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イントラプレナーのイノベーションの起こし方 〜ミスター電子コンパス 山下昌哉氏に聞く #夜活新規事業

clubhouseで毎晩開催中の #夜活新規事業 で、旭化成のミスター電子コンパス 山下昌哉氏をゲストに、イントラプレナーのイノベーションの起こし方についてお伺いしました。

通常はclubhouseの規約通り録音禁止・メモ禁止で運用しておりますが、非常に学びの大きい内容でしたので、山下氏の許可をいただき、特別に公開させていただきます。

▼clubhouse主催のfacebook group「IntraStar」
https://www.facebook.com/groups/intrastar

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山下 昌哉
MASAYA YAMASHITA

旭化成株式会社
シニアイントラプレナー/イノベーションアーキテクト

1955年岡山県生まれ。82年東京大学大学院物理工学専攻博士課程修了。旭化成工業(現旭化成)入社。MRI・リチウムイオン電池(LIB)の開発・事業化に従事。2000年から電子コンパスの開発を始め、03年の事業化以降、世界トップメーカーとして市場拡大に貢献した。08年Android OS、09年iOSのスマートフォンに同社電子コンパスが標準搭載されたことで、事業としても急成長した。12年全国発明表彰恩賜発明賞、15年春の紫綬褒章。

https://www.asahi-kasei.com/jp/asahikasei-brands/interview/yamashita/

✔︎技術起点/顧客起点よりも"社会課題起点"

・新聞に載っているニュースが始まり
・携帯電話が普及すると、110/119のレスポンスタイムが伸びる。原因は位置が特定できないこと
・アメリカはそれに対して、携帯電話会社に位置制度50mの情報を発信するものを発売しろという規制をかけた
・車にしか積んでいなかった大型のGPSを、小さいアンテナにしてを載せようとしていた

✔︎「自分たちの会社では何か絡めるか?」を考える

・ニュースに対して「何かできそうだ」という感覚を感じたら、自分たちの会社で何ができるかを考える
・小さな事業で、世界的に大規模に事業展開しているところには勝てない→一捻りする必要がある

✔︎一捻りは「顧客」で考える

・顧客側からみれば10年20年に1回ぐらいしか、110番/119番はかけない
・それでもGPSのっけましょうという流れは進む。それじゃあGPSは勿体無い
・GPSを使ってビジネス化しようと考え、ナビゲーションに至った
・カーナビはGPSでなんとかなるが、歩行者ならコンパスがいるぞ
・車ならある程度方向は予測できる。歩行者には方向が必要

✔︎アイデアの実現性を「(技術屋の)常識の否定」から考える

・高感度センサーを持っている人たちなら「自分たちに技術があって、事業化しよう」と考える
・じゃあ高感度センサーを持っていない自分たちなら?高感度センサーを開発する?
・高感度センサーの大きな市場が花を開く可能性はあり、会社がそこに飛び込もうとしているが、それは無駄だと思った
・街の中でナビゲーションするのに、街は鉄でできている。針のコンパスは、街の中で使えるのか?北はわからないのではないか?
・技術屋は「いい製品=感度がいいセンサー」と考える
・「感度が良くても役に立たない」のではないか、というのが最初の起点になった
・「携帯電話に入れる=センサーを小さくする=弱い磁気を測れ」というのがテーマにもかかわらず「高感度のセンサーが役に立たない」可能性に気付いた

✔︎パラダイムシフトは現場で起こる

・最初はテーマそのものを否定しようとしたのが出発点。それは無駄だ、と
・実際に、針のコンパスを持って、街に出た
・思ったよりも意外に北を向いていた。しかし、ちゃんと北は向いてない。若干乱れている
1m動くと20°動く場所がある
・「使えないと思ったけど、使えそう」と気づいたのが、イノベーションに至る最初のきっかけ

✔︎パラダイムシフト=提供価値のリフレーミング

・で、高感度センサーにいったら、みんなと同じ。何が違うか。街の中で測った・・・高感度に測る必要がない。大体わかればいいということに気付いた
・「北の方向を知る」のがテーマではなく「道案内」がテーマだから。±45°間違えなければ90°の道は間違えない
・「価値の基準」が違うから、「課題設定」を引き直した
・「センサー」だから「感度」という考えが出てくる。「道案内」という機能だから「電子コンパス」といおう

✔︎コーポレートフィットはイノベーションに必要不可欠

・旭化成に技術があったから、正式な会議の場には上がった
・全然無ければ会議には上がっていないだろう

✔︎良いUXは「顧客に意識されないUX」

・足りないのは補正技術だった。センサーの近くにスピーカなどの大きな磁石がある。1000倍の磁場が横でフラフラ動くことに対して、補正する必要がある
・最後に使うのは女子高生。マニュアルを読まない人が、道案内に使う。キャリブレーションなんかしない
・ソフトウェアのアルゴリズムで、自動的にキャリブレーションするようにした。最後のユーザは、気にしないで普通に携帯電話を使えば、自然な動作で勝手にキャリブレーションするようにした
・UXを快適にしないと、誰も喜ばない。それをどうやって達成するのか
・課題をUXに置き換えて考えるができたかどうかが、イノベーションに繋がるかどうかの鍵になる

✔︎シーズプッシュ+ニーズプル

・「プロダクトアウト」「シーズアウト」。その反対は「マーケットイン」?いや、それらはみている視点が違うだけで、視線は同じ方向を向いている
・シーズプッシュ+ニーズプルの考え方にシフトした。視座が違う。自分がいる場所が違う
- シーズプッシュ:自分側。技術を出していく側
- ニーズプル:顧客側。こういうものが欲しいという側
・シーズプッシュを起点に考えたとしても、ずっとシーズプッシュだっていうのはありえない。誰か聞いた人がニーズプルで見たらこうだよね、ということを言わないといけない。行ったり来たりしないと1つにまとまらない
・技術起点・顧客起点などというように、どちらかに分類できると思うことが変。技術とニーズの見方が一致するように、製品を提供するのだから、どっちかと分類することはできない
・テーマが成り立つ頃にはどっちが先かよくわからなくなるはずだ

