140字小説×3【①②③】

足枷から伸びる鎖に鉄の玉、十個程、少年は引きずっている。やがて力尽き炎天の路上に膝をついた。通りがかりの痩せた老婆は裁縫箱からまち針を取り出すと、鉄球に刺し、風船みたいにパチンパチン、いとも簡単に割ってしまった。去り行く老婆の背にも纏わる無数の風船を、誰が割ってくれるのか。
——
140字小説①『鉄のように重たい悩みも他人には風船のように軽い、場合もある』 2023.08.03
(初めて書いた140字小説。noteに投稿済の『鉄球を引く少年と、虹色の体液の妹』が先に頭にあり、それを140字にまとめてみました。初挑戦にしてはよくできています。)


太陽のように光り輝く子にとの思いで陽子と名付けられた少女は事実完璧な光の子となった。一方樫月子は全身から汗の蒸気を噴き出し「加湿器子」とあだ名され泣き暮らしていた。二人が出会った時、月子の噴き散らす汗が陽子の放つ光で虹になると皆は目を瞠った。離れたくないと【陽子は】強く思った。
——140字小説②『陽子は』  2023.08.05
(樫月子(かしつきこ)→加湿器子)


小窓からヤモリが侵入した。放置した所、便所に住み着いてもう五日程も汚い水滴等舐めて暮らしている。外敵のないここが安寧の地か。そんな訳はあるまい。体の色もなんだか黒ずんでいる。私は堪らずヤモリを掴み取ると絶叫しながら裏の藪に投げそのまま藪を突っ切って夜を走った。もう帰らないつもりだ。
——140字小説③『広い世界へ』  2023.08.22
(ヤモリは天敵のいないトイレに住み着いていますが、私だってこんな小さな家の中に住んでいる。世界はこんなに広く、空はあんなに高いのに、壁と天井がそんなに好きか? 見上げれば天井見下ろせば床見渡せば壁、ああ嫌だ本当にそれらは必要か? まあ、必要なんですけど。)


御無沙汰しております。卑太郎です。
フォロワーの皆様、スキをつけて応援して下さる方、コメントを頂ける方、ひっそりと読んで頂いている方、いつも本当にありがとうございます。
前回の投稿から気づけば一か月以上も経ってしまいました。
やる気はあるのですが、ここのところ私生活が忙しくなってしまい、なかなか記事が書けませんでした。
構想は二つ三つあるのに実際に書いてみると、思うようにならないということもあります。
それでも少しずつ書こうとはしており、やめた訳ではないので、いつかまた投稿できた日には、お付き合い頂ければ幸いです。

ところで今日から数回に分けて、X(旧Twitter)の方でやっている140字小説をこちらでもまとめて投稿させて頂きたいと思います。当初私は140字で何ができるものか、と、Xを完全になめ切っており、noteの宣伝ができたらいいなというくらいの思いで始めたのでしたが、Xにも、短い中で素晴らしい作品を投稿されている方がおられ、特に140字小説というものの存在を知り、自分でもやってみているうちに、こちらはこちらで本気になってやっている、というのが現状です。
そうなるとnoteでのみお付き合い頂いている方々にも是非ともこれは読んでもらいたいなぁ、という気がして、なので、noteの記事が書けないからお茶を濁すというような意味合いではなく、これはこれで真剣に書かれた作品ということで、こちらでも共有させて頂きたく。
またXの特性上まとめて閲覧することがしにくいので、Xでお付き合い頂いている方の中で奇特にもまとめて卑太郎の140字小説を読んでやろうという方がおられるならば、という思いもあります。
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

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