日系企業には就職しないことにしていた。それは、外資系企業の方が比較的年収が高く、若い時にしかいっしょうけんめい働けない。実績に応じて昇給もよい。日系企業は、定年まで長く働かないといい給料はもらえない。だらだらと65歳まで働くのは性に合わない。外資はえぐいことを平気でするけど、年収さえ高ければよかった。

幸い表向きは大まかに計画した会社に就職できた。スイスの投資銀行(United Bank of Switzerland)にはじまり、帰国後、渋谷にある日本コカ・コーラで働いた。その後にカート・サーモン(現在は、Accenture Technologies)で働くこともできた。たまたま次の会社でリストラはあったけど、社長が三菱グループを紹介してくれた。三菱商事に出向して、商社マンの同僚といっしょに仕事ができた。これらはすべて表向きの略歴である。裏側はこんなにきれいではない。

35歳でコカ・コーラの仕事が行き詰ったころ転職活動をした。赤坂にあるリクルーターと面談した。エスプレッソ系コーヒーチェーンを紹介してくれた。1時間、こちらの経歴、これからやりたいことを話した。そして話した後、リクルーターが指を7本示した。わたしにはその意味がわからなかった。

リクルーターはいった。7ですけどいいですか、と。月70万、ボーナス7か月、1300万なのかな、と。リクルーターはいった。いえいえ、年収700万円です。それでいいですか。わたしはあきれてしまい、そのリクルーターには一切あわなくなった。年収を下げてまで転職はしない。しかし、コカ・コーラ社内の荒れ方と自身の疲弊はピークを越えていた。わたしは辞めた。正解だった。

これらは、20代のときにぼんやり思い描いた専門性、体系的、そして高収入という要素にだいたいはあてはまった。ただし、仕事につけたのはたまたまである。偶然による出会いやタイミングでそうなったとしかいいようがない。

大学生の皆さんは迷うことはあろうが、三つくらいのことをぼんやりと計画して、あとは偶然を探し歩いて見つける。まかせておいても見つからない。つかむチャンスがあるときにつかむ。計画を大学時代にすりこんでおくこと。それが後に見つけることにつながるであろう。

やりたい仕事を見つける方法はなにか。まず、おぼろげなものを計画し、そして偶然(たまたま)を信じてつかむこと。これがやりたい仕事を見つける方法である。偶然を計画することにより必ず見つけられる。

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さて、どうでしたでしょうか。この文章は盗作です。盗作であるからしてタイピングには時間がかからなかった。1時間弱で終わった。それよりも構想をする時間はほとんどかからない。評価は読者におまかせするが、少なくとも流れが同じような文章にはなっていよう。それが真似てみるということです。

教科書的な文章を真似る。これが後に大きなメリットを生みます。

やりたい仕事が見つかりますように。