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#10. あなたの風邪は、どこから?


御多分に漏れず、花粉症に悩まされている。目は痒く、鼻水は絶えず溢れ出る(余談だが「鼻水が出る」ことを英語では "My nose is running" というのはどうしてだろう。ぼくの鼻は走ってるわけじゃないのに)。

花粉症といえば、これも前々から疑問に思っていたことなのだが、英語で「花粉症」hay fever と言ったりするが、これってどうして fever (熱) なのか。いくら辛い花粉症でも、高熱にうなされているという人にはこれまで出会ったことがない。

だから、外国人に「いま花粉症に悩まされてて......」と言うときに "I'm suffering from hay fever" と口にするのは、いつもどこか抵抗感がある。

先日そんな話を、同じく花粉症に苦しんでいるというイギリス人の友人としていた(お互い英語で何と言ったか正確には覚えていないので日本語):

ぼく:ところで英語の "hay fever" っていう表現、なんか変じゃない?だって花粉症のときに熱は出ないでしょ。イギリスと日本とで花粉症の症状が違うってこと?

友人:いや同じだよ。日本のやつの方がはるかに辛いけど(充血した眼をこすりながら)

ぼく:じゃなんで "fever" なのさ。なにか考えはある?

友人:いやでもほら、たとえば風邪をひいてるときだって (when you have a cold) 、別に「寒さ」(cold) を持ってるわけじゃないだろ?(両眼を手でおさえながら)

ぼく:まあたしかに。なんなら体温は上がってるしね (笑) 

友人:そうそう。ぼくらの言葉に、そういう不合理は付き物なのさ(目尻に涙を浮かべながら)

なんだかうまく煙に巻かれた気がしたので、辛そうな彼に "Take care!" と言ってお別れした後、帰って語源を調べてみた。

結局 hay fever についてはわからなかったけれども、彼が引き合いに出していた「風邪」の cold に関しては、Online Etymology Dictionary の cold (n.) の項に以下のような記述があった:

Sense of "indisposition involving catarrhal inflammation of the mucous membranes of the nose or throat" is from 1530s, so called because the symptoms resemble those of exposure to cold . . .
「咽喉や鼻の粘膜における炎症を伴う病」という意味では 1530 年代から。そう呼ばれるに至ったのは、その症状が寒冷暴露[寒さにさらされて体温が戻らなくなること]のそれと類似しているからである。

つまり、「寒さにさらされてなる病気」だから "cold" ― 単純明快である。

一方、日本語の「風邪」も「邪(よこしま)な風」という漢字のつくりとなっていて不思議に思ったので、ついでにすこし調べてみた。

この語源に関しては諸説あるようだが、有力なところでは、かつて風邪の症状は「邪気を含む悪い風」によって引き起こされるものだとされており、その風のことを「風邪」(ふうじゃ) と呼んでいたことから来ている、とのことだった。

つまり、「邪悪な風にあたってなる病気」だから「風邪」― これもやはり、さもありなんといった感じである。

「あなたの風邪は、どこから?」で始まる薬の CM があったが、英語の場合「ぼくは『寒さ』から」、日本語は「わたしは『風』から」といったところだろうか。

「花粉症」について調べていたはずが、思いもかけず、「風邪」の表現に、日英における認識の違いを見つけてしまった。

このような発見が毎日、それも湯水のように湧き出てくるから、やっぱり言葉はおもしろい。(溢れ出る鼻水をティッシュでおさえながら)


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