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村上春樹を倒したKindle本 「おカネの教室」ができるまで⑭

どんな良い作品でも、読者の目に触れなかったら、売れない。
特に無名の新人にとって「露出」は最大の悩みだろう。
KDP(Kindle Direct Publishing)の場合、武器になるのは「無料キャンペーン」だ。これは文字通り、一定期間だけ、コンテンツを無料で配布できる仕組み。5日限定なのは情報宣材などの拡散に利用されないためだろう。
前述のサクラ動員も含め、レビューがそこそこそろってきたタイミングで、「おカネの教室」前編を対象に2017年3月17日から3日間の無料キャンペーンを打った。

予想を超える300超のダウンロード

結果から書くと、キャンペーンは大成功した。ダウンロードは3日で300を超え、無料部門のAmazon総合ランキング5位まで食い込んだ。エロとPS4の宣材を除けば、実質2位という快挙だった。

(キャンペーン終盤のスクショ。レビューはこの時点で8件)

この売れ行きとランキング急上昇は、完全に予想外だった。
出す前は「Kindleなんて大して普及してないし、1年で500人ぐらい読んでくれたら嬉しいな」と期待値が低かったのに、たった3日で目標達成が見えてきた。そりゃ驚くというものだ。

後知恵で考えると、成功のポイントは、

①キャンペーンを週末にぶつけた
②友人・知人に限らず、事前にFacebookの「友達」を広げておいた
③ツイッターのbotに「無料キャンペーン中」と拡散された
④レビューがついていたので「とりあえず落としておこう」となった

といった点にまとめられる。

恐るべきSNSの拡散力

①は当たり前として、②は少し説明がいるだろう。
ペンネームの「高井浩章」名義のFacebookアカウントを作った後、私はどんどん「友達」申請を広げた。重点的に広げたのはフィナンシャル・プランナー(FP)や金銭教育の活動に参加している方、長期投資に取り組んでいるプロや個人投資家だった。

「おカネの教室」では、資産運用を「市場経済を円滑に回すための不可欠な要素」としてポジティブに描いている。これは私の持論でもある。作中には、長期投資に取り組む独立系投信会社の社長、とても感じの良い人物として出てくる。投信会社のトップがこんなオイシイ役どころをもらっている小説は空前絶後だろう。

こうした作品の特徴からして、先に述べたような方々には共感してもらえるだろうと考えた。個人事業主やミニ事務所を構えている方は、SNSをビジネスに積極活用しているので、拡散力も高い。実際、ある面識もないFPの方が、ブログで書評を書いてくださったり、私の投稿を拡散しまくってくれて、大いに読者層が広がった。おそらくその方経由だけで数十という単位で読まれたと思う。本当にありがたいことだ。

③のbotの存在も、自分で出版してみて、初めて知った。「Kindle無料キャンペーン」といったアカウント名で、期間限定割引中になっているコンテンツを片っ端から投稿するアカウントがたくさんあるのだ。
自分のツイッターアカウントのフォロワーは200~300程度だったので、拡散力には限界がある。タイムライン上のゴミだと思っていた散弾銃のようなbot投稿に、大いに助けてもらった

回りだした好循環

予想を超えたキャンペーンの成功の次、さらに「想定外」が待っていた。
キャンペーン後に迎えた最初の週末から、読み放題サービス「Kindle Unlimited」の読者が爆発的に増えたのだ。

(グラフはKDPアカウントの管理画面のスクショ。この日の既読ページ数は最終的に1万2000に達した)

これは恐らく、こういう経緯だったのだろう。

①無料ランキングTOP5に入ったときに露出が増えた
②有料に戻ってからも、「前編」はTOP100位内をキープしていた
③Amazonのオススメ機能で取り上げられるようになった

この後、Unlimitedの既読ページ(Kindle Edition Normalized Pages=KENP)は終末で1万超、平日でも3000から6000という高原状態が続いた。これは1日に読了ベースで、20部から60部という驚異的なペースだ。
何か、想像外のことが起きていた。

「騎士団長殺し」の殺し方

(記念のスクショ。奇しくも誕生日の出来ごとだった。さりげなく池井戸潤も抜いている)

4月初旬、それまでどうしても抜けなかった村上春樹の「騎士団長殺し」を「おカネの教室」が上回った。これはKindleだけでなく、紙の書籍を含む総合ランキングだ。
ついに、有料コンテンツという土俵で、日本を代表する作家を、個人出版の「変な本」が(わずか数日とはいえ)抜いた。お値段が19分の1という事実を考えても、これは胸のすく達成だった。

3か月弱で5000部突破

最大のネックだった「露出」は、こうして解消された。
Amazonのランキングは、100位以内に入ることが極めて重要だ。書影のサムネイル付きで一覧画面に表示されるからだ。理想的には本全体の総合ランキング、悪くてもカテゴリー別ランキングで100位以内に入っているかどうかは、ストア内の「露出」を大きく左右する。
このあたりの位置につけていると、細分化されたカテゴリー内でトップを取れる可能性も高まる。そうすると、タイトルや書影に「ベストセラー」のタグがつく。これも「売れてる感」を強めてくれる。今は「売れているモノがさらに売れる」時代なので、これも大きなファクターだ。

しかし、好事魔多し。
読者が広がり、レビューも増えて、とんとん拍子だったところに、「爆弾」が落ちた。
1つ星レビューの登場である。

(記念すべき20件目がコレで、かなり凹んだ…)

たかがレビュー1件と侮るなかれ。これを境に、ダウンロード、Unlimitedの読者数も、3割ほどは目に見えて減った
最新レビューで目立つというのはあったにせよ、「こんなに効くのか」と驚いた。

時間がたてば影響は小さくなるだろう、とは思ったが、対策として翌週末に残り2日分、「1000ダウンロード突破記念」として、前編対象に再び無料キャンペーンを打った。結果的に、これが200部ほどがダウンロードされる大成功で、「1つ星」爆弾」のダメージを帳消しにしてくれた。

レビューの増加と並行して、ブログ等で紹介されることも増えて、「露出増→読者数増→露出増」という好循環が綺麗に回りだした
有料・無料のダウンロードとUnlimitedの既読ページは面白いように伸び、5月の半ばごろ、前編・後編の合計部数は5000を突破した。

このころから私は、「これだけ実績があれば、売り込めば紙の書籍で出せるのだはないか」と考えはじめていた。Kindle版を出す時点で、「うまくいえば」と思っていたベストシナリオに現実がついてきていた。
5月末ごろから複数の出版社への接触を始めたのだが、このあたりの経緯は今後の「商業出版編」で詳述する。

部数は6月には累計6500部ほどになっていた。そろそろ日々の販売数やUnlimitedの読者数も落ち着いてきていた。
そこで7月25日には通常価格400円の後編を対象に一気に5日間の無料キャンペーンを打った。これも350部を超える大成功に終わった。

前述したとおり、KDPの無料キャンペーンは1つのコンテンツにつき、5日しか打てない。前編・後編とも枠を使い果たし、あとは自然体で行くしかない。
私はここで、温めていた「奇策」を投入することにした。そこに計算外の突風が吹いて、1万ダウンロード突破という快挙への道が開けるのだった。

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「おカネの教室」ができるまでシリーズ、ご愛読ありがとうございます。
ご興味があれば、総集編1を読んでいただければ幸いです。
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次回はシリーズ2最終回(のはず)、「1万ダウンロード突破」です。

乞うご期待!

無料投稿へのサポートは右から左に「国境なき医師団」に寄付いたします。著者本人への一番のサポートは「スキ」と「拡散」でございます。著書を読んでいただけたら、もっと嬉しゅうございます。