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ペンネーム

わたし、たいていの記事は自分の名前で書いてます。
なんか小林旭の歌みたいですが。

でも、自分が編集をやらせてもらっている媒体で、自分が、自分が、になっちゃうと、「外部ライターさんを起用していない」→「原稿を自分で書いて、原稿料を自分のポッケに入れている」と版元からも周囲からも思われかねませんし、そもそも「多彩なジャンルに精通した人たちに書いてもらうことで生まれる多様性」が損なわれます。
なので、よっぽど思い入れがあるとか、誰よりもその分野への知識に自信があるとか、構成や仕掛けにこだわり過ぎて編集作業に手間暇がかかる企画なんかは自分でやります。逆にライターさんや編集部スタッフの発案であれば、できるだけお任せして、わたしはフォローアップに回るようにしている感じですかね。

もっというと、制作費の流出支出をケチって編集部内のスタッフだけでこなし過ぎると、手が足りなくて本当に困った肝心な時に、外部ライターさんのご助力が得られなくなります。
というのも、彼らは、わたしたちが定期的にお仕事を発注しているからこそ、収入のベースが安定し、ウチの媒体を大切に思ってくれ、他のお仕事に優先して引き受けてくださる。ポツポツとたまにしか、それこそ困った時にしかお願いしない場合は、どうしても軸足を他に置かざるを得ませんでしょ。遊びじゃなくて生活が掛かっているのですから。

また、心情的な部分も大きいでしょう。わたしだってフリーランスの時は、信じて頼ってくださる方々からのお仕事を大事にしてきましたし、知恵を絞って惜しみなくアイデアを出しましたし、スケジュールも優先させてきました。人間ですからね。損得や打算のみならず、人と人とのつながりで続けてきた仕事は多々あります。

とはいえ、それまで予定になかったのに急に立ちのぼってきた企画や、版元サイドからリクエストがあってできあがった企画、実施できるかどうかがあやふやのまま温めてきた企画、露出するチャンスを窺ってきた企画などは、急に外のライターさんに振ると負荷をかけちゃいます。心構えや準備に欠けるんで、パフォーマンスも発揮しづらい。よって事情を把握している編集部内の誰かが担うことになります。

だもんで、同じ号に複数の担当ページがあると「Text by わたし(編集部)」が幾つも並ぶことになります。そういう場合は、便宜上どうしてもペンネームが必要になってくるのです。

でも、せいぜい3つくらいですかね〜。

▪️オーソドックスな記事を書く時
ペルソナ属性:初老の文系オジサマ。ドライで抑制を効かせたタッチ。
イメージ的にはドラマで古物商役を演じる山崎努さん(若い頃)。
▪️旅やアート、最新グッズ、エンタメを書く時
ペルソナ属性:40代男性。好奇心旺盛、冒険心高め、若干ひょうきんで見栄っ張り。イメージ的には沢村一樹さんとか片岡愛之助さん。
▪️女性目線を要するネタ
ペルソナ属性:30代〜40代。男っぽい書き味だけど、実は女性っぽい繊細さも加味した性差不明の文体。イメージは佐藤仁美さんとか板谷由夏さん。

これ以外は本人名義がほとんどです。
でも、せっかくペンネームを使うんだったら、束の間その人になりきって、本人名義では決して使わないような表現やコトバを取り入れるようにしています。むろんネタに合わせてですが、自分では絶対書かないような文章というのかな。そうすると、時に本人名義では出てこないコトバが浮かんできたり、評論がしやすかったり、味わい深くなったりして、わりと成功することが多い。書いていて楽しくなってきます。書き手が楽しめているということはある種のバロメーター。筆致にもそれが現れ、多くの場合はいい記事になっています。

ただし、ペンネームを使うからといって、テキトーなことを書いたり、書き手としての責任や、発信者としての誇りを放棄するつもりはありません。


よくWebライターさん仲間で「個人情報を晒したくないし、特定されると炎上した時が怖いから」という理由でペンネームを使われていらっしゃる方がいます。恐れながら、個人的には「うーん」と思ってしまいますね。ケースバイケースでしょうけれど、ご自分が書いた記事で炎上を危惧するってことは、読み手にカチンとさせたり、感情を煽ったり、大多数の方々が持つ価値観からあえて外れる逆説を綴って、持論を際立たせよう、理解していただこうとする狙いがあるからでしょ。だったらば、炎上上等で臨むべしです。
正確にいえば、持論をガッチリと補強して、炎上させない説得力を持たせるべきです。その企みがうまくいかなかくて炎上したら仕方がない。
誤解を招いたり、不適切な表現をしてしまったら、お詫びするしかない。それがイヤなら最初から書かなきゃいいじゃん、って思うんです。

それって、ペンネームに甘えてるってことですよね。フィクションを書く作家さんならともかく、情報を発信したり、報道に携わる立場なら、自分の名を晒して闘いやがれよって思うのは無礼でしょうか。ご自分を安全圏に置いて、言いたいことだけ言い放って、その反応は受け止めないなんて、無責任な匿名のヤフコメなんかと根っこの部分では同義です。ずるいなぁーと考えてしまいます。

まぁ、こうして偉そうなことをいっているわたしも、noteでは匿名でやらせてもらっています。なぜなら、実名で申し上げたら間接的にご迷惑がかかってしまう方々がいらっしゃるでしょうし、角が立ってしまうような「本音の部分」を書けなくなってしまうから。仕事の執筆とは異なり、このnote は、それこそ、徒然なることを徒然なるままに綴る日記や備忘録の類いなので、ご容赦をいただければと思います。

もちろん、競合するメディアや商材ネタを扱う記事で本人名義の署名原稿をものしているからなど、やむを得ないケースがあります。仮にJALさんの『SKY Word』で連載を持っているのに、なんらかの理由でANAさんの『翼の王国』で書かなきゃならん場合は、どうしても実名使用が憚られます。そりゃ当然です。よってウチでは外部ライターさんのペンネーム使用を許容しています。


そもそも署名原稿というのは、書き手の責任の所在を明らかにするという意味から始まったもの。そこを曖昧にしてしまうと記事そのものも信用できなくなります。Allabout みたいに、ご自身のプロフィールをしっかりお示しした上で己の見識や経験を披露されていらっしゃる方にはリスペクトしかありません。
書くことを生業にお給金をいただいているWebライターの皆さんには、ペンネーム使用を当たり前のものとして捉えて欲しくはないですね。

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