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心の不調を軽く見ないように

40歳手前だった。どうにもこうにもやる気が起きない。ずっとゴロゴロと寝ていても疲れがとれない。気分が滅入ったままだ。しかしこれが2、3週間も続くとなるとちょっと不安になる。どうにもこうにもうまくいかない。将来に向けて明るくなれない。そんな状態だったことを覚えている。

コンピューターの仕事をしていることもあっただろう。渋谷のオフィスは地下室。ほとんど会話がない。一日中、日が差さない。窓がないため外が見えない。同僚はうつ病と診断されて1年間会社を休んだ。自宅に見舞いに行った。わたしが観察した限りでは周りからパワーハラスメントを受けていた。誰も助けようとはしなかった。相談も求められなかった。

仕事はずっと夜まで続いた。わたしは転職をした。外資系コンサルティング会社だった。今度はパワハラというよりも周りとの競争。そして顧客からの注文が厳しかった。パワーハラスメントというものはなかったがそれなりにびっくりすることもあった。コンサルタントが夜遅くまでかかって作った資料。それを見せにいくとびりびりと破る。

仕方がなくてトイレにかけこむ。するとそこにもコンサルタントがいる。そして横からこう言う。こうやって用を足しているときにも顧客のことを考えているんだろうな。これはやりすぎとはいえ、こういったゲリラのようなことがよく行われていた。

わたしは気分が滅入ることが多くなり心療内科というところを受診した。

英紙エコノミストに興味深い記事が載っている。身体的な病気が原因となって精神的な病気になってしまう。それを見過ごす症例が多い。そこで神経科と精神科のすみわけをなくす動きが出ているという。

イギリスで12歳の少女が入院した。病院ではTikTokのやり過ぎが原因でけいれんが起きるのだと診断されたという。しかし少女は実はレンサ球菌に感染した。バクテリアを除去すると症状は和らいだ。このように脳になんらかの物理的な原因があるにもかかわらず精神的病と誤診されてしまう。因果関係がはっきりしないまま治療に入ってしまう。

従来の精神科は患者の兆候を聞いていた。気分がすぐれないということばからなんらかの精神的病と診断をしていた。ただ身体的異変と精神的異変の因果関係ははっきりしていないことが多い。そこで身体的原因を特定することで精神的病を治療しようという試みがなされている。

身体内にある抗体が脳に悪影響を及ぼす。それにより精神的病になるのではないかという。またメタボリズムにより不調になる。そして人工知能が膨大なデータを使って診断を助けているという。しかしまだ診断は完全ではない。神経科と精神科は扱う分野が違う。そこで統合しようという動きが広がっている。

イギリスの少女の例は誤診による被害だった。

わたしはこの記事を読んで自分の事のように振り返っている。それは心療内科では患者の状況を言葉で話す。試験器具は一切使わない。医者がいくつかの簡単な質問をするだけである。それでも薬を処方してしまうことがある。例えば、最近どうも寝ても寝ても気分がすぐれない。将来に対して明るくなれない。疲れがとれない。そういったことを訴えただけで処方箋を出してしまう。

町医者であればMRIを使うことはない。そういった設備を持っているわけではない。また必ずしもいい先生に会えるわけではない。

安定剤との付き合い方はよく知っていなければならない。どういう薬なのか。どうやって効くのか。飲み方はどうする。そして分量はほんとうにあっているのかどうか。ほとんどの場合、医者も患者も科学的な根拠があるわけではなく、適当にやっているだけである。しかし安定剤というのはよく知っていないといけない。

ひとつは即効性がないということだ。少しづつよくなる。この薬は血中濃度をあげて全身にまわるようになってはじめて効果が出てくる。2週間くらいはかかる。そしてやめるときは急にやめてはいけない。やめるときのほうが難しい。薬の分量を減らし、飲む頻度を少しづつ下げてやめていく。これは簡単ではない。そういった説明は処方をする医者からはない。自分で調べるか薬剤師に聞くしかない。聞いてもめったに教えてはくれない。

次にわたしの場合は仕事がきついのに加えて、どうもがんばる性格が強かった。なんとか仕事で結果を出そう。給料をあげていこう。まわりよりできるはずだと思い込んだところもあった。そういうときには結果が伴わない。そうすると深みにはまるようなこともあった。仕事ではほとんど成果があがらなくなっていった。

そしてわたしは過食であった。体重も73キロと自身の平均よりも10キロ太っていた。便秘ぎみにもなりそれがさらにストレスを増した。肩は常に凝っていて毎週土日のどちらかは1時間のマッサージをうけなければならなかった。近くに3500円でできるところがあった。

こういうときにしてはいけないのは転職であろう。転職はしてはいけない。特に40歳を過ぎて病気であるにもかかわらず転職は無謀であろう。わたしはリストラもあって仕事を探すしか方法がなかった。多くの人にとっては病気であったならば転職は勧めない。仕事をしながらじっくりと体を休めることだ。家でだらだらしていても差し支えない。周りを鼓舞することはいけない。

そして少しできるのであれば頑張り過ぎない程度でウォーキング、ジョギング、そしてランニングをしてみること。汗をかくのはよい。適正体重に近づいて維持できると気分も安定する。

コンピューターの前に座っていることは勧められない。スマホは使わない。電源を切って外には持ち歩かない。ランニングを続けて3年くらいすると症状が改善する。体重、日中の気分、睡眠と安定しはじめる。

夜も寝れるようになる。不安も少しづつ、ほんの少しづつ和らいでいく。こういったことに膨大な時間を浪費してしまった。心の不調を軽く見ないようにしたい。