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ビートルズ「ハニー・パイ」は、2010年代以後的なレトロ・ポップス流行のずっとずっと早い先駆だったかも

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The Beatles / Honey Pie

やっぱりこの分野もビートルズが先駆けだったとかそういう意味のことはあまり言いたくないけれど、ポールの「ハニー・パイ」(『ホワイト・アルバム』1968)を聴いていると、近年のジャジーなレトロ・ポップスだってそうだったじゃないかと思えてきてしまいます。

78回転SPレコード再生のスクラッチ・ノイズを挿入するなんていまじゃ大勢がやっていることで、2010年代以後のレトロ・ポップス流行におけるシンボルになっているくらいですが、でも最初にやったのが「ハニー・パイ」のポールだったんじゃないかと思えてならないんですよね。だいたい曲そのものがレトロな1920年代テイストそのまんまですし。

「この曲でのぼくは1925年に生きているフリをしたんだ」とポール自身はっきり語っていますからね。もちろん20年代ふうのレトロ・ジャズ・ソングを現代に志向するミュージシャンは、第二次大戦後のイギリスにだってたくさんいたと思います。ですがポールのばあいはビートルズっていう60年代の最先鋭を走る世界的大人気ロック・バンドの一員としてこういう曲をやったという、そこが大きいんですよね。

これ以前から『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』(67)には「ウェン・アイム・シックスティー・フォー」があったし、そのずっと前『ウィズ・ザ・ビートルズ』(63)で「ティル・ゼア・ウォズ・ユー」をカヴァーしたのもポールでした。

こういった嗜好志向がハナからあった音楽家と言えるし、ビートルズ解散後はティン・パン・アリー系の古いスタンダード・ポップスばかり歌ったアルバムもあるし、ブリルビルディングの職業作家たちからかなり大きく学んできたソングライターだと常からわかるしで、そのへん、ポール本来の持ち味だったんでしょうね。

ポール自身は1942年生まれなので、そこらへん20年代ポップスに同時代体験はなかった世代ですが、その父は20年代のダンス・コンポ、ジム・マックズ・ジャズ・バンドを率いてトランペットとピアノを演奏していたそうです。そうした伝統に染まって育ったんだと子のポールも懐古していますし、幼少時から古いジャズ・ソングやポップスに囲まれて血肉にしながら育ったんだと思います。

キンクスあたりにもちょっぴり嗅ぎとれるこうした英国音楽の流れ、それを最も鮮明なかたちではっきりと曲にして書き歌い、それを時代の流行ロック・バンドのアルバムのなかに入れて世に出したのは、『ホワイト・アルバム』の「ハニー・パイ」をもって嚆矢としたいです。

1968年におけるこうしたテイストが、流れ流れて2010年代以後のコンテンポラリーなレトロ・ポップス・ムーヴメントへの「直接の」影響源だったとは考えてもいませんが、両者があまりにも音楽的に酷似しているがため、う〜ん、さすがはポール、さすがはビートルズだったなぁとうならざるをえないです。

(written 2022.7.5)

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