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『三銃士』アレクサンドル・デュマのロマン

フランスの文学者で、日本でも有名な人は?

『レ・ミゼラブル』(ああ無情)で有名な
ヴィクトル・ユーゴーと、
『三銃士』『モンテ・クリスト伯』で有名な
アレクサンドル・デュマ・ペール

この二人はおそらく
ランキングに入ってくるのではないか。
ユーゴーとデュマ、ロマン主義の旗手!
ただ、この二人が「同じ年」、
1802年に生まれたことは
あまり知られていないかもしれません。

19世紀のフランス、諸行無常で有為転変の
激しい時代を生き抜いた文学者たち…。
本記事ではデュマに焦点を当てて、
原作『三銃士』と彼の生涯を紹介します。


…日本で『三銃士』と言えば
NHKの『アニメ三銃士』です。
1987年から1989年まで放送された番組!
翻案は、モンキー・パンチさん。
(注:『ルパン三世』の原作者)

…ただ、こども向け、なので
内容は原作からかなり変えられていました。

主人公ダルタニャンは正義のヒーロー
「三銃士」アトス、アラミス、ポルトスは
ダルタニャンを助ける友情あふれる仲間
仕立て屋ボナシューの娘である
コンスタンスは、正統派のヒロイン
「はだしのジャン」という少年が
アニメのオリキャラとして出てきています。

悪役は「謎の女性」ミレディー

なぜか手乗り猿を連れて登場し、
笛などで動物を操る術と催眠術を駆使する。
ラスボスの「鉄仮面」と組んで
フランス王室の転覆を図りますが、
ダルタニャンたちに計画を阻止される…。

そんな勧善懲悪な物語を
主題歌『夢冒険』とともに思い浮かべながら
原作のほうの『三銃士』を読んでいくと、

卒倒してしまうかもしれません。

原作では、コンスタンスは、
ボナシューの娘ではなく、妻です。
それをダルタニャンが略奪するんです。
かつ、悪女ミレディーとも男女の仲になる。
その際にミレディーの身体に刻まれた
烙印を見てしまい、口封じのために
命を狙われてしまう…という昼ドラ的展開。

後にコンスタンスはミレディーに
毒を飲まされて死亡します。
ミレディーは捕縛され、裁判にかけられて、
最後には首をはねられる。

アニメとは、かなり違う展開なのです。

アトスは、ミレディーの元夫。
アラミスは、男装の女性ではない。
ポルトスは、『三銃士』の後の続編の中で
反乱の容疑をかけられてダルタニャンと対立、
洞窟の中で巨石の下敷きとなって絶命する。

うん、けっこう際どい物語ですね。

…この原作『三銃士』や
『ダルタニャン物語』を書いたデュマは、
どんな生涯を送ったのか?

1802年、北フランスで生まれました。
彼の父親は、ナポレオンとともに
エジプト遠征に随行した将軍。
しかし、ナポレオンのエジプト行きを
「己の野心に基づいたものだ!」と
批判したために、疎まれる。

デュマが四歳の頃に死亡します。

ナポレオンは自分に逆らった男の遺族に
援助を与えることをしなかった。
デュマとその母は収入が無くなり、
九歳のデュマは正規の学校ではなく
神父の私塾に入ることになります。

十分な教育を受けられなかった。
習字は得意でしたが、それだけ。
算数も教会のお祈りも、ろくに覚えない。

…ただ、それがかえってデュマの
妄想力と出世欲を燃えたぎらせた。
ナポレオン没落後の1823年、二十一歳の頃、
父の友人のコネで、オルレアン公爵、
ルイ=フィリップの秘書になります。

生計のめどが、立った!
彼はアパートを借り、母親を呼び寄せます。
アパートの隣の女性とも良い仲になり、
子どもも生まれた。
(なお、この時に生まれた子どもは
「小デュマ」と呼ばれる
『椿姫』を書いた文学者になります)

「劇作家」としてのし上がる野望に燃えて、
デュマは『アンリ三世とその宮廷』をつくる。
これが当たった。1829年のこと。

デュマの書く演劇は、言ってみれば
「昼ドラ」と「大河ドラマ」を
掛け合わせたようなものでした。


スキャンダラスな展開、
際どいシーンやテーマも多い。
チャンバラ、知略戦、スリルとサスペンス…。
生涯で書いた戯曲は、百以上。

さらに1838年、彼は小説も発表します。
『ポール船長』という推理小説です。
新聞に連載されて大人気となり、
購読者数を爆増させた。

1844年、ついに『三銃士』の連載開始!

友人のヴィクトル・ユーゴーは
「心を掴むドラマ、熱い情熱、
真の対話、輝く文体だ!」

この作品を手放しで激賞しました。
同年『モンテ・クリスト伯』も執筆開始。
後に明治の日本で『巌窟王』として
翻案され、有名になった作品です。

「デュマに書かせれば、読者が増えるぞ…!」

注文が殺到。超売れっ子作家に。
お金もがっぽがっぽです。
彼は、稼いだお金を惜しみなく使った。
1847年には「モンテ・クリスト」
という名前の城を建てた
ほどでした。
(大人気になった作家や漫画家が
「御殿」を建てるようなものですね)

…ただ、諸行無常、
おごれるデュマも久しからず、
と言ったところでして。

1848年、フランスで「二月革命」勃発!
劇場は閉鎖され、彼は破産する。
ナポレオンの革命騒ぎの中で生まれ、
彼が失脚した後の「ウィーン体制」、
王政復古のフランスで人気を博した彼は、
再びの革命で精彩を欠いていくのでした。

時代に翻弄された人生。
しかし、彼は、しぶとかった。
「巌窟王」のように…。

ロシア、黒海を旅行して、
その旅行記の原稿料で大金を手にします。
船を手に入れ、地中海、イタリアへと渡り、
ガリバルディという男の経済援助をする。
このガリバルディたちの活躍により、
イタリアは統一を成し遂げ、
新たな歴史をつくっていく…。

そう、優れた物語を生み出してきたデュマは、
自らの一生もまた、ロマンあふれる物語に
したかったのかもしれない。

歴史を動かす。
「フランスの仇をイタリアで討つ」
と言ったところでしょうか?

1870年、デュマ、死去。

その翌年、1871年にフランスは
プロイセンに敗北し、
「ドイツ帝国」の成立を許すのです。
かくして「ロマン主義」の時代は終わり、
世界は帝国主義国同士の戦い、
ひいては世界大戦へと向かうのでした。

最後にまとめましょう。

本記事では『三銃士』と
デュマの生涯を紹介しました。

原作『三銃士』のダルタニャンは、
品行方正な正義のヒーローではない。
手練手管を使ってのし上がる
人間味にあふれた野心家
です。

『モンテ・クリスト伯』は
復讐の炎を心に宿しながら
しぶとく生きる男
が主人公。

「待て、しかして、希望せよ!」

彼は作中で、
登場人物にこう言わせています。

世の中が移り変わっていくのは、
現代においても変わりません。
大事なことは、あきらめず機会を待つこと。
希望を捨てないこと。


…そして、アニメ版のダルタニャンのように、

信頼できる友と出会い、つながりを持ち、
協力すること
だと、私には思われるのです。

『三銃士』の舞台、フランスの
ルイ十四世(ダルタニャンや三銃士たちの国王、
ルイ十三世の後継ぎの「太陽王」)についてはこちら↓
『ヴェルサイユの太陽』

アレクサンドル・デュマや
ヴィクトル・ユーゴーたちと同年代、
ナポレオン三世についてはこちら↓
『奴はとんでもないものを盗んでいきました』

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