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養豚場を見学した話

皆さんは養豚場って中を覗いた事はありますか?

今回はウチが使わせてもらっている豚を育てている平野養豚場さんに見学に来ますか?とお声がけ頂いてどんな風に豚を育てているのか見てきました。
(青いツナギが僕です)

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平野さんとの出会い

平野養豚場を知ったのは木更津でお店を出す事を決めてからです。パテやハムを作ろうと思ってたので豚肉を使うなら国産でなおかつ生産地が近くて信頼出来る方から買いたいなと思ってました。
千葉県には色々な養豚場がありますが、探していると同じ木更津市で唯一の養豚場があって、記事や自身のSNSで発信してる内容がとても熱くて共感しました。
養豚農家が置かれた現状や問題点を把握して、どうすれば良くなるか改善を繰り返して経営的にも労働環境的にも理想を目指して日々奮闘している様子が伝わってきました。

そして現地でソーセージやベーコンなど加工品を販売してると聞いて、買いに行って直接使わせて欲しいとお願いしました。

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一頭買いのメリット


平野さんの豚は通常の部位ごとの販売ではなく1頭買いです。
なのでロースだけ欲しいとかではなくて、ウデもバラもスネも背脂も丸ごと買います。
メリットとして使う側は1頭単位で買うのでロースやバラなど普段高価な人気の部位が低価格で使える。デメリットとしては全ての部位を使わないといけない。

僕は食肉加工を少し(本当に少し…)勉強してパテもハムもソーセージも作るつもりでいたので一頭買いは全く躊躇しませんでした。
シャルキュトリーという文化は素材を使い切る、内臓も血も頭も使い、残るのは蹄位。
命を生きる為に使い切るという所も惹かれた所でした。

ただ結果として全て作る余裕は全然無く…今はパテとハム、時々バラ肉で煮込みを作るくらいです。
残りのお肉はどうするかと言うと千葉で唯一平野養豚場のお肉を取り扱うお肉屋さんにソーセージに加工してもらってます。

そして一頭買いのもう一つ利点があって不正がしにくいんです。
例えばお肉屋さんで特定の銘柄のロースが5本欲しいと言った時に4本しかなかった時に、1本違う銘柄のロースが知らずに納品される事も悪質な業者さんだとあるそうです。

平野さんのお肉を扱ってるのは千葉県で信頼出来る1社のみです。
その会社の方とも使う前にしっかりお話をして、肉の加工場も見せてもらってきました。

食肉加工製品にも闇は色々ありまして、例えば市販の安いソーセージありますよね、ソーセージは本来氷を一緒に練ってあの食感を出すんですけど、添加物を入れる事で通常以上に氷が入るようにしてかさ増ししたり、ハムに卵白を注射して膨らますとあら不思議、もとのハムよりとっても大きなハムになりました。って事もあるんです。

平野さんのインスタでもこういう事を発信してます。
銘柄を偽ったりする事は残念ながらあるそうです。

いざ見学へ

まず現地に行ってした事は車の消毒です。

豚コレラが流行ってる今、菌を外から持ち込まない為に様々な対策をしてます。
そんな中で見学に呼んで頂いて感謝です。

まずシャワーを浴びて用意してもらったツナギに着替えます。靴下も変えネットもかぶり徹底します。
そして写真の様な消毒液を棟ごとに用意してもしもの時の感染の広がりを防ぎます。

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まず豚の親豚を見せてもらいました。
養豚場は飼育だけする所と繁殖も手がける所と分かれるそうです、平野さんは繁殖もしています。

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いきなりの迫力…!メチャメチャデカイです。
種豚は信頼できる業者さんから買ってるそうです。
豚は三元豚と言って親の良いところどうしを掛け合わせるように交配します。
お父さんは全身毛むくじゃらで200キロ位あるそうで見た目もイノシシのよう。
毛はタワシのようにゴワゴワしてる感じでキバもあり、森で会ったらもののけ姫の世界を彷彿してしまいます。
これでも食べさせればまだまだ大きくなるみたいです。

母豚と交尾をして一度に10数頭生まれます、そしてこの時に生まれた兄弟を把握して行くことが大事で(大規模でシステマチックな所はごちゃまぜになるよう)後に飼育していく時にも兄弟を一緒にするようにするとケンカやイジメなどが少なくなるそうです。

棟を出る時は毎回長靴を洗い消毒液につけます。

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次は飼育棟を見せてもらいました。

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成長に合わせて棟を移動するんですがここはまだ子豚、好きな時にご飯を食べて大きくなって行きます。
成長の度合いによって餌の配合を変えているそうです。

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こちらは出荷まであと少しの棟、それぞれ身体つきが違う為出荷する豚を決めるのは長年の観察眼だそう。


