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"南"に関する妄想

住宅に関する考察の中で、日本の住宅は南が起源、中国人の伝統的な住宅は北が起源という話を書きました。この様な説明をしたのは、日本の建築研究者による東南アジアの伝統的な建物と日本の古来の建築様式に関する比較検討の本を読んだからです。

この様な考えを持っていたので、ある時甲骨文字の"南"の形を見て閃きました。この文字はもしかすると、南方の建築様式を表しているのではないか?

南方の建物の特徴

前回の投稿のうち、南方の建物の特徴を整理します。

  1. 木造による架構で構造が成立している。

  2. 床を地面から持ち上げて、高床式になっている

これらに合わせて、東南アジアの伝統建築と、日本の伝統的な建物には、屋根の頂部に斜めの部材(千木と呼ばれています。)が交差して組まれているという特徴があります。

ラオスの民家

下記の写真は、ラオスで現在でも見られる、民家の様式だそうです。上記の特徴をよく表しています。

ラオスの民家

神明造

下の図は神明造という日本古来の神社の様式を表した図面です。この立面を見ると東南アジアの建物との建築様式の類似性が、視覚的によく分かると思います。

下の立面図に千木が見えます。

古代の"南"の漢字の字形

これらの特徴を頭に入れて、見出しに使っている"南"の甲骨文字を見てみて下さい。この形はこの南方の家を表している様に見えませんでしょうか?

下部に木造の架構が表現され、床らしき部分が、地面から持ち上げられて描かれています。上部には交差した飾りの様なものが載っており、これは文字によっては勾配屋根の一部に見えます。

金文と甲骨文字による"南"

この形は、金文になるとよりシンプルになり様式化が進み。屋根の形には見えなくなっていますが、頂部に十字形の飾りが載っている様に描かれ、それは現在の"南"の文字にも受け継がれています。

南の字形に関する過去の言説

この様なアイデアがふと閃いたので、過去の研究では南という漢字の成り立ちについてどの様な説明がされているのか調べてみました。

白川静

碩学の漢字の研究者である白川静氏は、多くの漢字を古代の呪術的な慣習から読み解いています。
"南"については、苗族の楽器を表現したものとしています。

中国における諸説

中国では、南の文字の成り立ちに関する定説はまだないと下記のHPに書かれています。

また、下記の様な説明が一般的だと思われるので、訳出してみます。

「南(拼音:nán)是漢語常用字,此字始見於商代甲骨文。南字本義不詳,在殷墟卜辭中已借用為方位詞,即早晨面對太陽,右手的一邊,與“北”相對。引申指南方的地區或國家。又指古代南方少數民族的音樂。」

「南は中国語でよく使われる文字である。この文字は商(殷)代の甲骨文字にすでに見られる。南の文字の原義は不明であるが、殷墟の卜辭には方位を示す文字として使われている。即ち、朝太陽に向かって立った場合、右手にあたる方向のことで、"北"に相対している。従って、南という方角や南にある国家を指していたのであろう。また、古代南方の少数民族の音楽を指しているという説もある。」

上記の様な説明ですので、南方の住居のこととする説はない様子です。

ですので、初めに書いた"南"という文字は、南方の建築の様式を表しているのではないかという説は、僕の妄想としてとどめておきます。


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