人が生きる意味

「人が生きてる意味ってなんだと思う?」
「え?」
「人が、この地球上で生きている意味だ。存在している理由といってもいい」
「どういうこと?」
「だって植物は光合成をして酸素を作るだろ? 動物は食物連鎖に則って、生命の理として正しく循環している。それじゃあ人間は? 最上位の生き物を気取って、自分の腹を満たす以上の搾取を繰り返す。自然を破壊し、自分たちだけが住みやすいように作り替えてしまう。すべては地球のためではなく、人間というたった1種族のためだけに。そんな自己中心的で傲慢な生き物がどうしてこうも大量に存在するんだろう?」
「ひとりでは生きられないからでしょ」
「は?」
「人間は寂しがり屋で臆病で、ひとりでは生きられないから増えたんだよ」
「…へぇ?」
「始まりは知らないけどさ、何の気まぐれか人間という生き物が生まれてしまって、そうしてしばらく生きられる程度の運と強さを持っていた。だけど気付いたんだ、感じてしまったんだ、人間は。寂しさと恐怖に。だから家族を生み出した。だから武器を作り出した。だから城塞を築きだした。人間はさ、はなから地球のためになんて生きていない。人間は人間のために生きているんだ」
「それが許されるとでも?」
「許す許さないの問題じゃないんだよ。だってそうじゃないと生きられないんだから。そして死ぬのは怖いんだから。君だってそうだろう?」
「俺が?」
「ひとりで生きられるかい?」
「もちろん」
「それじゃあひとりで生きたことがあるかい」
「ないね、まだ」
「生きられないからだよ、ひとりでは。本能はそれを知っているから、ひとりで生きてしまわないように他人を求めるんだ」
「…」
「生き物の声がひとつもしない洞窟の中に入ったことはある? 陽の光が届かない海深くまで潜ったことは? すべての感覚を麻痺させる霧の中へ迷い込んだことは? 一度やってみるといい。きっと数分も保たない」
「経験があるような言い方だな」
「似たようなものはね、自慢することでもないけど。とにかく、他人の温もりを体温調整以外の目的で求めるのは人間くらいのものだと思うんだ。そんなこと言うと、ペットを家族と称する人々に反感を買いそうだけど、あれだって結局は人間の主観でしかないからね。だれか動物と話したことのある人がいるのかってことだよ。理想を押し付けているだけさ」
「…」
「君が質問したくせに僕ばっかりがしゃべってる」
「…」
「君の望む答えは返せたかな」
「だから結局、人の生まれた意味は何なんだ」
「さっき答えただろう?」
「何も為していないじゃないか。何も価値がないじゃないか。何の役割も与えられていないじゃないか」
「何を言ってるんだか」
「人は、何のために生きているんだ…」
「…あぁそうか、君は自分が生きている理由を知りたいんだ。なら初めからそう聞いてくれればいいのに。ずいぶんと余計な話をしてしまったよ」
「…俺が生きている意味は何なんだ」
「こうして僕の隣にいることだよ。僕が望んだから君はこの世に生まれて、僕が望むから、君は僕とともに生きるんだ。それ以上でも以下でもない。意味が欲しいなら教えてあげる。役割が欲しいなら与えてあげる。価値が欲しいなら認めてあげる。君は僕を生かす命だ。君がいるから、僕がいるんだよ」