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知らない土地がホームになった。BCリーグ富山での話

 応援するということ。
 応援したい人がいる、ということ。
 いつからか、どこからか、縁はやって来る。繋がる。広がる。野球とともに。人とともに。

 応援したい人がいる。会いたい人がいる。
 埼玉から初めて富山に行ったのは、夜行バスだった。
 BCリーグを見に行ったことはあったけど、富山は初めてだった。縁が出来たから。ずっと好きだった伊藤智仁さんが、ヤクルトを辞めて、富山GRNサンダーバーズの監督になったから。
 富山駅に朝着いて、市電に乗って県営富山球場に行った。まだ朝早いと思ったのに、選手たちがテントを張り、設営の手伝いをしている。こちらに気付くと「おはようございまーす!」と声をかけてくれる。NPBでは見られないシーンだ。伊藤智さんも気さくに挨拶してくれた。
 球場からは、アルプスが見える。伸び伸びとした球場で、あまり多くはない観客だけれども、温かい応援もあった。天気が良くて、気持ちが良くて、見たいように見て自由に過ごした。帰りの際には選手が見送りをしてくれる。
 勝ち試合だったし、実に楽しい。全く知らなかった選手たちも、何度か行くうち徐々に覚えた。

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 イベントも色々企画してくれて、東京からのツアーもあった。
 後期優勝したその年、富山には5回行ったのだ。優勝した瞬間は見られなかったけど、智さんと選手たちの笑顔が印象的だった。イベントも楽しみだし、また来年行こう。そう思ったら智さんは辞めて楽天に行くという。

 BCリーグはなかなか選手が長くいられるところではない。指導者も頻繁に変わることが多い。それは知っていた。
 でも、もう少し見ていたかった。智さんの富山を。

 もうあまり行かれないな…。そんな風に思った富山に、次の年には10回も行った。自分でも驚く。縁は消えなかった。今も消えていない。
 智さんが残したものを、富山に見つけたかった。そして、応援していた選手たちが、「あと1年」を全力で戦おうとしているから。見届けたかった。
 初めて「取材」を申し込んだのも富山だ。ものすごく緊張して話を聞きに行ったけれども、その後ホームゲームに行ったときは、毎回取材をさせてもらった。セミプロライターにとってはありがたかったし、それを続けて他の球団にも取材に行くようになった。
 1年通じて一番よく話を聞いた、選手兼任コーチの乾真大さんとは、今も神奈川で顔を合わせている。「友達みたいな選手」だった吉田凌太くんは、今は本当に友達だ。歳は30歳ほど離れているんだけれども。

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 何人もの顔見知りの選手やコーチ、監督が退団したり移籍したりして、富山に知っている人は少なくなった。でも、球団スタッフになっていたり、退団して就職したりしている人たちとは、今もSNSで繋がっている。インスタで毎日ストーリーにつけてくれる足跡が嬉しくて、ずっと大事に受け取っている。
 行けば一緒に応援していた友達がいる。選手の行きつけで球団スポンサーでもある「麵屋やす」は私の行きつけでもある。富山と高岡は実は地味に離れているのだけど、高岡で試合があれば必ず「やす」に行く。
 会う回数は減ってしまっても、富山は変わらずに思う人がいる土地だ。会いたい人がいて、行きたい場所がある。今は毎回新幹線だが、大宮から2時間ほど。近いじゃない、と思う。富山に降り立つたびに、そこが好きだと思う。
 生まれたわけでもない、知らない土地にそんな縁を作ってくれたのがサンダーバーズで、BCリーグだ。

 富山でよく会う地方紙の記者さんは、地元に残った元選手たちが、結婚して定住してくれたら、と言っていた。「あいつらの子供たちが、サンダーバーズに入ってくれるのが夢」だと。いい夢だ。その時には自分も応援したい。
 15年前には、まだBCリーグはなかった。今から20年後、サンダーバーズは、BCリーグはどうなっているだろう。リスクもあるけど、夢も可能性も大きい。支える人がいる限り。
 夢を語り、今を変えていこうとする人たちがいる限り。


 軸足を自分の地元に置きたくて、今は埼玉武蔵をメインで応援しているけれど、富山は変わらず自分の「ホーム」でもある。富山と武蔵以外でも、この数年で応援する人は増えた。でも減ることはない。選手の在籍期間の短いBCリーグではあるけれど、そこにいてもいなくても、その人の野球を忘れないし、その人の人生を応援する気持ちに変わりはない。
 相手にとってはちっぽけかもしれないけど、それでも「応援の気持ちは届く」「相手の力になれる」「好きな球団のために自分に出来ることがある」、そんな経験をたくさんさせてくれるのもBCリーグなのだ。

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 たくさんの人との出会いがある。
 たくさんの縁がある。いつも、これからも。
 人が繋がる。縁が広がる。
 それを力に、自分も色々な場所に行って、たくさんの人に出会って、力いっぱい応援し、伝え続けていく。

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