✔︎「顧客のところに聞きにいく」のではない

・新しいものは、顧客さえ使ったことも見たこともないものを作ることになる
・顧客のところにどんなにいったって、見たこともないから、答えられない
・顧客に「何が欲しいですか」と聞いても何も答えは返ってこない
・「顧客のところにいく」ではなく、どこでどう使うのか、を考えなければならない
・技術者の方が、感覚的に、何が「新しい」のかがわかるはず
・顧客のところにいって、そういうものを機能として提供したら、どう反応するのか、というところは技術者目線ではないことで聞いていかないといけない

✔︎未来へのシナリオを妄想する

・技術が実現した世界がどうなっているか
・周辺では何が起こっているのかという世界観を、自分なりに描けないといけない
・100人に聞いて3〜5人が「ああ」と思ってくれれば大成功
・ステレオグラムに近い。普通は見えない。一部の人だけが見える。練習していけば見えるようにある。でも一瞬さえ見えないと、コツを教えらても何を言ってるかわからない。この最初の気付きと同じ感覚

✔︎どんなものがいつ頃できそうかを想定する

・どんなものがいつ頃までにできそうか、という感覚を持つ。いつ頃に提供できたら、何が起こるか、というのが考えられるのは技術者だけ
・どんなに優れたマーケターにでも、わからない。技術をやっている人しかわからない

✔︎岸で波を待たない。波をどうやって起こすかを考えて動く

・成功するためにはタイミングは重要
・狙ったようにはいかない。研究も思ったようには進まない
・しかし、いろんな社会情勢からいって、そういうものが必要になる時代が来るはずだ、という周辺から抑えていって、10-20年後でも2-3年後でもないよねというときに、自分たちが合わせにいく
・その時遅いのはダメ。ピッタリを狙うのではなく、少し早めに技術開発を進めていく
・市場を立ち上げにいく。技術開発の目処がついてきたら、できたときに市場が立ち上がっていない時には、世界を動かさないといけないからアプローチをして、立ち上がるように自分たちに引き寄せる活動をしなければならない
・うまくいくかわからないけど、一か八かにかけるよりは、市場を立ち上げに行った方が確率は高い
・市場が立ち上がりそうだな、という実感は得られるから、それで開発スピードを早めたり遅めたりはできる

✔︎沖に出て波を待つ。その予兆は沖でしかわからない

・デモ機を何度も携帯メーカーに持っていっていた。細かくUXの改良を行い、見せていた
・それがキャリアにも情報が伝わってもいた。キャリアからの情報も間接的にも伝わっていた
で、手応えがあった
・設計始まりました。開発始まりました。という情報を細かく入れていったら、来年の携帯にのせるという話になった
・その後、アプリケーションデモを作って、自分たちのものだけじゃなく業界盛り上げましょう、として、展示会出したり、キャリアに見せたりした
・それがGoogleに伝わって、Androidに乗っかった。で、Androidに標準搭載されることになった
・指咥えて待っていたのではない。顧客のところに足繁く通うことによって、波の起きる予兆を掴むことができた

✔︎売り上げが上がらなくても、イケると判断できるKPIを持つ

・電子コンパス・プロジェクトの一年目は、コンセプトを作ってただけ。二年目がデモ機を1台だけ作って、携帯電話メーカーに話にいった。三年目に実際の設計、開発が始まって15ヶ月後に出荷が始まった。
・売るのはコンパスというハードウェアだが、ソフトウェアとセットにした
・ソフトウェアだから、使用許諾のライセンス契約が必要。評価しようとするメーカーは、その契約を結ばなければ、サンプル評価できない
・ものが売れてなくても、先にソフトウェアの契約が積み上がる
・そのメーカーが先に増えていく。世界中で。ものすごい手応え
・売り上げは下がっているのに、契約が上がっていく。どっかでこれ行くよねという手応えを感じていた
・営業が「ライセンス契約」しかやってなかった。興味深くやってくれたし、そこで顧客と話をする機会ができるから、ついでに別のものを売っていたので、ベースの営業活動にプラスにはなっていた

✔︎顧客からのネガティブな反応にこそ、インサイトがある

・顧客が何かを言った時の、表情、アクションが知りたい
・「それいいね」と言わせたいわけじゃない。それだけじゃプラスで得られるものがない
・「うまくいかないんですよ」と話した時の反応として、「そんなんじゃ使えないよ」とか「そりゃダメだよ、こういうことがおこるから」ということが知りたい
・顧客の目線だけでしかわからないこと、ダメだと思う理由が知りたい。なんでダメかを自慢げに教えて欲しい。それが解決策につながる

✔︎モックが実現可能性を理解しやすくする

・デモ機を作って、センサー(弁当箱サイズ)+ソフトウェア(ノートパソコン)で、針のコンパスを動かすところまでは作った
・デモ機が製品として組み上がるということが見えた
・設計チームは当初、スペックシートがなければ設計できないと言っていた
・このままでいいからセンサーと回路を作って、ソフトウェアはあるし、というのがデモ機で伝わった
・客に見せる、内部の開発に見せる、という意味で、デモ機は意味がある。開発目標が見える化する
・やる機能はデモ機が実現している。小さく設計するのは設計者の仕事。ごちゃごちゃ言わずにこれ作ってよ、といえる

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