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【台湾建築雑観】設備工事(その三)

今回は、台湾のガス工事について説明します。
台湾では設備工事について建築ライセンス申請時に、五大幹線工事と言って、給水・排水・強電・弱電・消防設備については、合わせて申請して許可をもらわないといけません。しかし、その中にガス設備が入っていません。
このことの歴史的経緯は調べていませんが、結果として政府が竣工検査をする際にガス設備は検査を必要とされませんし、そのために建築師の設計業務の中にガス設備が含まれていないことになります。建築師が対応すべき業務とは一般的にみなされていません。
ですので、ガス工事は建築本体とは別発注の工事となり、ガス会社に直接発注することになります。そして、その様な工事であるために、工事のやり方にもいろいろな制限が出てきます。

日本のガス設備工事

日本のガス工事は、建築工事全体の中に組み込まれているのが普通です。そのため、ガス工事を全体の中での最適化を図り、一体的に設計・施工することができます。ガス会社からの制限を受けて、彼らの施工方針で計画するといった話はあまり聞きません。

メイン配管工事

日本のガス工事では、一般的には玄関に近接して設けられるガスメーターに向けて、最短距離で配管されます。地下で各住戸の縦配管に直接配管される、あるいは、建物全体でメインとなる縦配管を設け、そこから枝配管を分岐させて各住戸に持って行きます。

メーターボックス

日本では、一般的には玄関脇のメーターボックスに電気、ガス、水道のメーターが集中されて配置されます。そして、共用部から占有部への切り替えが全てこのポイントで行われるという点でも、合理的な計画と考えられます。

室内配管工事

メーターボックスから各住戸へのガス配管は。通常床下空間を用いて行われます。日本の最近の住宅の計画では、コンクリートの上に直接床仕上げを行うことは少なく、耐衝撃性や遮音への考慮から鋼製床組の高床工法が用いられます。この高床のスペースを用いてガス配管は床下で行われます。

厨房機器との接続

上記の様にガス配管が床下で行われるので、厨房機器への接続は、床下から問題なく行うことができます。

給湯器

ガス給湯器は、外廊下形式の建物の場合、玄関脇に設けることが一般的です。廊下が室内になっている場合、給湯器は専有部の外部バルコニーに設けられることになります。そして、給湯器から床下のスペースを使って給湯配管を工事することになります。

メーターの検診

ガスメーターは、玄関脇のメーターボックスに設置されていることがほとんどですので、メーターの検診はガス会社スタッフが共用スペースを通って玄関まで来ればできます。専有部に入る必要はありません。

台湾のガス設備工事

上記に説明したガス設備の概要は、台湾の集合住宅ではガス工事が本体工事に含まれない後工事になることが主な理由となって、日本とは大きく異なります。

メイン配管工事

台湾のガス工事は、本体工事とは別発注になります。そのため、基本主要なガス配管を露出配管として工事する必要があります。
パイプスペースを設けてその中に入れることは基本やりません。ガスのメイン管を繋いでいくために施工上必要なスペースを、隣接部分から30cmとって下さいとの要請があり、それだけの余裕をとって配管するのはとてもスペースのロスになるため、通常外壁の一部分に露出配管で設けることになります。
そしてこの露出配管をいざという時には外部から直接修理ができる様な位置に設けてくださいという要請がガス会社からあります。
この様なことから、台湾のガス工事の様子は日本と大きく違ったものになります。

日本のように、ガス配管を下の階から直接配管していくいう方法は、ガス会社によって認められていません。台湾の高層住宅のガス配管は、いったん最上階までメイン管を上げてから枝管で振り分け、外壁を伝って降ろしていくという全体計画になります。
そして、これを本体工事に組み込まず、後工事で行うことが必要になります。

いったん最上階までメイン管を持って上がることについては、その理由を直接聞いたことはありません。このことは台湾では自明のことなので議論にはならないのです。
想像するところでは、台湾のガス配管工事では、ガス漏れが日常茶飯事で起こる。それを防止するために、パイプスペースの様な密閉度の高いところには配管しない。屋上に持っていくメイン配管は径が大きいので、この配管の精度を高めて密閉度を高めておけば、そこから降ろしていくガス配管は圧を下げることができるし、万一ガス漏れしても屋外で露出配管となっているので安全だということなのでしょう。

壁を伝う露出ガス配管
屋上のメイン配管の展開

メーターボックス

台湾ではガス配管が外部からバルコニーを伝ってきます。ですのでメーターボックスを日本の様に玄関脇に置くことができません。通常外部バルコニーの一部に設けられています。

バルコニーの壁面に設置されたガスメーター

室内配管工事

外部バルコニーから露出配管で室内に取り込み、それを厨房器具に取り付けるというのが台湾のガス配管工事になります。そして、それが建物が完成した後の工事になるわけです。
通常は、バルコニーを厨房に面して配置しますので、ガス配管は直接厨房に引き込むことになります。その引込み位置は天井裏であったり、床に近い壁面であったりします。いずれにしろガス会社が後工事で施工できる位置に考えておかないといけません。

厨房器具との接続

また、台湾の室内内装工事は、コンクリート床に直接タイルを貼るというのがデフォルトなので、日本の様に高床の中にガスを仕込むということができません。厨房の壁面からガス管を取り込み厨房器具につなぎます。この時、ガスコンロがちょうど壁面近くにあれば、直接厨房器具の中に配管を取り込めて都合が良いのですが、壁面から離れている場合は室内を露出配管することになります。
これは意匠的にとても見苦しく、印象的にもガス配管が直接見えるので好ましくないのですが、ガス工事が後工事になることから、場合により避けられないことになります。

給湯器

給湯器は通常バルコニーに設けられます。そこからの給湯配管は、天井内のスペースを使って必要な諸室に引き込まれます。

メーターの検診

その様な給湯器の配置ですので、ガスの使用量の検診をガス会社のスタッフが直接行うことができません。そのため、住人がガスメーターを見て自己申告をし、それに基づいてガス会社が請求書を作成するということになります。

高層建物のガス使用制限

高層建物では、オープンキッチンとする場合はガスを用いることが禁止されています。防火区画された厨房であればガスを用いても構いません。
ですので面積の小さなユニットで、オープンキッチンとする様な場合、厨房器具はIHヒーターとして計画する必要があります。

日本のガス工事には、この様な厨房を防火区画しなければならないという制限はありません。ガスを使うか、IHヒーターにするかはディベロッパーないしはユーザーが決めることができます。

台湾のガス工事の規定の背景

この様に、台湾のガス工事は日本のものと大きく異なります。工事の内容として本体に含まれない別途工事となること以外に、ガス配管工事の信頼性が不充分であることからくる、様々な制約のもとにあるのだと理解しています。

逆に台湾のガス工事の視点から見ると、日本では何故地上からの直接配管が可能なのか、厨房を防火区画する必要がないのか、ということになりますが、これはそれだけ日本のガス工事の信頼性が高く、ガス漏れ警報器をつけておけば、十分予防が可能だと判断されているということなのでしょう。

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