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On Cue: Sully (和訳)


On CueのMixでスリリングで無限の可能性を持つブレイクビーツを讃え、SullyがOver/Shadowからのリリース、ジャングルに傾倒していった経緯や彼とDubstepの関係性、そしてポストロックやThe Cureが彼の緻密なサウンドクリエイトに与えた影響について語る。



現在のUKジャングルシーンにおいてSullyの名は最も重要なものとなっている。
2000年代後半のPost Dubstepのシーンで頭角を表してから彼は初期のLeftfield Garage、そしてコンテンポラリーなJungleにシフトし、他のアーティストに一歩も引けを取らないクオリティを持つ。
2019年にUncertain HourからリリースされたPorcerain / Runや2020年にAstrophonicaからリリースされたSwandiveといった作品において、彼は緻密な作り込みとジャングルの持つ凶暴性をバランスよく表現している。

彼の5ives / Slidingは、Metalheadzらと並び90年代のUKブレイクビーツシーンを代表するMoving Shadowの実質的後継であるOver/Shadowからリリースされた。2020年にレジェンド2 Bad Miceの手によってその精神は蘇り、BlameLift Off / Star Travellerのリリースからスタートした後、Dom & RolandASCDJ Traxなどがリリースをし、2021年にSullyもその面々に仲間入りを果たした。

「正直なところ、上の世代はニューカマーのアーティストを意識していないことが多い」とSullyは語る。
続けて「音楽的に彼らは全く別の場所に居ることが多い。でもBrighton(イングランド南東部に位置する観光都市、そのためクラブやパブが非常に多い)に住むEtchというアーティストからOver/Shadowのことを教えてもらった。彼らは新しい世代を積極的に見つけようとしていて、そのムーブメントは見ていて非常にワクワクする」という。

Jungleという音楽が現代の様々なダンスミュージックのプロデューサーに大きな影響を与えるようになった今、(Over/Shadowのような)世代を超えたコラボレーションは、サウンドの歴史的なルーツとその進化の両方において不可欠なものであり、世代間の熱い情熱はシーンの未来に向けてとても良い兆候である。
「Si(Simon Colebrooke、2 Bad Miceのメンバーの一人)はいつも僕のトラックに熱狂的で、まるで僕の全てのリリースが彼に影響を与えているような気持ちになる。レーベルにこれ以上を求めることはできないが、自分の作品に対して誰かが強く感情移入したりすることは、僕の制作にとってそれはとても意味のあることなんだ」とSullyは語った。


5ives / Slidingのリリースは、Sullyがジャングリストとしてのカオスに堕ちていく姿を表現している。
彼の直感的なサウンドは長い間注目されてきたが、過去のリリースを通じて彼はジャングルの空間を知り尽くし、最大化されたダンスフロアを受け入れることで、スピード感のある重厚さにシネマティックなクオリティをもたらしている。
「最近はGodspeed You Black Emperor!(カナダのポストロックバンド。94年にモントリオールで結成された)やKate Bush(ロンドン南東部のベクスリーヒース出身のシンガーソングライター/アーティスト。Pink FloydのギタリストDavid Gilmourに見込まれデビューした)、The Cure(78年に結成されたイギリスを代表するロックバンド)にハマってる。以前はあんまり考えなかったけど、最近は影響を受けているように感じている」とSullyは語った。

この新しいシングルである5ives / Slidingはロックダウン中に制作されたものだ。
当然だが、イギリスのクラブが徐々に営業を再開しているその時はSullyのこのリリースはただネット上で"クリック"されただけだった。
「既にシーンでは大騒動になっているんだ。5ivesは自分自身を押し出した曲の一つだけど、それは常に不安で上手くいくかなんて分からない。この曲を作った時、これが良いものかどうかなんて全く分からなかったし、この気持ちと格闘する必要があった。
何人かのアーティストに送ったところ、はじめてこの曲が"上手くいった"ことが初めて分かった。
特に今、しばらく時間をかけて自分の意図したステージでプレイすると改めてよく分かるね」


 
Sullyの音楽には二つの指標がある。
一つ目はサウンドシステム・ミュージックに必要な要素をじっくりと考えそれらをアウトプットすること、二つ目は細部に注意を払いながら、個性を存分に発揮することである。
これらのルールは、彼がイギリスのホームカウンティなフリーパーティのサウンドシステムを浴びて育った時代、そして少し"曖昧な"作曲ソフトの選択に由来している。


