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芥川龍之介は小説『神神の微笑』の中で、
日本の「造り変える力」について書く。

曰く「日本人の力は
破壊する力ではなく、造り変える力だ」と。
もしキリスト教に帰依するというなら、
言葉だけで「帰依する」ことは、する。
同時に、仏教の教えにも、帰依している。
日本では、宗教の元の教えというよりは、
それをアレンジし、風土に合う形で
取り込み、変えているのだ、と。

『神仏習合』とか、
『クリスマスやバレンタインデーを楽しみつつ
除夜の鐘を打ち、初詣にも行く』
とか、
そういう事例が目に浮かぶような文章だ。

ただし、そういうことが進むには、
あえて先読みし、プロット(物語の骨格)を
作って、効果的に先進的なものを
取り入れようとする人物、指導者の
アクションが欠かせない。

すごく古い例を挙げれば、
聖徳太子(厩戸皇子)の「仏教政策」だ。
当時、先進的であった中国の
仏教の精神を取り入れる。
もちろんそれに付随して、
様々な技術を取り入れていく。
「排仏派」と呼ばれた物部氏を倒してまで
その政策を推し進めた。

その一方で、「十七条の憲法」という
いかにも「日本的な」ものもつくる。
和を以て貴しとなす。
仏教を取り入れつつ、そのまんまではない。
「遣隋使」も、決して一方的に
「全面服従」という感じでは、なかった。
彼は「日本流アレンジへの導火線」の
代表的人物だ。作曲し、かつ編曲した。

…時は下がって、明治時代。

欧米に追い付け追い越せの新政府は、
「お雇い外国人」と呼ばれる
欧米の優れた指導者・技術者を
呼ぶことを考えていた。

例えば北海道。ここを開拓する仕事は
薩摩藩の黒田清隆に任された。
のちの第二代内閣総理大臣である。

彼は西郷隆盛とちょっと似ていて
「責任は俺が取る、どんどん仕事をしろ」
的な政治家であった。
仕事がきっちりできる人を呼んで、
その人に仕事をどんと任せるタイプ。

彼は、北海道の実際の風土を見て感じて、
思ったことだろう。
「ここは薩摩とは違うな」と。
「こんなに雄大な自然あふれる地を
開拓するのは、同じく雄大な自然を
開拓してきた国の人のほうが向いているな」と。

開拓と言えば、フロンティア・スピリットだ。
すなわち、当時のアメリカ合衆国である。

それで彼が呼んだのが、
ホーレス・ケプロンという人だった。
南北戦争後、アメリカ合衆国で
農務局長にまでなった農業の専門家だ。
彼に、開拓の導火線としての役を期待した。

黒田は彼をスカウトしに、渡米する。
後の総理大臣よりも高い給料を示した。
ケプロンは彼の招聘に応え、来日。
北海道の開拓のプロットを作った。
これが1871年のことというから、
まさに明治維新が起きてすぐのことである
(彼は1875年まで日本にいる)。

高名な「クラーク博士」も、
ケプロンがいなければ来なかっただろう。
「北海道の酪農の父」とも呼ばれる
エドウィン・ダンも、ケプロンの子どもに
呼ばれなければ来なかった、という。

黒田が依頼し、ケプロンが作曲した
北海道開拓は、2000人を超える
様々な「お雇い外国人」によって
編曲され、開拓民たちによって
演奏されていくことになる。
文字通り、彼らは北海道を
造り変えていったのだった。

…こういう例は、現在でも残っている。

例えばプロ野球の広島カープでは、
「日本初のメジャーリーグ出身の監督」が
1975年に生まれた
(来日は1974年、打撃コーチとして)。
ジョー・ルーツである。

彼は、三年連続最下位だったチームに
「燃える闘志」を植え付けるため、
ヘルメットを赤く変えさせた。
いわゆる「赤ヘル」の誕生だ。
「君達一人一人の選手には、
勝つことによって広島という地域社会を
活性化させる社会的使命がある!」と語り、
チーム内の精神改革を実施した。
日本ハムからは「闘将」こと
大下剛史選手を獲得した。

彼は、オフシーズンに
刺激的な話題をふりまいた後で、

色々あってその年の四月に電撃退団する。
しかし、彼が残した精神と赤ヘルは
選手たちによって編曲、アレンジされ
受け継がれていったのである
(暗黒期もありましたが…)。

同様の例は、鹿島アントラーズの
ジーコ監督などにも見ることができる。
また、「宇宙人」とも呼ばれた
新庄ビッグ・ボスも、この系譜かもしれない。

そろそろ、まとめよう。
日本人は芥川風に言えば「造り変える力」を
持っている。アレンジ力が、ある。

しかし、その力を生み出すためには、
時代を先読みし、プロットを作り、
最初のアクションを起こすような人物、
導火線が不可欠なのだ。

読者の皆様は、いかがでしょうか?
また皆様の職場では、いかがでしょう?
環境や風土を読み、時代を読み、
その先読みに基づいて、最新のものを
取り入れようとしていますか?

私もつい「アレンジ待ち」になりがちなので
気を付けたい
と思います。

※「お雇い外国人」という用語は
現在ではちょっと語弊がありますが、
歴史的用語、当時の用語として使用しました。

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