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なかほら牧場発 これからの食と農を考える⑨

日本の牛乳はなぜまずいのか

 日本の牛乳の90%以上が超高温殺菌牛乳(UHT)であることは前回述べた。
厚生省の省令に「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」がある。これが我が国で唯一牛乳を縛っている法律であり、その中に「大腸菌は陰性でなければならない。」という項目がある。
 日本では乳牛のほとんどが繋がれて飼われており、そこで糞尿を落としている。同じ場所で乳搾りも行うのである。周辺は大腸菌だらけの環境の中で牛乳は搾られている。
 いわばトイレの中で搾られているといっても過言ではない。しかもトイレといっても人間のトイレのように水洗ではなく、落ちた糞尿がそのままの状態で搾乳をしているわけである。
 酪農家は、本来は糞尿を掃除して衛生的環境で搾乳しなければならないが、早朝に来る集乳車に間に合うように搾乳を終わらせなければならず、糞尿掃除を後回しにしても搾乳を終わらせなければならない。
 集乳車は一戸の酪農家のみを集乳するわけではなく数軒の酪農家を廻って集乳するため一戸の酪農家の搾乳時間が遅れれば他の酪農家にも迷惑をかけることとなる。
 このため日本の牛乳には糞尿が混入しているといっても間違いではない。以前にも述べたが日本酪農の発祥は都市の搾乳業であり欧米の牧畜としての酪農とは違い、狭い牛舎の中で飼われてきた歴史があり当然そこには糞尿にまみれた牛が当たり前のように存在していた。酪農家はその姿に慣れっこになっているのである。
 糞尿が混入した牛乳から大腸菌が検出されないようにするには出来るだけ高温で殺菌する方法が最も簡便である。現在一般的に行われているUHT牛乳は120°~150°で殺菌される。
 高温殺菌をすると牛乳にベタつきが出来、喉に絡みイオウ臭が発生する要因になっている。これを牛乳の風味と勘違いしている消費者が大多数であり、我が国の乳文化の低さを露呈していると平沢正夫はその著書「日本の牛乳はなぜまずいか」の中で厳しく断じている。
 蛋白質やカルシウムなどの栄養価においても低温殺菌の方がすぐれていると、低温殺菌牛乳に詳しくその著書も多くある小寺ときは言っている。低温殺菌牛乳は胃酸で固まる特徴があり、蛋白質やカルシウムの停滞時間が長く胃の中で長時間かけ静かに消化されるためその吸収率が高いとドイツの国立酪農研究所のカウフマン元所長が書いた論文を引用し小寺は説明している。

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中洞 正(ナカホラタダシ)1952年岩手県宮古市生まれ。酪農家。東京農業大学客員教授、帯広畜産大学非常勤講師、内閣府地域活性化伝道師。東京農業大学農学部在学中に、草の神様と呼ばれた在野の研究者、猶原恭爾(なおはらきょうじ)博士が提唱する山地酪農に出会い、直接教えを受ける。卒業後、岩手県で24 時間 365 日、畜舎に牛を戻さない通年昼夜型放牧、自然交配、自然分娩など、山地に放牧を行うことで健康な牛を育成し、牛乳、乳製品の販売を開始。牛乳プラントの設計・建築、商品開発、販売まで行う中洞式山地酪農を確立した。著書に『おいしい牛乳は草の色(春陽堂書店)』、『ソリストの思考術 中洞正の生きる力(六耀社)』、『幸せな牛からおいしい牛乳(コモンズ社)』、『黒い牛乳(幻冬舎)』など。

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