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できる人は失敗しない?

失敗しないことが「できる人」の条件であると考える風潮が世の中にある。

若き日の失敗を糧として頑張り抜き、遂に成功を収めたという人が世の中では人気がある。

違うな……と思う。「できる人」は失敗を失敗と意識しないのである。「できない人」は致命的でない失敗、つまりは取り返しのつく失敗でさえ致命的な失敗だと思って自らを卑下する。失敗を失敗にしてしまうのは、「致命的な失敗だと思って自らを卑下する態度」である。こうした態度に陥ったとき、人は「自分は失敗したのだ」と感じ、周りの人は「ああ、あの人は失敗したのだな」と認知する。事実、世の中には端からはどう見ても失敗の連続に見えるのに、自分で派失敗だと意識することなく、笑顔で、楽しそうに、意気揚々と生きている人たちがいる。そう言う人を見ると、悪くない人生だな……と思う。

致命的でない失敗を致命的な失敗だと勘違いしてしまう人たちに共通して見られるのは、何かをやろうというときにこの手立ては必ずうまく行くはずだと安易に信じ込んでしまう傾向である。必ずうまく行く手立てをもっているとき、人は他の手立ての可能性を考えない。他の可能性を考えないたった一つの手立てで勝負しようとする。だからイチかバチかになってしまう。結果がうまく行くか行かないかの二つしかなくなる。往路の燃料だけで戦場に向かう特攻隊のようなものだ。

小さな失敗を重ねているにも拘わらず、それを失敗だと認識しない人たちに共通して見られるのは、すべての手立てを実験だと考える傾向である。実験には成功も失敗もない。ただ結果があるだけだ。これが成功しなければあれ、あれが成功しなければそれ、しかもこれもあれもそれも必ずデータを取っている。そのデータがその実験対象に対して多角的な分析を生む。多角的な分析は必ず深い分析になるから、だんだん実験の精度が上がっていく。だからその分野では、だんだん小さな失敗さえ少なくなっていく。そんなサイクルが形成される。

でも、こういう人は一つ処に止まっていることは少ない。一つのことに目に見える成果を上げたら、必ず次の分野の開発に目が行く。そこでも幾つもの実験と小さな失敗を繰り返しながら精度を高めていく。数ヶ月から数年単位で常に成果を上げている人たちに共通して見られるのは、こういう構造なのだと思う。

教師も一つの理念・方法にこだわり続けている人には、後に必ず危機が訪れる。最近は社会の変化が激しいから一つの方法の賞味期限がどんどん短くなってきている。一つの理念、一つの方法にこだわり続け、それ以外を学んでこなかったから二の矢、三の矢をもっていない。心細くなって、自分が学んできた理念・方法は間違っていたのではないかと落ち込み、遂には自分の人生は間違っていたのではないかと落ち込む。早期退職を選ぶ者さえ少なくない。でも、その人生が間違っていたとすれば、それは往路の燃料だけで突進し続けたことであって、その理念・方法を学ぶことに意味がなかったわけではない。その理念、その方法と同じくらい価値のある理念・方法がたくさんあったのに、それらを学ぶことを怠ったこと、それらを学ぶことの必要性に気づかなかったことが敗因だったのである。

最近、僕と同世代の、四十代後半から五十代の実践家が教育書コーナーを賑わせている。僕も長年教師を続けてきて、しかも民間教育の動きのなかで過ごしてきたので彼らの多くと若い頃から面識があったけれど、彼らの多くは若い頃にみんな「ミーハー」でちょっぴり「おたく」という共通点があったように思う。もちろん僕を含めてである。「ミーハー」だからあれもこれもと次から次へと手を出す。ちょっぴり「おたく」だから「これこそは!」なんて短期間だけ没頭する。でも、すぐに飽きる。そしてそんな熱しやすく醒めやすい自分をお茶目だと肯定している。だから自己肯定を旨とし、深刻な自己否定に陥らない。そんな人たちであったように思う(中には赤坂真二のように筋金入りの「おたく」も少数だがいるにはいる・笑)。

僕らが若い頃といえば、ちょうど「教育技術の法則化運動」が隆盛を極めていた頃で、民間教育に興味を抱いている若手教師たちは、法則化運動にどっぷりつかる者と外から眺めて摘み食いする者とに二分された経緯がある。現在、教育書コーナーを賑わしているのは明らかに後者の人たちである。彼らは法則化運動の価値も意義も理解したうえで、「でも、自己否定から出発するのはいやだな…」とか「法則化だけから学べと言われるとちょっとな…」とか、そんな程度で法則化運動に与しなかった者たちだったように思う。小さな失敗を繰り返しながらも、そんな失敗をも含めて自分自身の在り方を楽しめる、それを価値としているような人たちだったようにも思う。

失敗する自分を愉しめるようになったら一流……。そんな人生観が僕らの世代にはある。

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