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誰とも分かち合えなかったオリジナル・ラブの衝撃

中学生で洋楽の沼にハマった俺は「日本人の音楽なんてダセえ!」と、いまでいう中二病のような思考のままハタチを超えた。いや、正確にいうと18歳の時にザ・スターリンを聴いてはいたが、それ以外は全部洋楽だった。だからほとんどの同年代とは音楽の話が合わない。

90年代前半のある日、テレビのCMから魅力的なヴォーカルが聴こえてきた。海に飛び込む西田ひかるの画面の右隅に「Original Love」の文字。それまでに何度か目にしてきたグループ名。良い声だな、そう思った。

それ以前にも「冬物語」というビールのCMで高野寛と田島貴男が出演して「Winter’s Tale」という曲を歌っているのを見ていたので、ちょっとは気になっていた。

数週間後、パチンコ屋の景品に件のCM曲「サンシャイン・ロマンス」のCDシングルを見つけ、久々に勝ったからと交換した。まさかのパチンコの景品が最初のオリジナル・ラブのCDだった。

さらに半年後、今度はドラマの主題歌となった「接吻」という曲をJ-Waveとかで聴くようになり、いよいよ俺は動かざるを得なかった。ちょうどその時に既存の曲を再録音したベスト盤『Sunny Side Of Original Love』がリリースされるというので、地元の百貨店に入っている山野楽器で購入した。

当時、俺がどれだけJ-Popというものを避けていたかというと、『Sunny Side Of Original Love』を買うときに、J-Popのコーナーに入るのをかなり躊躇し、もし友達に見られたらどうしようという気持ちで、そそくさと買って店を後にしたのをいまも覚えている。まるで魂を売った気分だった。きっと若い人からすると理解できないだろうな。

Sunny Side of Original Love (1993, TOSHIBA EMI)
  1. スキャンダル (New Recording)

  2. 接吻(Album Version)

  3. 微笑みについて

  4. Let's Go!

  5. Deeper (New Version)

  6. Deep French Kiss (New Recording)

  7. Wall Flower

  8. Million Secrets Of Jazz (New Recording)

  9. The Venus (New Recording)

  10. Sunshine Romance (New Version)

  11. Let's Go! (Cosmo-Phase Mix)

  12. 月の裏で会いましょう (New Recording)

上で書いたように、ずっと洋楽を聴いて10代を過ごした身としては、アイドル歌謡なんてクソみたいだし、後にJ-Popと呼ばれる類のものはだいたいが洋楽の真似みたいに思っていたし、そうじゃなくても(そのころは)英米に俺の好きな音楽がたくさんあると思っていたので、日本人ミュージシャンについてはまったく知らなかった。

そんな耳で聴いた『Sunny Side Of Original Love』は、1曲目の「スキャンダル」で早くも度肝を抜かれた。同じ年の半年ぐらい前にリリースされていたジャミロクワイの1stアルバム『Emergency On Planet Earth』に共通するものをすぐに感じ取り、「接吻」、「微笑みについて」、「Let’s Go!」と聴き進めていくうちに、日本にもこんなすげえ音楽をやる人がいたんだと思うようになった。それからはテープに録音してどこへ行くにもこのアルバムを聴いていた。

もちろん、田島貴男のヴォーカルにも聴き惚れていた。なんて良い声、そして力強さがあるんだろうと思った。俺が衝撃を受ける場合は大抵ヴォーカルが関わっているような気がする。

それからは短期間で過去のアルバムや、田島が参加していたピチカート・ファイヴのアルバムも買いそろえていったが、次に衝撃を受けるのはさらにその半年後、『風の歌を聴け』というアルバムだった。

風の歌を聴け (1994, TOSHIBA EMI)
  1. The Rover

  2. It’s a Wonderful World

  3. The Best Day Of My Life

  4. 二つの手のように

  5. フィエスタ

  6. 心 ANGEL HEART (album mix)

  7. 時差を駆ける想い

  8. Two Vibrations

  9. Sleepin' Beauty

  10. 朝日のあたる道 AS TIME GOES BY (album mix)

1994年のある日新宿のタワレコに行ったら「オリジナル・ラブ・ニュー・アルバム、x月x日発売」というポップが貼ってあり、サンプル盤がCDウォークマンに入っていて聴けるようになっていた。そんなのいいから、早く出せよ、しかも1ヶ月も先じゃねえか!と思った。もう本当に、そのウォークマンごと奪っていきたいぐらい早く聴きたかった。でもそこではサンプル盤はあえて聴かなかった。

アルバムタイトルは『風の歌を聴け』で、5月だか6月にリリースされるとのこと。それまでに何度も先行シングルの「朝日のあたる道」とカップリングの「心」を聴き、アルバムのリリースを待ち遠しく思っていた。その頃の俺は会社の寮に住んでいて、実家から限られた枚数のCDしか持ってきていなかったので、オリジナル・ラブの他のアルバムを聴いてリリースを待った。

寮の近くのCD屋で『風の歌を聴け』をフラゲし、部屋に戻ってすぐに聴いた。「The Rover」の田島の歌い出しを聴いた瞬間、鳥肌が立った。そして 「It’s a Wonderful World」でのファルセット・ヴォイス。ブラジル風な 「The Best Day of My Life」。この3連発にやられた。すでに『Sunny Side Of Original Love』の時に一度思っていたが、こんな凄い音楽を作る日本人がいたんだ!心の底からそう思った。そして最後の「朝日のあたる道」が終わったとき、俺はとんでもないアルバムを手に入れたんだと思った。それからは毎日のように、仕事が終わって帰ってくるとこのアルバムを聴いていた。

昼夜逆転した生活だったので、朝日が昇った午前中に聴くことが多かった。ジャケットや「The Rover」の作風から、サバンナのような暑さを感じる『風の歌を聴け』は、当時エアコンの無かった部屋で汗をかきながら聴いていた。今でもそのときの風景を思い出すことができる。

だけど俺がいくらこのアルバムに感激しても、何十回と繰り返し聴いても、その当時はこの気持ちを分かち合う人がいなかった。周りは誰もオリジナル・ラブを知らないし、当時付き合っていた女は俺が聴く音楽は「変なのばかり」と言い放ち、ピチカート・ファイヴも拒絶したので、俺はこのアルバムのことは一言も話さなかった。

そんなわけで、この時の衝撃を言葉に表すのはとても難しいのだけど、俺の90年代で最もインパクトのあった出来事というのは、オリジナル・ラブとの出会いだったのだ。そしてそれを当時誰とも分かち合わなかったのは今では正解だと思っている。俺にとってはビッグバン的な出来事、どうせ誰にも理解してもらえないよ。

その後はいまのパートナーと何度もライヴに足を運び、ずっと聴いてきたけど、あることがきっかけでTwitterで田島貴男にブロックされてからは熱が冷めてしまってあまり聴いていない。

個人ブログでもダントツに取り上げてきたのがオリジナル・ラブのことで、2017年にはその時点でのアルバムランキングも書いているので、そちらを見たほうがいろいろ伝わるのではと思う。

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