月夜につながる

「電話、もうこないかと思った」
「心配させたかな」
「心配はしてない、不安だっただけ。私、あなたが思ってるほど優しくないのよ」
「知ってるよ。僕なんかに付き合ってくれてるんだから」
「今どこにいるの?」
「月のきれいなところ」
「そう」
「元気?」
「何も変わってないわ。本当に何も。寝る時間が少し早くなっただけ」
「それは健康的でいいね」
「プレゼントが健康っていうのはまだ早いんじゃないかしら」
「そうかな。何よりも大切なことだと思うけど」
「眠るとあなたに会えるのよ」
「夢の中の僕はどう?」
「分からない。あなたの顔を知らないもの」
「それもそうか」
「目が覚めるとあなたがいたことだけを覚えているの。…ねぇあなたの夢に私はいる?」
「残念ながら」
「そういうときはウソでもいるって言うものよ」
「ウソがほしいの?」
「あなたがほしい」
「…」
「ねぇ次は、いつ、電話くれる?」
「いつかな。また月のきれいな夜に、君の声が聞きたくなったら」
「…」
「待っている必要はないんだよ。君は優しくないんだから、僕のことなんか忘れて、いまを生きればいい」
「…優しくないからあなたくらいしか相手にしてくれないんじゃない」
「優しくないもの同士、お似合いなのかな」
「あなたは優しいわ。とびっきり」
「買い被りすぎだよ。僕はちっとも優しくない。いまだにこうやって、君をつないでる。それも逃げ道をちらつかせながら。とんだ悪党だ」
「それがうれしいんだもの。私もおんなじよ」
「共犯者かな」
「そんな大層なものじゃない。あなたが私を、私があなたを捕まえて、…カゴに入れて、鎖でつないで、お互いカギはなくしちゃった」
「なくした? 壊したじゃなくて?」
「さぁ、どうかしら。例え話に質問をしないで」
「ごめんね、…あぁ、もう切らなきゃ。それじゃあおやすみ」
「おやすみなさい。ねぇ…」
「…どうか君が、夢にまで囚われず、ぐっすり眠れますように」