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稿料の話(ここだけの話)

雑誌や情報誌の原稿料の話をしてみようかしらん、と筆を走らせてみます。でも、あんまり夢のある話にはなりそうもありません。ごめんなさい。

実はこの相場、すんごい前からあんま変わっていません。

わたしが駆け出しの頃、新聞記者から雑誌に転身してきた先輩編集者がいらして、氏に伺ったところ原稿用紙1枚・400字で数百円という時代もあったそうです。それがやがて数千円になり、いつからかページ単価という概念ができて、1p=万単位のギャラになっていったそうです。
んで、当時わたしが勤めていた編プロでは、純編集企画のページ単価2・5万。カメラもライティングも編集もそれぞれ2・5万でした。

ちょっと横道に逸れますが、このページ単価というのが新人のわたしには不思議でしょうがなくって。

だって、タイトルやリードが書かれた扉ページも2・5、大見出しをガツンと立てただけのページも2・5万、テキストでびっしり埋められたページも2・5万。カメラマンが撮影した写真も、1カット全断ちだろうが小カット複数掲載だろうがページ単価2・5万でした。こまか〜い情報をひたすら集めまくって綴っているページと、ポエムのようなタラシだけ乗っかったページが同じギャラなんて、オカシイじゃんと思うのが人情です。

これはたぶん、業界の偉い人たちが考えたんでしょう。よくできたしくみです。
雑誌の創刊時には、まず制作予算を組み立てなきゃいけません。制作費の概算を弾き出して、そこでようやく広告営業部隊が広告ページを何ページ割いて、どの程度の広告料金で売り抜けばいいかなどの目処を立てていきます。
あ、雑誌が売れたらそれも利益になりますが、この時点における販売数はあくまでも取らぬ狸の皮算用。売れる媒体になったら、そん時はそん時でお金を使える企画を立てればいいんですし、基本は広告収入をベースにされて計画を立てる雑誌が多いと思います。

仮に、企画1本ごとグロスで値付けをしておくという方法もあります。しかし、文章で読ませる展開か、写真で見せる展開かで、どうしても差異が出ます。つまり編集のやり方次第で予算組みが毎号変わってしまうことになります。企画内容でいちいち差配してたら面倒ですし、場合によっては制作費が想定以上に嵩んでしまって赤字を出しちゃうこともあります。だもんで、文字数多めの情報誌にしろ、写真多めのビジュアル誌にしろ、一律ページ単価いくらいくらに規定するというスーパーな方法論が編み出されたんじゃないですかね。

もちろん高名な作家先生がライティングに関わったり、世界的な写真家が撮影したりするページは、制作費が規定料金を超えて大きく跳ね上がりますが、それはそういうのを売りにしている企画ページなので、あらかじめ制作費に余裕を持たせて台割に組み入れます。

ちなみに同時期に発行されていた書店売りの人気雑誌でも、編集部が企画する純編集ページのギャラはだいたい似たような金額でした。広告スポンサーがお金を出すタイアップ企画は、規定のギャラにもう1万くらい上乗せされたかな。タイアップ企画は、半ば広告。スポンサーの意向が優先されますし、フリーハンドとはいえません。これは企業情報誌にもいえることですが、お客さんのご意見を尊重しなければならん誌面づくりは、純編集に比べて手数のかかる仕掛けが多く、厳しいチェックや直しの工程も格段に増えるんで、まぁ妥当な値付けだと思います。マガ(自主規制)さんも講談(自主規制)さんも小学(自主規制)さんも、タイアップ企画はわたしの場合、ページ単価は3・5万でした。代理店さんがマージン抜いていなければ、ですが。

なので、若手のフリーランスさんは10ページ程度の長尺企画を任されたらウッキウキだったんです。まわりを見渡せば、同世代のサラリーマンでひと月25万〜35万を稼ぐ人など滅多にいません。独身なら充分やっていけますし、その10ページの企画に1ヵ月間全力投球できますね。
しかし、所帯を持ったり家族が増えたり、より多くの稼ぎが必要になってくると、そうもいきません。ライターさんは、ギャラは微妙だけど名前が世に広く伝わって実績になる一般誌に加え、さらに実入りの多い広告系(だいたい5万くらい。でも工数多めで拘束時間も長く面倒)の書き仕事にも手を広げ、カメラマンさんだとタレントの写真集とか、ポスター撮影とか、安定のカタログ(数で勝負)とか、コスパのいい仕事を選ぶようになります。コラムニストで名を馳せ、作家に転向し、印税暮らしに鞍替えした元敏腕ライターさんもいましたっけ。

そんな感じで、この業界のギャラ相場は、失われた20年とともにほぼ変わらずでした。ただ、近年徐々にではありますが変化を見せている現場が増え、企業情報誌にいたっては目に見えて条件がよくなってきました。理由は世界的な物価高と円安。例えば、いまどきは海外ネタの特集で渡航費や滞在費をかけた贅沢なロケを組むなんてのは極めて少なくなりましたが、それでもやらなきゃいけない場合は、現地在住のフリーライターさんやカメラマンさんにお仕事を発注します。
でも、彼らの感覚はあちらの感覚。ラーメン1杯2000円から3000円、家族4人でマクドナルドを訪れただけで1万円以上普通にかかるのに、ひく手数多の歴戦のベテランがページ単価2・5万でやってくれるわけがありません。
結果、素人に毛が生えたような学生さんやインスタグラマーさんなどに仕事を振るというアホな思考が幅を利かせ始めるのですが、それがなかなかうまくいった試しがない。結局、彼らに集めてもらった情報や素材といったデータを、誰かでアンカリングしなければ世に出せないというハメになりがちです。だもんで、日本から海外に人員を送り出すことはできずとも、ギャラに色を付けて優秀なデータマン、アンカーマンを据え、全体的な待遇の見直しによってギャラ相場も若干ながら上昇傾向にあるという状況です。

その一方でウェブメディアの台頭があります。このウェブというのが、これまたギャラが安すぎる。記事を1本書いて数百円〜数千円とかザラみたいですね。チョロっと調べて書けちゃうコタツ記事の類いが多いから、適正といえば適正なのでしょうが、やられている人は、ちゃんとご自身の生活が成り立つくらいの対価を取るべきです。
もちろん、しっかりした視点に立って充分に取材を重ねた素晴らしい記事もあります。しかし、悲しいかな、そういう記事ほどアクセスは伸びず、キャッチーで扇動的なタイトルと、薄っぺらでコンビニエンスな内容がほとんどです。

雑誌はオワコンといわれて久しいですが、世の中から活字メディアが消えることはないはずです。どの業界もいい人材を集めるために相応の対価を払い、育てていくべきだと思います。そしてお互いに足を引っ張るようなことはしないで欲しい。このままだといずれ、いいものもダメなものも、一緒くたに滅びます。



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