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「ワイラプの高橋康二」を覚えておこう

「高橋康二を見たい」
「今見たい」
「ワイラプの高橋康二を見ておきたい」
それは、このところずっと念頭にあった思い。

BCリーグは現在12球団ある。
本来なら、今年は東地区6球団、西地区6球団となり、地区交流戦も行われる予定だった。
しかしコロナ禍の変則リーグ戦で極力移動をなくしたため、対戦するチームが目いっぱい限定される。東地区、中地区、西地区と分け、そこをさらにグループ分けしてほとんど2チームの対抗戦になった。東地区で言うとBグループ埼玉武蔵は、神奈川フューチャードリームスと40試合やる。全部で60試合だから、3分の2が同じ相手だ。ホームとビジターはあれど。
残りの20試合を茨城と栃木で半分こ。
そんなわけで、自分が動かないとそれ以外のチームが見られない。

今年は新加入の神奈川のほかに、福井ミラクルエレファンツが新球団となり、福井ワイルドラプターズ(通称ワイラプ)に生まれ変わった。昨年経営破綻のニュースが流れた時には、BCL他チームファンも立ち上がった。武蔵のファン感に福井の応援団の方が訪れ、自分も署名をした。その球団の再出発を、現在を見ておきたい気持ちもある。
そしてもう一つ。

■「138km/hから151km/hに」

シーズン開幕前、一つの動画が話題を呼んだ。
ワイラプの長身右腕、高橋康二が「わずか1年で138km/hから151km/hに」なったという、その秘密を公開する動画だ。フォームを改善したポイントやそのためのトレーニング方法などが語られる。

BCLの面白さの一つが、こういうところにある。無名の選手が急激に成長し、変貌する姿。動画を見ただけでワクワクしないだろうか。
この動画で「高橋康二」という名に注目するようになった。元ヤクルトの村中恭兵がTwitterやインスタでコメントを送っていたこともある。高橋はオフシーズンに村中と同じくオーストラリアに行き、オークランドトゥアタラに所属していた。その時に色々と教わったため、村中を「師匠」と呼んでいる。一気に親しみが増したし、Twitter上のやりとりも微笑ましく見ていた。
先ごろ栃木に入団を決めた剛速球投手・北方悠誠もその時一緒に過ごしたチームメイトだ。目指す憧れの投手は「村中恭兵、北方悠誠」という高橋康二。

彼は自分のSNSでも常に発信を続けている。動画を投稿して、自分でもフォームや球速、球種を確認し、同時にアピールを続けている。
コロナ禍の自粛の間も、6月に開幕して無観客だった期間も、動画はチームが使える武器であり、高橋にとっては成果を体現出来る場所でもあった。
現在守護神としての高橋康二の成績は際立っている(まぁ福井は投手陣がいいので数字上で突出とはいかないけれども)。防御率や奪三振もさることながら、四死球の少なさも目を引く。
現在ではスカウトも試合に訪れ、ドラフト指名も見えてきている。BCリーグでは屈指の有望投手と言っていい。

去年とは様変わりしたフォームで、無駄なく力を伝えられるようになった。自信を持って投げ込む球には威力がある。
とにかくドラフト前に見たかった(何しろ目を付けた選手は大概ヤクルトには来ない)。
「ドラフト前から知っていた」という優越感に浸りたいんじゃないのか、と問われたら、そんな気持ちもないとは言えない。

でも、それはそれで良いんじゃないか。
ドラフトに指名されそうな選手がいる。見たい選手がいる。遠くにいて、遠くに行かなければ見られない選手で、でも今見ておきたい、見に行こう、そう思える選手がいることは。
遠くまで見に行って、実際に見て、音を聞いて、一層ワクワクすることが出来るのだ。この後の成長を楽しみに出来る。そうして自分の目で見てからのドラフトは、また一味違うだろうから。

