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ノーベル平和賞受賞者がヒーローになれない国

12年前にはじめて大学講師として登壇をした。ところは東京都多摩市にある法政大学経済学部。そこで留学経験と商社で働くことについてなんでもいいから話をしてほしいということだった。学生はその感想文を書くということだった。8年続けて8回の同じ講義をした。そうやって大学講師としての経験を積んでいった。

また神奈川県にある小さな私立大学である多摩大学グローバル・スタディ学部でも講義をする機会があった。単発ではなく一学期担当するものだった。そこでは担当の教授からいろいろ教え方について指導を受けた。なかでも学生が興味がある企業を選んで自由に研究してくるというスタイルを身につけた。学生が企業を選べるのかという疑問はあったもののきちんと選んできた。その中で特に人気の高かったのがユニクロだった。そのユニクロが進出国として選んだのが最貧国バングラディッシュだった。

あるイベントでバングラディッシュの政治情勢について話す機会があった。そこにはノーベル平和賞受賞者のモハメド・ユヌス氏がいた。彼は貧困の救済のためマイクロファイナンスという手法を用いた。その機関としてグラミン銀行を設立。多くの人からはヒーローと見なされているはずだった。

ところが現政権は彼を敵とみなしている。シェイク・ハシナ・ワゼド首相は彼のことをゆすり泥棒と公の場で攻撃している。バングラディッシュの経済開発のひとつである河川の整備に対して世界銀行が手をひいた。その責任を負わせている。またアメリカと手を組んでいることが気に入らない。グラミン銀行から手を引かせている。また脱税や労働基準法違反の容疑をかぶせている。

このようなことになってしまうバングラデシュ。なぜここではノーベル平和賞をとったひとが悪人のようにされてしまうのか。その理由を探った。ワゼド首相の個人的な権力剥奪行為。そしてあらゆる反対勢力を弱体化させる工作。そしてバングラデシュ自体に殺人が多いということ。ヒーローですら殺害されてしまう。

ワゼド首相にはどうやらあらゆる目立つ行為をするひとが気に入らないらしい。自分よりも権力を誇示することが気に入らない。そのため権力誇示者を悪人化する傾向があるようだ。それは政治においてはどこの国でもありうる。

7月にはバングラデシュでの反対勢力が銃や催涙弾で制圧をされた。800人が逮捕された。過去24年間で制圧事例は4百万にのぼるという。これはいかなる行為に基づくのか。

実はワゼド首相の父親は暗殺をされた。また家族もすべて殺害されている。民衆は政治家を敵とみなしている。このような事情がある。民衆にとっては政治家は敵。現政権にとっては対抗馬も敵である。これはある見方をすれば1975年から続いているようだ。

それでもユニクロは進出した。ダッカに1号店を開きすぐさま2号店を開いた。柳井社長は進出当時30店舗にまで広げたい意向を示している。その様子を描いたビデオがユーチューブで公開されている。NHK制作によるものだ。わたしはこのビデオを大学の講義でよく使った。

多摩大学の講義だけでなく千葉県にある小さな私立大学でも使った。それは国際経営の授業だった。ただ授業ではユニクロのマーケティングを成功させるにはどのようなことをすればいいのかということに集中してしまった。そのためラマダンといった断食のことや民族衣装を着る習慣がある市場調査。そしてユニクロの強豪であるアーロンといったことに話を集中させた。経営の授業であったからしかたなかったのかもしれない。

ただ振り返るともうすこし政情について話しておくのもよかったのかもしれない。最貧国といわれるところではノーベル平和賞が悪人になってしまうのか。そう考えるとどこか悲しい。どうしてもヒーローとしてしかうけとれないのはわたしだけだろうか。

わたしにとってはモハメド・ユヌスはヒーローであり、マイクロファイナンスの父と見なしている。