藤沢周平の世界に浸る

 『蝉しぐれ』以来すっかり藤沢周平ファンになってしまい、彼の小説をつぎつぎに読み漁っている僕。ありますよね、こんなことって。学生時代なら漱石とか鴎外、外国文学ではヘッセとかジッド。最近では、パーカーかな。
 本と人のかかわりって、いろいろな時期があると思うんですよ。僕の場合でも、乱読の時期もあれば積ん読の時期もあった。面白くもない本を嫌々読んでいた事もあれば、数年間ほとんど本を読まない時期だって……。今は、好きな人の好きな本を少しずつ読み進めてる──精読とまでは行かないけど──時期かな。
 自称本好きの僕がそうだったから、学校なんかで子供たちが読書の数量を競っているのをみると、ちょっと違うんじゃない? って言いたくなってくるんです。本は、いつでも誰でもたくさん読まなきゃならないってもんじゃないと思う。人間の成長に応じた接し方があるんですって。第一、本読みが偉いって誰が言った? 馬鹿な読書家もいれば、本なんかちっとも読まなくたって立派な人間もいるんです。
 とはいえ僕が今まで本好きでこれたのは、本のなかに慰め、癒しを見い出してきたから。本のなかに広がる安らぎと希望は、少なくとも僕にとっては、これがなくては生きて行けない、と思わせるほどのものです。
 藤沢さんの世界も、慰めに満ちていますね。美しくきめ細やかな自然描写が、古き良き日本の故郷の光と空気を感じさせるし、登場人物たちは男は男らしく、女は女らしく、各々の運命に弄ばれながらも凛々しく立ち居ふるまう。そしてわずかに許された、一時の官能。
 虜だぜ、これは。だって藤沢さんの小説には、僕自身の青春まで詰め込まれている感じがするんだもん。読書の醍醐味ここに極まれり……か。(1997.7.16)

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