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京都の老舗「三嶋亭」で出逢った、異世界のすき焼き

創業は明治時代。
京都・寺町三条の角にひっそり佇む
京都の老舗料亭。

甘いタレと肉の香りに誘われ、
店の中を進めど進めど続く
急階段や細廊下。

そんな神隠しで行くような
不思議な世界で味わったのは、
極上のすき焼きでした。


「ここのすき焼き、食べにいかない?」


「相談があるんだけど」

発端は、関東の友人からのLINEでした。

昨年10月に友人が京都を
訪れることになったので、
関西在住の私とそのタイミングで
ご飯にいこうという話になったのですが。

「このお店行きたいんだけど……」

いつもよりおずおずとした様子に
「どうしたんだろう?」と思いながら
添付のリンク先に飛ぶと、

「京都・三嶋亭」
https://www.mishima-tei.co.jp/

知っているすき焼きのお店でした。
明治6年創業の超老舗。

で、なぜ友人がおずおずしていたか、
ピンときました。

そっちの予算は大丈夫かなって

そう、ここのすき焼きは
一番安い「月コース」でも
17,545円というお値段。

私も昔、兄とお互いに
出世したらここですき焼き食べよう」と
約束していたくらい
値段も格式も特別な場所。

でも兄とは未だに一度も行っていません。

今まで「成功」に値する経験は
何度もあったわけですが、

そのたびに
「これはこのお店に見合う”成功”だろうか」
という意識が働いていました。

だから友人からの誘いを受けた時も
ほんの少し迷いました。

このタイミングで行っていいのかと?

――

いや、

むしろ今行かなかったら
この先いつ行くんだよ。

私も歳を取りましたし、
「またいつか」と呑気にしていたら
その「いつか」が永遠に来なくなった経験は
いやでもあります。

確かに日々預金残高という
限られた資源の枯渇
を気にする
ケチくさい私SDGsな私ですが
別にこの料金を支払ったところで
即路頭に迷うこともありません。

気づけばもう、
断る理由はどこにもありませんでした。

京都の老舗料亭「三嶋亭」

2023年10月某日。
京都で待ち合せた友人とともに、
三条寺町にある三嶋亭へとやってきました。

三嶋亭

アーケードが天を覆い、
現代的な建物が軒を連ねる中でも、
そのお店は独特の存在感を放っていました。

1階は精肉店も兼ねていて、
厳選された牛肉がずらりとショーケースに
並んでいます。

そのショーケースの隣が、お店の入口です。
外からは入口奥の急階段が見えるだけで
中の様子は窺いしれません。

入口の従業員さんに友人がこわごわと
予約していたことを告げると、
中へと案内されました。

急階段を上がると、広い空間に出て、
さらにそこからまた階段。

外観からは想像がつかなかったのですが、
中は階段と細廊下などで複雑に入り組んでいて、
まるで和風ファンタジーの世界に
神隠しで迷いこんだかのようでした。

一番奥が私たち専用の座敷

そして案内されたのは3階奥の座敷。
ふすまが開けられると、
中央に六角形のテーブルが置かれた
個室がありました。

神隠しの世界で味わう、異世界のすき焼き

席についた私たちに、
和服姿の若い女中さんが挨拶とともに、
コースの説明をしてくれました。

ちなみに今回頼んだのは「月コース
17,545円のすき焼きコースです。

飲み物にビールを頼み、
前菜が運ばれてくるまでの間、
私たちはそわそわと部屋を観察したり、
写真を撮ったりして過ごしていました。

お店の外灯の形をした箸置き
机に反射した明かりが月みたい

そして前菜はこちら。

前菜

味や料理名をメモったはずだったのですが
なぜかその記載だけ見当たらなかったので、
味は写真から察してください。

まぁ、
それが味わったことのない
上品な味と食感だったことは
この彩りからわかると思います。

前菜を文字通り嚙みしめるように
味わった後、いよいよすき焼き肉が登場しました。

おおおん

なんだ、この色ツヤ……

お肉は鹿児島県産の黒毛和牛。
確か熟成具合によってその日に提供される
牛肉の産地が変わるという説明でした。

ちなみにお肉を焼いたり味付けしたりは
全部担当の女中さんにやってもらえるので、
素人でも安心です。

早速女中さんが三嶋亭特注だという
六角形の鉄鍋に牛脂をひき、砂糖をまぶし、
手際よくお肉を敷いていきます。

肉が焼ける音がし始めました。

なんとたとえたらいいんでしょう。

サウナ愛好家の方ならわかるかもですが、
サウナの中でサウナストーンに
水をかけた時のような音に近い。

思わぬロウリュウサービスに、既に整いそう

投入された秘伝の割り下が鉄鍋の底に触れ、
ぶあああああ!と湯気とともに広がった
甘い香りが天へと昇る!

そしていよいよ火が通ったところで、
いただきます!

――

「噛む」

って、どんな行為だったっけ?

とつい思ってしまうくらい、
舌に乗った途端に肉が溶けました

ひと噛みするごとに、
あっさりさっぱりと肉が溶けていく。
極上の、旨味とともに。

「すき焼きのおともに」
と頼んでいたビールですが、

人生で初めて、ビールの味が雑音に思えました

むしろ合うのは上品に結われた三つ葉。
肉と一緒に食べると、
牛が草をはむさわやかな草原のイメージが
広がっていきました。

お肉を1枚食べたところで、野菜もいただきます。
冬瓜も外側はざっくり、内側はほくほくで、
すき焼きにぴったりでした。

野菜がいい箸休めになったところで、
2回目、3回目とお肉も焼いてもらい、
堪能させていただきました。

ちなみに強火で速く焼くことが、
肉の柔らかさを失わないコツだそうです。

わらじサイズのお肉は一人3枚。
最初は少ないかなと思っていましたが、
気づけばちょうどいいくらいの量でした。

そして最後に、デザートのシャインマスカット。
アルコールをとばした白ワインの
ジュレがかけられていて、
すき焼きの後にぴったりなさわやかな甘み。

ノンアルコールのスパークリングワインを
食べている心地でした。

ちなみにこの時の動画などは
インスタグラムに投稿していますので、
よかったらこちらもご覧ください!


夢の終わり

不思議で、
ゆっくりで
おいしかった時間も
あっという間。

浦島太郎が竜宮城で過ごした時間も
こんな感じだったのかな。

外に出て夜風を感じながら
お店を振り返ると、
あの時間は夢だったのかと思えてきます。

夢でいいから、また味わいに来よう。
今度は兄や家族と一緒に。

私にとってあの1万7545円は、
夢の世界への渡し賃。

神隠しで行くような不思議なお店で、
六角形の鉄鍋で焼かれたお肉から
湯気とともに立ち昇った極上の香り。

浦島太郎は最後に煙を浴びて
老人になっちゃったけど。

あのすき焼きはきっと、
人を幸せにする玉手箱
だったのかもしれませんね。


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