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ソニック・ユースの『TV SHIT』を語る

前にソニック・ユースの『Daydream Nation』のことを書いた際に、冒頭で「ソニック・ユースのディスコグラフィーをいまから極めようと思ってもかなり難しいのではないかと思う。と書いた。

彼らは活動初期こそインディー・レーベルからアルバムをリリースしていたが、1990年からはメジャー・レーベルのゲフィン・レコードに移籍している。インディーからメジャーというのであれば、同じようなミュージシャンはごまんといる。ソニック・ユースがユニークなのは、メジャー移籍後も自分たちでレーベルを立ち上げて様々な作品を出している点であり、それをゲフィンから容認されていたことだ。90年代からSonic Death、Goofin’、SYRといったレーベルを立ち上げ、それぞれに特色を持たせたリリースを行ってきた。

そして、メンバーのひとり、サーストン・ムーアはさらにEcstatic Peace!というレーベルも持っていて、そこからリリースされたのが今回取り上げる『TV Shit』だ。これは4曲入りのEPで、収録時間がわずか10分。そして、入っている音楽はというとこんな感じだ。

  1. No II, Part1

  2. No II, Part2

  3. No II, Part3

  4. No II, Part4

間違いなくほとんどの人が嫌悪を示すだろう。荒々しいノイズと叫んでいるだけで、知らない人が聴いたら頭おかしい奴らと思うに違いない。

俺にとってはソニック・ユース関連の音源でも5本の指に入るぐらいの好きな作品ではあるけど。

これはライヴ音源で、1992年のツアーの中で披露されたもの。ゲストにボアダムズの山塚アイも参加していて、サーストンと共に絶叫している。上に貼った"Part1”ではダイナソーJr.のJ・マスシスも参加している。92年ということはアルバムでいうと『Dirty』の時のものだ。

そしてこれ、ただ絶叫しているだけのように聴こえるが、実はカバー曲なのである。”Part1"の冒頭でサーストンが「DC Youth Brigadeの1981年の曲『No II』をやる。こんな曲だ!」と言ってから絶叫し始めている。

Youth Brigadeとは、1980年頃のワシントンD.C.のハードコアバンドで、彼らの唯一のEPに収録されている “No Song II” が原曲。元の曲はたった1秒の曲で「No」と言ってるだけ。

これを踏まえてソニック・ユースの方を聴くと、ちゃんと「ノーーーーーッ!」と叫んでいる。原曲も良いし、カバーもクソみたいにカッコいい。これをやるセンスが最高にたまらない。

ちなみに、Youth BrigadeというバンドはL.A.にも存在していて、それを区別するためにこちらはDC Youth Brigadeと呼ばれることが多い。

話を本作に戻すと、この”No II”は1992年の10月15日から24日にかけて、合計5回のライヴのアンコールにて、"Nic Fit"という曲と続けて披露されている。1曲目と2曲目は10月24日のもので、途中が端折られている。3曲目は10月17日で4曲目は不明。本作には4曲すべてに山塚アイが参加しているが、これはボアダムズが前座をやったからだろう。

また余談になるが、"Nic Fit"はUSハードコア・バンドのThe Untochablesの曲で、ソニック・ユースはアルバム『Dirty』でカバーしている。この曲も大好きで、1分ぐらいの曲なので何度も繰り返して聴いてしまうこともある。

アメリカではボアダムズが前座だったが、ソニック・ユースが初来日した1989年2月の同志社大学でのライヴは、ボアダムズの前座として出演したらしい。『TV SHIT』の裏ジャケにはこのような写真がある。

TV SHIT 裏ジャケにある写真

1300円という破格の値段で初来日の彼らを見ることができたなんて、なんて羨ましい。新宿LOFTでも4000円だったというから、『Daydream Nation』のところでも書いたけど、これを見なかったのは本当に一生の不覚だと思う。

もういちど言ってしまうが、ソニック・ユースの作品数あれど、この『TV SHIT』は5本の指に入ってしまうぐらい好きな作品だ。このただ絶叫しているような音源に対してここまで調べて何か書いている人間なんて、地球上探しても稀なんじゃないかと思っている。

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