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すべての始まりはリゾートバイトだった。 #2『バスの中の魔法』

大学を卒業してから、初めての冬が来たあの時期。

どんよりとした空の中、朝早くから重たいスーツケースを引っ張って
新宿駅のバスターミナルへ向かう。

これから初めて、リゾバ先の長野県のスキー場へ私は旅立つ。

約3ヶ月間、知り合いもいないところに、たったひとりで。


「ひとりでこんなに遠くまで行ったことない・・・」

これだ!と感じて飛び出したはいいけれど、
不安に押しつぶされそうだった。

ちゃんと溶け込めるんだろうか・・・

なんで地元を離れてまでこんなことしたんだろうか・・・

コミュニケーション能力もないのに、
なんで知らない人たちのところにわざわざ行くのだろうか・・・


自分で決めたはずなのに、
なんだか心細くなり、少しだけ足がすくんでしまった。


でも、「やめよう、帰ろう」とは思わなかった。

帰っても、なんとなく、自分を取り巻く世界は
変わらないだろうと感覚的には分かっていたから。


「怖いけれど、初めてのことだから、ただ分からないから、怖いだけ。

ちゃんと見えてきたら、きっと大丈夫。きっと楽しいに決まってる。」


そう自分に何度も言い聞かせて、
長野行きの高速バスに
えいっと乗り込んだ。


バスの中には、リゾートバイトに行きそうな人は
乗っていなさそうだった。

スキーの道具を持っている人も多い。
海外の人もいた。友達やカップル、家族と一緒にいるグループも。

一人で座っているおじさんや、わたし以外は
みんな楽しそうにおしゃべりをしていた。

みんな、旅行としてスキーやスノーボード、温泉などに行くために
このバスを利用しているのだろう。


隣の席も誰もいなくて、
話相手もいない私は
(といっても横にいても積極的に話しかける性格ではないのだけど)、
バスの中でただ一人、ずーっと窓を眺めていた。

いつもなら、交通機関の移動時は
スマホいじったり、音楽を聴いたり、
動画をみたりするのが当たり前だったけど、

この日は変わっていく景色をただじっと見ていた気がする。

新宿の高層ビルの間を
亀のようなスピードでバスが窮屈そうに動いている。

この街はあっという間に変わってしまうのに。
動きづらくて仕方がない大きなバス。

スピードが反比例している東京も
そこに『憧れや夢』があって、

バスが遅くとも早くそこに溶け込みたい人がたくさんいる。

私もそんな街に行くのは好きだけれど、

自分でもよく分からないあいまいな「好き」の多さに頭がショートして
気がつけば心にぽっかり穴が空いているような気分にもなった。




東京から少し離れてきた頃、

それから先は景色を見ながら、考えていたことはただ1つだった。

「私は全てから離れて、なんで行こうと思ったの? 

 たったひとりで出発したこの冒険で、私は何を得たいんだろう?」

ってことだった。

最初からずっと考えていたけれど、
大きなビルや、住宅街が見えるうちはまったくイメージが出てこなかった。


あんなに本気で自分の気持ちと向き合ったのは
とても新鮮な気持ちになるくらい
私自身いつもできていることじゃなかった。

でも、雪が見えてきて、感動し始めたあたりで、
自然と自分の想いが湧き出てくる。


「まだ見たこともない新しい世界に、誰かに決めてもらうのではなく、自分で決めて、自分で選んで、飛び込んでみたかった。

親から離れ、大好きな友達から離れ、都会から離れ、
『一般的な普通の生き方』から離れても、

ほんとうに何も持っていないゼロから自分の足で前に1歩進んで、
心からこの選択をしてよかった!って言えるようになりたい。」

心の底から決めたら、涙が溢れ出てきた。

今まで、自分の弱さから、自分の人生を生きている感覚がなかったから。

なんとなく勉強し、なんとなく人に言われたからやり、
なんとなく高校や大学も決めて、
なんとなくラクそうでなんとなくメリットがありそうな仕事をした。
好きなのか嫌いなのかもわからないなんとなくなグレーゾーンを
ずっと彷徨っていたような学生時代。

今思うと、自分のことが分からず、相手のことも分からず、
楽しいはずなのにまわりを気にし過ぎて疲弊してた自分。


そんな自分を、本当になんとかしたい!向き合おう。
と思ったのかもしれない。

やっと、誰にも流されず、自分で決めた。

そんな嬉しさと、今までの自分に対する悲しさと
そんなヘンテコな私のまま一緒に居た
家族や友達に対しての感謝の想いが重なって、涙が止まらなくなった。


もうすぐ目的地に着く。
泣くのはもう終わり!

「これから先は、どんなことがあっても全部楽しむ!」と決めてバスを降りた。








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