■念願の「ワイラプの高橋康二」

富山の試合を見に行こうと思っていたから、高岡に1泊してボールパーク高岡の福井戦を見ることにした。翌日は福井ホームの滋賀戦。2日間福井戦にしたのは、どちらかには高橋投手が投げるんじゃないかと思ったからだ。なるべく富山戦じゃない方がいいなぁとは思ったけれども(守護神だから)まぁ展開次第だ。
28日は複数スカウトが来ていたらしい。ボールパークはブルペンが見えないけれども、最後セーブシチュエーションになってから彼は登板した。
その日、富山が重ねたエラーやら投手の乱調やらで自分のテンションは低くなってしまっていたから、むしろ高橋登板はポジティブ要素だった。あっという間だったが、予想通り完璧なピッチングだった。

翌日、フェニックススタジアムでのホーム戦。富山が絡まないので、純粋に福井を見られた。191cmの高橋投手は常に目を引く。練習でも、片付けでも、試合中も、ファミスタコラボの見慣れない赤いユニ姿も。
前日に投げていたし、試合は大差で福井が勝っていたから、特に投げる展開にはならないだろう。でもブルペンに入り、力のあるボールを投げていた。
フェニスタはカメラ席のすぐ後ろがブルペンで、プレスはすぐそばで見ることが出来るのだ。迫力のある音が響き渡る。

試合後少し話も聞いた。書くことを前提の取材ではなく、取っ掛かりという気持ち。これから福井を知り、彼を知るための。なので特に録音もせず、気になることを少し聞いた。
福井に来た頃は、フォームが悪く、上体が突っ込む投げ方。それを福澤監督と一緒に直してきた高橋。
「福澤監督にばーって悪いところを色々言われたんですけど、最初はそれが何のことか分からなくて。だんだん『これはこういうことなんだ』っていうのが分かってきたんです。最近ではあと右足の使い方だけだったんですが、それも分かってきて良い感じです」
フォームの形だけではなく、一つひとつにどういう意味があるか、どうしたら一番いいのか、力の入れ方やタイミング、バランスがだんだん分かってきたという。自分の体への理解、ピッチングメカニズムの理解と実践が飛躍的な進歩を生んだ。
今では「これ、というポイントがある」と言い、自身のベストフォームを確認するとともに、チームメイトにも「コツ」をアドバイスしている。
福井の投手の多くがいい数字を残しているのは、それも大きいのではないだろうか。

■「打者は全く気にしない。自分がベストのピッチングをすれば打たれないと思っている」

無理のないフォームで生み出す高速ストレートや効果的なスラッター。それとともに、このフォームで投げていると「前はちょっと投げただけで疲れてたけど、今は疲れない」そうだ。
25歳という年齢もあり、ドラフトには即戦力としての能力が問われる。150km/h超のスピードボールとコントロールは武器だ。だが「指名にはまだまだです」と、この先の進化を見据える。
課題は?と問えば
「フォークを投げたいですね。横の変化はあるので、縦の変化を」
フォークが持ち球にないわけではないが、上手く使えていないのだろう。

その日はそれで福井を後にしたが、翌日の登板で高橋康二は「村中さん直伝」というフォークを初めて公式戦で使っていた。

「村フォーク」と名付けたフォークボールは、ストンと落ちて見事に空振りを奪った。まだ軽く投げただけというが、「師匠」村中からは「それくらいで十分だよ」とTwitter上での助言もあった。
「北方さんと村中さんを合わせたような投手になりたいです」
そう言っていた高橋康二。
シーズン中の時間は限られている。高橋の挑戦はまだ続くのだ。

9月4日には先発で3イニングを投げた。
今までは全てリリーフ登板だったから、福井では初めての経験だ。球数も使ったし四球も出していたが、無安打無失点で抑えた。彼の思うベストなピッチングへの、一つのステップになっただろうか。

今の高橋康二は、今しか見られない。「ワイラプの高橋康二」を、もうしばらく見ていたいと思っている。

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