「僕はトラッカーであるRenoiseを使って制作している。Ableton Liveにとても似ているが、水平方向ではなく垂直にグリッドが用意されている」とSullyは言う。
Renoiseは本当に細かい部分まで弄ることができるので、僕のシーケンスの進め方にとてもマッチしている。他のアーティストと比べてとても特殊な作業環境だが、実際僕にとても合っているし、Jungleという音楽の中でも歴史のある方法なんだ。
Jungleのオリジナルなプロデューサーたちの多くはAmigaというコンピューターを使った。彼らが使っていたのは確かにこの類のソフトウェアだが、当時に比べたら明らかに内容は進歩しているだろうね」

ソフトウェアの進化に伴いブレイクビーツの可能性もまた拡がっている。
Sullyの音楽の未来に対する情熱は、バイナルをプレイした時と同じように会話の中でも強く伝わってくる。
「コンピューター技術の中には"もう何でも出来る"と思えるような時期が存在した。909の完璧なエミュレーションを作ること、既に存在する技術をコピーすることが全てだった。
だけど、今はただ音を切り刻むだけでも更に色々なことが出来るようになったし、広くプロデューサーに使われるようになったと思う」
10〜15年前からそういった技術は存在したが、飽くまで学術的な分野におけるものであり、少なくともVSTとしてロードするような内容ではなかった。
「もっと出来ることはあるのに、それを実際に推し進める人は少ない。それが僕の目指しているものだ」


孤独で内向的な作品に焦点を当てながらも、Sullyはブレイクビーツを独自の方向から再構築している同世代のアーティストの名前をすぐに挙げる。
「たとえばLOFT - That Hyde Trakkにはとても食らったね。当時その勢いには正直遅れてしまったんだけど、自分のようにまだこの曲を知らないオーディエンスのためにもシェアしなきゃいけなかった。
ブレイクビーツにはジャングルやハードコアに通じるものがありながら、もっと色々な可能性を秘めていることに気づいたんだ。つまり、もっとこの可能性を広げることができる、推し進めることができるんだ!と」

「あとForest Drive Westも好きだね、さっきの曲とはまた違うアプローチなんだけど、彼の作るドラムには複雑さと巧妙さが隠されていると思う」とSullyは続けた。
「彼がやっていることと、Equinoxのような人たちがやっていることの境界線は分かるけど、そこには別の要素が含まれていて、これまでみんなが触れてこなかった"深み"のようなものがあると思う」
しかし、基本的にはテクノロジーがどれだけ進歩してもこれらの音楽はサウンドシステムがインストールされた場所のために作られたものであるということを改めて思わされる。
Sullyが推し進める音の実験はどちらかといえばプロセスを重視するものだが、常にこのカルチャーを側において考えられている。
「サウンドシステムのために作られた音楽の制作に時間を費やせば費やすほど、パーカッシブなサウンドが最も適していることに気づかされる。ダンスに最適化されたリズミカルなサウンドは、あらゆるものを帳消しにすることができる。ドラムだけでは限界があるが、しかしそのドラムだけで色々な可能性を見出しているプロデューサーは何人も居る」と彼は強調した。

「初期のジャングルのリリースでもリズムとメロディの境界線は曖昧で、スネアのサンプルをピッチアップしてメロディを作っていたりしていたね。しばらくするとそういった実験的な試みは超えられない壁にぶち当たり、次にベースラインやサウンドデザインに注力するようになっていったと思うんだけど、今はそういった実験的な遊びを行える機会がより増えたように感じる。上手く実行できるテクニックを発見することがとても重要で、それらは"幸運な"アクシデントであることがほとんどだ」



10代の頃にレイヴへ心酔したSullyはAutechreAphex Twin、UK Acid Technoなど幅広いジャンルのエレクトロニックミュージックにのめり込んでいった。
Chris Liberator(Stay Up Forever主宰のUKハードアシッドテクノの最重要人物)やD.A.V.E The Drummer(同じくUKアシッドテクノのレジェンドであり、Hydraliux主宰。その他にStay Up ForeverサブレーベルApex RecordingsやThe Punishment Farm等)など、狂ったフリーパーティの世界で何年も遊んでいたよ」と彼は言う。
そして、そこにDubstepが登場した。
「Dubstepを聴いて、Garageという音楽を理解できるようになったんだ。僕のGarageに対するイメージは、So Soild Crew(2000年代初頭に活躍した総勢21名による伝説的UKガラージ集団)が携帯電話のスピーカーで流れているようなものだった。要は、ハイハットとMCだけが聴こえるような。それが当時全く理解できなかった。だけど、Dubstepは問答無用でベースラインを聴かなきゃいけないんだ」と彼は語る。

