君が生きる幸せな世界

「あなたは大きいね」
「お前が小さいんだ」
「ふさふさしていてあたたかそう」
「毛皮がなくて寒くないのか」
「お洋服を着ているから大丈夫よ」
「布をまとうなんて窮屈だな」
「あなたはそのままですてきだもの」
「お前はどんな姿でも好ましいが」
「あなたと私はすべてが違う」
「人から見ればそうなのだろう」
「あなたはそう思わないの?」
「目に見えるものだけがすべてじゃない」
「心が一緒なのはうれしいわ」
「まったく同じではつまらんが」
「違っても良いと思ってくれるの?」
「違うから良いと思っているんだ」
「私たちは一緒にいるべきではないって」
「誰かに言われたのか」
「どうしよう」
「お前はどうしたい」
「みんなと仲良く暮らしたい」
「そうだな」
「もちろんあなたも一緒よ?」
「そうか」
「どうしてみんなダメだと言うの?」
「お前と私が違うからだ」
「だけど同じ心を持っている。それに私はあなたが好きだわ」
「それだけではままならないんだろう」
「家族も好きよ。友だちも好き。隣の家のおばあさんだって小さい頃から仲良しなの。好きな人と一緒にいてはいけないの?」
「そこに私が入ることを良しとしないだけだ。お前の心が悪いのではない」
「みんなあなたのことをよく知らないからよ。もっとおしゃべりすればきっと」
「そうかもしれないな」
「そんなことないと思っているわね」
「どうして分かる」
「そういう顔してるもの」
「私はお前から奪いたくない。何ひとつも。お前の心のひと欠片でさえも」
「私だって…」
「だから与えよう。お前に、幸せを。好きな者とともにある未来を。…私と出会う前の穏やかで優しい日々を。私が愛するお前を作り上げた、かつての愛おしい世界を」
「何をするの?」
「そう怯えるな。戻るだけだ。お前が私と出会う前のお前に」
「いやよ。あなたを忘れるなんて。あなたのことを好きではない私なんて、そんなの私じゃない」
「たとえ私を忘れていても、お前は私の愛するただひとりの存在だ。何度も言わせるな。お前はどんな姿でも好ましい」