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転移と逆転移、そして支援。

お読みになる前に
お読み頂く皆さんにお願いがあります。
支援団体の活動に差し障る誹謗や迷惑行為、容姿を貶めるような表現は何があっても(例え相手が貶めるような暴言を言ったとしても)正当化されるべきではないと思います。
この点はくれぐれも気をつけましょう。お互いに。


衝動性の記事などを書いていたのですが、この数
日のTwitterのざわつきがすごく、急遽こちらの記事を書きたいと思いました。
とある方が色々な人や表現にむやみやたらにSNSで攻撃し、炎上…。その方は支援団体の方ですが、前に書いた認知の歪みの話を更に複雑にさせる様子を感じました。


そもそも、なんでこんなに攻撃的なんだろう、と疑問に感じ、彼女への中傷は諌めながら、彼女の行動を批判もしていたのですが、今は合わないと思った方を全て(私も含め)ブロックしたようです。
それは彼女の自由なので構いません。

彼女は支援者という立場にあるのですが、少し逆転移がある方なのかなと個人的には思いました。逆転移があることで、彼女自身が支援相手の不遇に取り込まれる形で男性や社会への怒りをぶつけてしまっていないかと思ったのです。

彼女の考えや行動に私は賛同していません。
その視点からの考えをまとめたものになります。
彼女の考えに絶対的なシンパシーを感じている方は、続きはお読みにならない方が良いかと思います。


①そもそも転移とは?
転移は本来はFreudの定義した精神分析学で提唱された考え方です。
面接などの心理介入をしていく際に、クライエントが過去に重要だった人物(両親が多い)に持った感情を治療者に向ける現象を言います。
とても平たく言えば、親との関係にわだかまりを抱えたままでいたクライエントが無意識に治療者に対して親の代わり求めるような反応が多いのです。

②転移の実際
私がある中学生の男子のクライエントとやりとりをした際、軽い転移が彼に生じたことがあります。(守秘義務があるのでぼやかした書き方になりますが)両親の不和があり、出会った頃の彼は父親には憎悪を感じている様子でした。

治療が始まって数回までは、彼は父親への不満や怒りをこちらに転移することが多かったように思います。
この時期は言い分を聞きながら、考えを尊重し、受け止めることに徹しました。

彼がこちらとのやりとりで『それで良いんじゃない?』と承認されていく中で、転移の内容が変わります。
自分が考えたこと、出来たこと、やりたいことをこちらに話し、背中を押して欲しがるように変わったのです。

高校生になった彼とのやりとりの中で、私はとある決断をします。面接場面で彼に『その気持ちを直接お父さんに伝えてみたら?』と提示しました。
かなり葛藤した彼ですが、自分の考えを伝える力は備わっていること、そこで傷ついたら、またここで話せばいいことなどを伝えたところ、彼は父親に何とか向き合い、自分の気持ちを伝えました。

彼と父親のやりとりが強まる中で、彼の転移は消えていき、大学に彼が入学するのと併せて、彼の治療は終結しました。

治療の中で、私は転移を利用しています。他人として淡々と話すだけだと、彼は『大人はわかってくれない』と離れたでしょう。
彼の父親転移を受け止めたり、承認することで治療関係を作り、信頼関係を作りました。
そして彼が力をつけたタイミングで現実に向き合う際には『信頼できる大人』から背中を押されることがエネルギーになったと思います。

②では逆転移とは?
転移はこのように起こるものですが、治療に大きく差し障る場合があります。
多くは”逆転移“と呼ばれる状態です。

治療者の心の中に処理しきれないままで、くすぶっている何か(親との葛藤、トラウマなど)がある場合、同じような葛藤を抱えたクライエントに引っ張られ過ぎて、俯瞰的な立ち位置が取れなくなることがあります。
強く言えば、治療者がクライエントに”取り込まれた“状態に陥ります。クライエントに怒りや憐れみ、愛情などの過剰な感情を持って移入してしまうのです。
これを逆転移と呼びます。


③逆転移の危うさ
心理治療に関わる人間は、充分な力がつくまでは必ず過剰な転移や逆転移について、定期的に第三者に相談(スーパービジョン)しながら治療を進めます。
逆転移をすることで、クライエントの背中を押すどころか、一緒になって共通の敵(多くは家族)への憎悪を掻き立てたり、怒りを爆発させることは、クライエントの心の健康を損なう危険なことであり、それが生じた場合は治療を中止し、担当を交代することが必要だからです。

しかし、現実には支援者と呼ばれる人々の全員がこのようなプロセスを取っているとは言えません。
そもそも支援者全員が心理治療の前提や功罪、適切な介入に熟知しているわけではないのです。
当然、スーパービジョンを受けていない人もたくさんいます。

更に厄介なことに、自分が抱える葛藤やトラウマを処理したい気持ちの裏返しとして、支援者になる人も少なくないのです。
自身がケアされたい気持ちをクライエントに向けることも一種の逆転移のようなものかも知れません。

④支援とは
行き場のない、逃げ場のない人への緊急支援は必要なことです。これを地道に続けることは、強い情熱が必要であり、本当に尊敬されるべきことだと思います。この点は強調します。

しかし、逆転移を起こしてクライエント達の抱える行き場のなさ、やるせなさや怒り、悲しみに取り込まれ、代弁者として家族や社会、男性に対して怒りを向けることは、攻撃される状況を生み出し、分離や孤立の原因を作ります。
そして何より、クライエントが自分の状況に向かい合い、葛藤を乗り越える健康な自立をも妨げます。

家族や社会と折り合いをつけるタイミングを失い、治療者とクライエントのそうほ憎悪を激らせていくのであれば、それは色々な人が傷つきます。
トラウマ処理の知識や力量のある治療者に繋げたり、そのようなスタッフがいると安心なのではと思います。

⑤最後に
支援が必要な人達がいることは紛れもない事実です。
その中で受け止めながら、飲み込まれない立ち位置を保ち続けることは非常にエネルギーが必要なことです。
1人でも多くの人が攻撃し合うのではなく、上手くいく社会ができると良いなと思うこの頃です。

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