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隣で飛んだギャル

連日飛び交う「飛行機」という言葉で思い出した、穏やかな話。

数ヶ月前、私は帰省先からひとり暮らし先へと帰るために飛行機に乗っていた。座席指定をしなければいけないのを搭乗前日になるまで忘れていたせいで、3人掛けシートの中で1番避けたい真ん中の席。

私の右隣、通路側の席に乗り込んできたのは、私より数個年上に見える女性だった。シルバー寄りの青髪のウルフカット、足元は厚底ブーツ。唇にはキラキラしたピアス。

すぐに、ギャルだ、と思った。
こんなことを書いておいてなんだが、私はギャルの定義をよくわかっていない。
でもギャルだった。

各座席にスクリーンがついているような規模の機体ではなかったから、機内安全ビデオの放映はなく、機体のドアが閉められてすぐにCAさんたちによる非常時の対応のデモンストレーションが始まった。

余談だけど、機内安全ビデオって言うんだねあれ。これまでセーフティビデオって言い方しか知らなくて、今日本語での名称を調べて初めて知った。

話を戻す。

この機内安全ビデオをしっかり見ない人を、私は好きになれない。小さい頃からずっと。

私は旅行好きの両親に育てられたのと、小学生時代のほとんどを海外で過ごしていた関係で、たぶん同世代の人たちよりもこれまでの人生で飛行機に乗った回数が格段に多い。物心がつく前から飛行機に乗せられていて、自我が芽生えた頃にはもう「飛行機に乗って空を飛ぶ」ことを当たり前に受け入れていた。

そして私は、とても生真面目な子どもだった。先生の言うことには一切逆らわず、きっちり言うことを聞くタイプ。そんな私が飛行機に乗ったときに「安全のため」と流される「見なければならない」ビデオを、しっかり見ないはずがなかった。

ところが世の中には、機内安全ビデオなんて気にも留めない大人がたくさんいた。
目の前のスクリーンなんてものともせず、隣の人と話したり、荷物を動かしていたり、携帯をいじっていたり。私はそんな姿を見て、大人なのにどうして言うことが聞けないんだろうと疑問に思う可愛くない子どもだった。

時が経って私は大人になったが、それでも私はビデオに最初から最後まで注意を向けるし、ビデオじゃない実際のCAさんのデモンストレーションもガン見する。内容のほとんどはわかりきったことであることは知っているけど、それでも。

で、例のギャルである。

デモンストレーションが始まってすぐ、何気なく隣に目をやると、ギャルは前のめりになってCAさんに視線を送っていた。

え。
ギャル??

チャラそうな見た目して(ディスっているわけではない)、しっかりCAさんを見るタイプだなんて、好感度爆上がりやろ〜〜!!
と思っていたら、ギャル、さらには話し手を見つめながら時折うんうん頷くタイプだった。

シートベルトはこうやって調節します。
うんうん。

酸素マスクはこう着けます。
うんうん。

救命胴着の膨らませ方はこうです。
うんうん。

ええ

えええ

ええええ!!
こんな人小学生の頃の先生に好かれる超優等生以外見たことない!!!!

ギャル、超良い子じゃん、大好き
とこの時点で思ったのだが、離陸してからも、飲み物を提供しにきたCAさんににこやかに敬語で対応するわ、私たちの前を通って通路に出ようとした窓側の人に「ごめんなさい通れますか!?」と足を縮こませて申し訳なさそうに言うわ、なんかもう、捻くれおばけが辛うじて人間に擬態しているような私からすると、総じて(人間できてんな!!)って感じだったのである。

そして極めつけとなる出来事は着陸後に起こる。

私たちの後ろには、幼いお子さんを2人連れているお母さんが座っていた。
そのお子さんのうちの1人がご機嫌斜めだったようで飛行中ずっとグズグズで、お母さんは必死にあやしていて、そうなると十分に構ってもらえないもう1人もお母さんの気を引こうと大きな声を出して、お母さんは2人を落ち着かせようと奮闘し続けて…というような状況になってしまっていたのである。

弟が2人いる私は人ごとだとは思えず、
お母さん気が気じゃないだろうな〜
ちびっこたちも座席で長時間じっとしているの辛いだろうな〜
お母さんがんばってるよ〜
どうか叱りつけるおじさんとかが現れませんように…
とか思いつつ、私は思っているだけ、だったのだが。

シートベルト着用サインが消えて乗客たちがバタバタと立ち上がり始めてから少し後ろの様子を伺うと、後ろのお母さんが子どもを1人腕に抱いた状態のまま頭上の手荷物を取ろうとしているようだった。大丈夫だろうかと案じていると、シートベルトを外して立ち上がったギャルが、くるっと親子連れの方を振り返った。

「お母さん、荷物、取りましょうか?」


惚れてまうやろーーーー!!!!


(これ言うのこの投稿で2回目だけど実は元ネタ知らないの申し訳なくなってきた)


あわや称賛の拍手を大音量でお送りしてしまうところであったが、感動していたのは確実に私よりもお母さんの方である。
「えっ、良いんですか?じゃあお願いできますか…?」

全然大丈夫ですよ〜と言いながら、ギャルはお母さんが指差す荷物を確認して、それを少し危なっかしい手つきで下ろした。彼女は厚底を履いていてもなお私よりも背が低く、高いところにあるものを取り慣れているというわけでは決してなさそうだった。自分の座席で何もできずにいた日本人女性の平均身長+10cmくらいある私は、自分なんのためにこんだけ背ぇあんねん!!とひっそり思った。

荷物を手渡しながら、彼女はこう言った。
「お子さん2人とも可愛いですね、飛行機に乗れるなんて偉いですね!」
そして屈んで子どもに目線を合わせて言う。
「2人ともがんばったね〜、良いお母さんだね〜!」


惚れてまうやろーーーーーー!!!!!!


さらにギャルは「出口まで荷物、持ちましょうか?」と申し出ていたけれどお母さんは恐縮して断って、ありがとう、本当にありがとうございました、とペコペコしながら去っていった。


ギャルの定義、まだよくわからないし真面目に調べる気もないけど、すべてのギャルがあんな風に優しかったらな〜〜って思う。いや別にギャルに限らず、みんながみんなに優しかったら素敵なんだけど。

強くて優しくて可愛いのって、最強だよな〜〜

あの日のギャルへ、
数時間隣に座って一緒に空飛んでただけだけど、私あなたに一生幸せでいてほしいと思ってるよ。

世の中捨てたもんじゃないよなと、思わせてくれた人のお話でした。

では。

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