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断捨離④

成人式の日も、大隈講堂の舞台に立っていた

段ボールの中にしまわれた学生時代の芝居のチラシはいくつもあるが、この時代のチラシには、何故かどれを見ても「年」が記されていないのである。
1946年5月生まれの私の成人の日は、1966年でなく1967年の1月15日だったようだ。今では何でもネットで調べられば何でも正確なところがわかる。
チケットの下方にある<早稲田大学演劇科’65公演>とあるのは、私たちが早稲田に入学した年で、入学から卒業までずっと<’65年度生>という呼び方がついてまわった。

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演じた役柄に自らの未来を重ねて

この芝居、イギリスの劇作家ロバート・ボルトの脚本『花咲くチェリー』の公演は「私の成人式の日だった」というはっきりした記憶がある。
たとえ芝居の公演と重ならなくても、仲のいい友人たちと一緒に振袖を着て二十歳になった祝いの儀式に出席するつもりはなかった。だからその日、大隈講堂の舞台に立って、子を三人も持つ50代の母親役を演じることになったのは、私らしい成人の日の迎え方だったかもしれない。

当時、劇団文学座で繰り返し上演されて人気のあった『花咲くチェリー』は、映画『アラビアのロレンス』の脚本でも知られるロバート・ボルト(1924~1995)が31歳で書き、出世作となったことで知られた作品である。
保険会社で働く主人公のチェリーは、妻との間に三人の子供がいるが、会社勤めが性に合わず、その苦しみから逃げるために酒に溺れる日々を過ごしている。彼の夢は、いつか故郷のサマセットに帰ってリンゴ園を経営するというもので、その夢だけが頼りなのだが、それを実現するための資金も専門知識もなかった。会社での業績も上がらず、とうとうクビになったことを妻にも子供達にも言い出せずにいるところへ、息子のジムに頼まれた業者が数百本のリンゴの苗木を持って来る…。
そんな芝居だった。

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