ぼくのMacintosh事始め

 1993年に発売されたApple Computerの「Color Classic」。これが、ぼくが初めて買ったパソコンです。今でもまだ生きてますよ。もう現役とは言えないかも知れないけれど、ぼくの目の前でスタンバイ、いつでも起動の時を待っています。

 パソコンって、当時はずいぶん高い買い物でした。今は安くなりましたがね。情報量も多くなっちゃったし、つい衝動買い、なんてこともあるんじゃない? 当時のぼくはそんなわけにはいかなかった。失敗したくなかったから、買う前にずいぶん勉強したものです。今思えばそれがよかったんですね。

 ぼくはまず、パソコン雑誌を読むことから始めました。最初に買ったのは、初心者でも読める程度の記事がのっている、薄めの総合誌です。初心者でも読めるといっても、何しろパソコンを持ってないし触ったこともないんだから(ワープロ専用機は数年前から使っていたけれど)、はじめはちんぷんかんぷんでしたね。

 それでも半年近く読み続けて、分かったことがありました。それは、「パソコンを選ぶというのはOSを選ぶこと」なんだってこと。まあ当時の話ですから、具体的には、「MS-DOS(Windows3.1)」か「Macintosh」かってことですが。

 こうなると、いやしくも芸術系のぼくの選択肢は自ずから定まってきます。ユーザーインターフェースの巧拙・美醜がすべてですよ。同じようなことができるからといって、不器用で醜いものとつきあう気にはなれません。実際に手にする前から、Macintoshはクリエイティブな仕事をする人間のためのツールと識れました(こんな書き方をすると、おまえなんか何を使ったって同じだ、って揶揄されそうですが)。

 OSが決まればあとはどの機種にするかの選択です。マック専門誌を併読して研究しました。モノクロ16階調のClassic IIでさえ二十数万の値が付いていた時代です。なかなか踏ん切りがつきません。でも、思い悩んでるうちに、な、なんと、カラー一体型の安価なマックが発売されることに! うれしかった……。

 その頃ぼくは山形市内の工場に勤務していて、調べてみると近くにマックを扱うお店があることが分かりました。さっそく予約を入れ、発売と同時に手に入れたのがColor Classicです。メモリーをめいっぱい(といっても10MB)増設し、モノクロのプリンター(StyleWriter)、ワープロソフト(ワルツワード)とお絵かきソフト(キッドピクス)も買いました。

 Color Classicは画面も小さいし(12インチ)非力です。それでもずいぶん活躍してくれました。ワープロを使った文書づくりはもちろん、後に買った計算ソフト(Mariner-J)では業務上の集計作業、それからパソコン通信、果てはインターネットに到るまで、今とほとんど変わりない作業を、窮屈を感じながらもこなしていきました。

 パソコンを始めて最初の2〜3年、ぼくがとくに熱心に取り組んだことがあります。それは何かといえば、スタック作りです。スタックと言っても、マックユーザー、それも少し古いマックユーザーしか分からないかもしれませんね。最近のマックにはプレインストールされていないようですから。

 スタックというのは、HyperCardというApple社のアプリケーションで作成したオリジナルのソフト作品のこと。体裁はカード型のデータベースソフトのようなもので、とびっきり自由度が高く、絵を描いたり音楽をならしたりゲームソフトを作ったり……。敷居の低いプログラミング、あるいはサンプルやたくさん出回っている他のスタックからのコピー&ペーストで自前のソフトが作れてしまう。

 ぼくも参考書を片手にずいぶん作りましたよ。そのうちのいくつかは、今でも役にたっています。「クレームノート」とかね。使うだけではなくて作る喜びをぼくに教えてくれた、いかにもマックらしいソフトです。ちなみに、ぼくが一番感動したゲームソフトの「夏休み」はハイパーカード・スタックでした。あの名作アドベンチャーゲームの「Myst」も、オリジナルはスタックだったはずです。

 「マック貧乏」って言葉があるの、知ってます? 一度マックに魅せられてしまうと──妻子を質に置いても!?──新機種を買い続け、お金が貯まる暇がない。どうやらぼくもその筋だったようで、8年ばかりの間に5台のマックを買い求めました。安いものばかりだけれど、いまだにみな現役、もしくは準現役です。
 アプリケーションも買いましたね。ワープロソフトだけでも8種類……かな? それでいて、今ぼくのメインの機種になっているiBookには、たとえばワープロソフトはひとつだけ(Nisus Writer)。しかもあまり使ってないんですよ、これ。YooEditなどのエディタ、統合ソフトの「AppleWorks 6」でほとんど用が足せるから。いっぱいあったって、こんなモンです。

 Appleという会社のすばらしいところは、ぼくたちに未来のビジョンを示してくれるところです。ただモノを売るだけの会社じゃないんだね。

 1月9日から12日までサンフランシスコで開かれた「Macworld Conference & Expo/San Francisco 2001」の基調講演で、Apple CEOのSteve Jobsは〈マックはデジタル生活様式のハブになる〉と語ったそうです。さもありなん。今でさえぼくは、iBookで本を買ったり読んだり作ったりしている。お気に入りの音楽をプレイリストに登録しては夜ごと飽きもせずに聴きいるし、銀行や証券会社の窓口もiBook。必要な情報のかなりの部分が、iBookを通して出たり入ったりしています。いつの間にか、ぼくの生活の中心にマックがいたってわけだ。ハブだよね、これって。

 それにしても、Color Classicをはじめて触ったときの感動からずいぶん遠いところまで来てしまったものです。といってマックとぼくとの関係が変わったわけじゃない。あの頃もそして今も、Macintoshはぼくと一緒に人生を歩いてくれています。パソコンを手にすることは未来を手に入れることだ──これが、少しばかり先にデジタルライフを歩いている(かもしれない)ぼくからの、ビギナーのみなさんへのアドバイス。この場合のパソコンはMacintoshのことだから、念のため(^_^)。(2001.1.12)

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