見出し画像

令和元年・秋場所雑記

昨年のサッカー・ワールドカップで話題となったVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)が、日本のJリーグでも導入された(一部だけど)

導入初戦となったルヴァンカップ準々決勝(9月4日)をライブ観戦していたので、日本サッカー史上初のVARを目撃したのだが、その際に感じたのが……

大相撲にくらべると、まだまだ遅れているな

導入初戦だったせいもあって、レフェリーのアクションも曖昧だったし、そもそも判定結果に関するなんの場内説明もなかったから、スタジアムの観客のほとんどは、何が起きているのかわからなかったのだ(あとで録画したテレビ中継を見たが、放送席にもちゃんと伝わっていなかった)

前にも書いたと思うが、大相撲が勝負判定にビデオを導入したのは、もう今から50年以上前のこと。だから、いまではすっかり定着している。

きわどい勝負に物言いがつき、勝負審判が土俵に集まり協議する際に、審判長がイヤホンでなにやら耳を傾ける光景を見れば、すぐに「ああ、ビデオ室の意見を聞いているな」とわかる。もちろん、協議後には審判長がマイクを取って場内に「ただいまの競技についてご説明いたします

このシステムがいかに優れているか、JリーグのVARを見て、あらためて感じた次第。

ところが、そのシステムが、今場所に限っては、いまひとつ機能不全に感じられた。なんとしたことか。

じつは、くだんの「ただいまの競技について」は、物言いがついた場合のみなのだが、今場所の取り組みでは、そこにおさまりきれない場面が多かったのだ。

優勝戦線佳境の終盤戦、遠藤対隠岐の海の一番が典型的だった。激しい攻防の末、遠藤の投げが決まって勝負あった! と誰もが思ったが、軍配は隠岐の海に。場内の観客もテレビ桟敷の視聴者も、あっけにとられる。

攻防のさなか、遠藤の足がわずかに土俵を割っていたのだ。その判定自体もやや際どい気がしたが、それでもルール上は問題なし。

と、そう思ったのは、テレビでこの一番を見ていた視聴者だけだろう。テレビではスロービデオを繰り返し流し、アナウンサーや解説者が「ああ、ここですね」とか言ってくれたので、なんとなく納得いった。

だが、国技館を埋めた観客たちはいかがだっただろうか?

物言いがついたわけではないので、場内への説明は一切なし。もちろんヴィジョンでのスロー再生なんて設備も国技館にはないので、たぶんほとんどの観客は、どうして勝ったように見えた遠藤が負けで、横転した隠岐の海が勝ち名乗りを受けたのか、家に帰ってテレビを見るまでは納得できなかったのではないか。

数的にはテレビ視聴者のほうが圧倒的に多いので問題にはならなかったが、高い入場料を払って観戦している観客だけが置いてきぼりでよかったの?

こうした、一見勝負がついた場面でないところで勝負が決していたケースがわりと多かったのだ。それはそれで激しい攻防のあった熱戦が多かったことのひとつの証左ではあるのだが。

ほかに、立ち合いの不成立でもこの問題が見受けられた。

時間いっぱい、見合って……立った! いい当たりだ! と思った瞬間、行司が割って入り、仕切りのやり直しってケース。これも今場所は多く見られた。盛り上がった瞬間に冷水を浴びせるようなもので、ひどく興を削ぐ。

こちらは、そもそも立ち合いの呼吸の乱れ、手付きの不十分など、基本の基本が守られていないからなので、力士諸君には反省を促したいが、これも場内説明はいっさいなし。立ち合いの変化で勝負が決したように見えたのに不成立だった一番などもあったので、ここもきちんと場内説明がほしかった。「ただいまの立ち合い、東方力士の手付きが不十分だったため、不成立です」と審判長が一言いうだけですむことなのだから。

どちらのケースも、よほどの相撲通でも瞬間的にわかるかどうかなのだから、ましてや一般観客にはわかりにくい部分だろう。相撲人気は上昇ムードなのだから、いまこそ一般層への目配りは必要だと思うが、いかがですか?

さて、土俵上のことだが、場所前には予想されていなかった大混戦の優勝争いで、それなりに盛り上がった。特に若手力士たちの成長ぶりは加速中で、もはや途中休場した白鵬、鶴竜の時代が終焉を迎えつつあるのは間違いないだろう。

ただ、その若手たちがあまりにも充実し過ぎてきたせいか、互いの潰しあいが激しく、いっこうに頭一つ抜け出す存在が現われないのは、皮肉だろう。

そんななか、なんとか抜け出せそうなのが、大関復帰を決めた貴景勝と、優勝した御嶽海だが、そう簡単にはいきそうもない。

実力伯仲の若手の中から抜け出そうという二人が史上初の関脇同士の優勝決定戦を争ったのだから、いよいよ新時代来たる、御貴時代(か?)の到来、と盛り上がりそうなものだが、ムードはいまひとつ。

じっさい、貴景勝は決定戦で負傷して早くも九州場所の出場に黄色信号がともっているし、御嶽海は初優勝からこの2度目の優勝までの足取りで信用を無くしているせいもある(この間一度も二桁の勝ち星を挙げていないのだ)

阿炎、北勝富士、朝乃山らの実力が両者に接近していることもあり、次なる時代の覇者は、いまだ定まらずといったところだろうか。そうこうしている間に、十両では琴ノ若が結果を残し、幕下の豊昇龍、琴手計が来場所の十両昇進を(ほぼ)決めた。同じ幕下上位で納谷塚原も勝ち越した。幕内上位の若手諸君、うかうかしていられないですぞ。

先ほども書いたが、優勝は関脇の御嶽海。関脇の優勝は史上28度目だが、御嶽海自身は昨年名古屋場所に続いて2度目の制覇。関脇の地位で2度の優勝を手にしたのは、過去には意外にも3代目朝潮(のちに46代横綱)しかおらず、御嶽海が2人目となる(朝潮は昭和31年と32年の春場所の優勝だから62年ぶりか)

けっこうレアな記録を残したわけだが、御嶽海は来場所も関脇の地位にとどまるだろうから、史上最多の関脇優勝3回、史上初の関脇で連続優勝も夢ではないということだ。

いやいや、そんな記録よりも、大関獲りのほうが肝心だろうが。

九州場所はすぐにやってくる(初日は11月10日) 若手たちのしのぎあいの行方は、両横綱の復活は、大関陣の運命は、年間最多勝は誰の手に(これは改めて書きます) 話題満載の納めの場所に期待しましょう。

大相撲/丸いジャングル 目次

スポーツ雑記帳 目次

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?