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スキップの坂道


#旅する日本語 #万福



校門を出て、
駅までの道を泣きながら歩く。
そんな日が続き、やがて、
起き上がることのできない春の朝が来た。

ある時、夫が言ったのだ。
「引っ越しする?」

深く呼吸ができる場所がいいと、坂道と緑が多い、小高い丘の上のアパートに引っ越した。

移動中、狭いレンタカーの車内で
大学から社会人まで、海のないこの街で過ごした日々を反芻し、涙が溢れた。
なんとなく、親を手酷く裏切ったような、そんな気持ちになっていたのだ。

運転中の夫は、そんな私を見て
「心が豊かだねぇ。大丈夫、ただの土地でしょ。来たくなったらまた来よう。」
とふふふと笑っていた。

この人は、私が泣いた時に、迷子の時に、優しく笑わせてくれる人だ。

私もふふふと笑った。

今、私は、万福という名前を持った土地の側に住んでいる。ただの土地だけど、良い名前だ。
万福をくれる、あたたかくて心地よいこの人と、
ふふふと笑いながら生きていこう。



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