こうして成長していく中でどうしてもいじめられたり成長が遅い豚も出てきます。
大抵は効率の為に処分されてしまったりするんですが平野さんはそういった豚の為の部屋を用意して最後の出荷まで育て上げます。

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そして避けて通れないのが糞尿の処理。

糞は小型のブルトーザー みたいな機械で集めて空気を送りながら撹拌、発酵して肥料に変えていきます。

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尿は集めて何回にも渡り水分と沈殿物に分けながらエアレーションによって流せる所までもっていきます。

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(濾過を繰り返し)

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(エアレーションをしていく)

糞尿の量が大量なのでやはり掃除に割く時間はかなり多いそうですがとても綺麗にされていてウチも見習わなければと背筋を正しました。

そして見てわかる通り設備がそれぞれ大きいので一旦故障や壊れたりすると被害は甚大です。

一昨年の台風15号ではかなりの被害が出たそうです。

それでもボランティアさんや支援が沢山集まったのは平野さん達の人柄が大きかったんだと思います。

一通り見学させてもらい最後に素晴らしいから読んでほしい、と一冊の写真と文章が入ったファイルを貸してくれました。

当時大学生だった方が飲食店でアルバイトをしていた経験から豚肉に興味を持ち、畜産の歴史、流通の流れを飼料から養豚場、屠畜場、肉屋、料理屋まで人の口に入るまでを卒論として写真と文章で綴った冊子でした。

そこには飼料の豚に合わせたきめ細かさや衛生面の管理の徹底の仕方や、とうもろこしなど外国に頼っている現状、養豚場では取材を15件申し込んですべて断られ、16件目の平野さんが初めて受け入れてくれた事。
そこでの仕事のイメージとの違い…糞尿の処理や掃除にかける時間の多さ、平野さん達が豚に愛情を持って接している姿。
屠畜場に対する昔からの偏見、それに関わる取材の難しさ、働く人の意識。
肉屋の仕事と課題、それを解決する一頭買いの手法の説明、
料理店の取り組み、食材に真摯に向き合う大事さ、啓蒙の大切さ。

いい事も悪い事も感じた事をしっかりと書き、その時々の瞬間を切り取った写真と共に綴ってあり読んだ後に人が肉を食べるという行為についてまじまじと考えさせられる記事でした。

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また、この記事を書いては消してを繰り返していた時にこんな記事が流れて来ました。

ヴィーガンが増えて来てるという流れから動物を食べる行為を実際に働いてから食べて考えるという記事。

環境問題やアニマルウェルフェアの観点から畜産(特に牛肉)がやり玉に上げられてますが僕自身の答えは出せていません。
でも少なくとも分かるのは現状や現場を知らなすぎるという事。
僕がたった一日見学しただけでは養豚の大変さも、命と毎日対峙する覚悟も、ほんの少ししか理解出来てないと思います。それでも菌を持ち込むリスクのある部外者を忙しい中見てもらいたいと向かい入れてくれて案内してくれる平野さん。
その心意気と苦労を考えて、普段見れない所を見学させてもらった経験をしっかりと発信する事の必要性を感じました。

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信頼される人になる

僕の好きな漫画に『おせん』という漫画があります。

説明ヘタなんですけど老舗の料亭の若女将(自身で料理、畑、陶芸までしちゃう)が様々なトラブルを料理などを通して解決、食の大切さにも気付かされる話しで。
スローフードの回で世界中を飛び回ってた講師の人が素材の産地を細かく聞いてくる時にこう言います。

「食材を知る、産地を知る
けっこうなことでござんす。が、食材産地がなんぼ優れようともそれを生かすも殺すもしめえは人でござんす。おこがましいようでやんすが、いわしてもらやぁこう。

筋の通った料理が食いたきゃ筋の通った人間(ヒト)を拵える
それがわっちの、いやさ江戸の昔からの続く天下の一升庵のスローフードの道理でごさんす!」

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ウチの使ってる食材を見てこだわってますね、と言われる方もいるんですが、考え方としては「無農薬だから」とか「有名だから」とか、そういう理由では無くて。
こだわった材料を集めようでは無く、自然なパンを作りたいと改善を繰り返していくと、この生産者さん達だった。という結果論なんです。
やっぱり使っていって最終的に残るのは「この人から買いたい」かどうか、でした。

良い材料、美味しい材料を手に入れる事はお金を出せばそんなに難しい事ではありません。
そういう事よりもお互いに必要としてもらえる、そんな関係を築いて生きていけたら最高じゃないですか。

まだまだ出来てない事、やりたい事がいくつもあり、改善をしていく中で自分もパンという食糧を作る「この人から買いたい」になれるように日々思いながらパンを焼いて行きます。



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