Dubstepの最初期の魅力は、あの強烈なフリーパーティのエネルギーとIDMの際限のない実験性のまさしく象徴的な融合にあるかに思えた。
必ずしもスタイリッシュではなく、理想的なトランジションが為されるところにある。
「僕はめちゃくちゃなガバのドラムも好きだったけど、やっぱりBoards Of Canada(スコットランド出身のMike SandisonとMarcus Eoinによるエレクトロニカ, IDMユニット)が大好きだったね。ある意味、Dubstepはこの中間的な存在で、アヴァンギャルドでありながらヘヴィーな感じだった」

Dubstepを聴いていたSullyは、音楽ジャーナリストでDJでもあるMartin "Blackdown" ClarkがオーナーのKeysound Recordingsと早くから親交を深めていた。
「彼らのRinseの番組をよく聴いていて、自分が何曲か送ることになったんだ。Blackdownは送られてきたものを全て聴くというハードな作業をこなしていた。最盛期には月に約6GBほどの音楽が送られてきて、それを全部聴いていたよ!」とSullyは嬉しそうに語った。
「彼は僕の作品に興味を示し、そこから話が進んでいったんだ。数年間は独自に活動をしていたけど、たくさんの素晴らしいバイナルを聴くことができたんだ。その時のDubstepはまるで"列の最後尾"のようなもので、その後プロデューサーたちはみんなそれぞれ違う方向に行ってしまった」

SullyはKeysound Recordingsから2010年と2014年にそれぞれ12インチと8トラックのEPを出し、2011年にCarrier、2017年にEscapeという2枚のアルバムをリリースした。
後期のリリースを通してSullyはDubstepのベースのヘヴィーさとは異なる方向に進み、より高いテンポを自身のプロジェクトに取り込んでいくようになった。
その時、彼の心を鷲掴みにしたのがJungleという音楽だった。


「現在Knivesというレーベルを共同運営しているJoe Shakespeareは大学時代のルームメイトで、彼は当時Ragga JungleとBreakcoreに夢中だった。
Norwich(イングランド東部に位置する都市でSullyの活動拠点)のAmen-Talというクルーとよく一緒にパーティをやっていたんだ。僕たちは1階の部屋でDubstepをプレイし、彼らは2階の大きな部屋でRemarcのようなレジェンドをブッキングしていた。そこでJungleという音楽に目覚めたんだ」と彼は語った。
「Jungleという音楽自体は実は幼少期に聴いたことがあったんだ。今Super Sharp Shooterを聴くと、スーパーファミコンのサウンドトラックを聴いたような衝撃に襲われることがある。Jungleという音楽にハマったルーツは微妙な内容だけど、とても細かくエディットされたブレイクビーツにハマってからは、もう遅いテンポには戻れなくなったんだ!」と彼は主張する。

彼の制作はJungleが中心であることに変わりはないが、今でもスローテンポを作り続けている。
2019年にGarage界のレジェンドEl-Bとのコラボレーションを行ったが、そのプロセスに面白い変化があった。
「彼は当時スタジオを移動していたから、2〜3トラックをモニターのないiMacで、内蔵スピーカーから聴く必要があった」と彼は笑いながら語った。
「だから全ての音を"カット"する必要があったんだ。とても面白かったよ」


このプロジェクトはEl-Sull(El-B & Sully)名義でGD4YA(ロンドンを拠点としたEl-B主宰のレーベル)からリリースされたが、このレーベルが彼のプロデューサーとしての次のステップへ進む導火線に火を付けたのかもしれない。
SW2(El-Bの変名義)のリミックスもこのレーベルから出したんだ。ジャズドラマーのMoses Boydがフィーチャーしているトラックがあったんだけど、あれは最高だった。ドラムトラックがあるだけでとても楽しくて。来年は生演奏のミュージシャンとのコラボも考えているんだけど、それがどうなるかはお楽しみだね。」
次へのステップがどうなろうと、彼のブレイクビーツへの探究はまだ始まったばかりだ。
ダンスフロアが徐々に暗闇から戻ってきた今、それは素晴らしいことだと私は思う。




翻訳
Hisaki (Asano Eiji)

引用元
Written by Oskar Jeffs - On Cue: Sully (2021). - https://djmag.com/features/cue-sully

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