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【この声、実は「私」です!】第2回 大山 もも代さん

いつも使っている路線の電車内アナウンス。
よく行くお店の店内放送。

普段生活するなかで何気なく聞こえてくる声。一体誰の声なんだろう?一度はそう思ったことがある方も多いのではないでしょうか。
連載企画、【この声、実は「私」です!】では、〇〇の声を担当しているナレーターのみなさんにお話をうかがいながら、ナレーターという仕事の魅力をさらに知ってもらおうという企画です。

第2回目の記事は、かゆみ止め薬といえばこれ!と言っても過言ではない、「ムヒ」のサウンドロゴを担当している大山 もも代さんにお話を伺いました。

■プロフィール
幼少期をイタリア・カナダで過ごす。日本語の表現の豊かさに魅せられ、東京外国語大学 日本語専攻入学。大学卒業後、「よこざわけい子声優・ナレータースクール」に入所。2012年よりフリーランスとして独立。
趣味はK-POP、エスニック料理店めぐり。
Twitter:@MomoyoOyama
HP:https://momoyooyama.com/voice-ja/

「ムヒ」のサウンドロゴを担当されている大山さん

まずは、ムヒのお仕事に至ったタイミング、経緯について教えてください。

私は大学卒業後に養成所に2年通い、そのまま事務所に入りました。事務所に入って、数ヶ月というタイミングで頂いたお仕事だったと思います。

当時、基本的にボイスサンプルで決め込みという感じでお仕事が決まることが多かったんですが、珍しくオーディションという形でした。ボイスサンプルを出して、何名か候補が絞られ、その後オーディションに呼ばれて、クライアントや制作さんの前でパフォーマンスするという流れでした。

オーディションにいくまで、TV CMというのは聞いていたのですが、何のCMなのかは知らされていませんでした。オーディションの場で、ムヒのサウンドロゴということがわかったんです。

オーディションでは、「ムヒ」という2音を色んなパターンで読みました。色んな音でも読んだりしました。実際に放送されているのも、声が何重奏かになっていますよね。(私1人の声でハモっています!)2音なので色んなパターンを試しながら、普段どんな仕事をしているんですかとか、こういうことやったことありますかとか、質疑応答をされた記憶があります。

後になって話を聞いたところによると、今まで世に出ていない声というのを探していたらしいんです。印象がついていないフレッシュな感じの声がいい!ということで、ほぼ新人で未経験の私に仕事がきたのかもしれません。


収録で印象的だった出来事はありますか?

ナレーションはこの音で読んでくださいというのは特にないと思うのですが、サウンドロゴは、メロディが必ずありますし、完全にどの音というのが決まっているんですよね。その音を取るのが結構難しかったです。

滅多にないことなんですけど、ブースの中に簡易ピアノみたいな、ちっちゃなおもちゃのピアノみたいなものが用意されていて。それで、ムヒの音階を自分で押して、その音が耳から消えないうちに読むみたいな感じでした。「この音は絶対外さないで。音を確認しながらやってほしい」ということで、音を鳴らしながら録ったことは印象的でした。

他にもCMのサウンドロゴを担当させてもらっているものもありますけど、ここまで音がハッキリ決まっているというものはないですね。今のところ最初で最後です。

音を合わせるのは結構大変でした。オーディションでも色んなパターンをやりましたが、収録現場でもさらに色んなパターンを試しながら皆で作り上げていく、という感じでした。だいぶ長時間かかった記憶です。2音だけなんですけど、すごくこだわって作られていました。

収録自体も、半日はかかりました。午後にはじまって、数時間。4〜5時間録ったんじゃないかな…。感覚的に、短いものほどクリエイティブにこだわる作り方をすると思います。特にCMとかは長くかかる印象ですが、2音で4〜5時間はなかなかないですよね(笑)


実際に収録を終えて、放映された時にどんなお気持ちでしたか?

感動しましたね。テレビで自分の声が流れてきたのを実際に聞いたときは、「わ、これ録ったけど本当に使われたんだ〜!」ってそんな感じでした。テレビから声が流れているという感動と、普段から好きで使っていた商品に携わっているという感動と2つありました。家族も喜んでくれたので、それもとても嬉しかったですね。

夏になると必ず流れるCMなので、耳にする機会も増えて、自分の声を他の人が聞いてくれているという実感を強く持てた初めての経験でした。

ムヒのロゴは、100年使えるロゴとしてデザインされたというのを事前に聞いていました。ロゴの話なので、サウンドロゴがどうかはわからないんですけど。私としては100年使われてほしいなと思っています。


ムヒのサウンドロゴに携わってみて、大山さんの中で気持ちの変化はありましたか?

本当にデビュー直後だったということもあって、それまでと、それ以降とあまり変わりがないかもしれないのですが、仕事への向き合い方について考えさせられる機会だったと思います。

ムヒってカタカナとかアルファベットで書くのが一般的ですよね。ムヒの由来は「唯一無二」の無比。他に比が無いという、比べられないという意味が込められているんです。その想いを込めるのはもちろん意識しましたが、収録が決まってから、クライアント(池田模範堂)のHPなどを調べて、社員さんの気持ちや、会社としてのポリシーだったりとか、製品づくりに対する心がけとか、お客さまに対しての想いとか、そういったものを全部背負って、2音の中に込めたい、込めなければ、という経験をしました。

そこから、VPを読むにしても、CMを担当するにしても、その会社代表というか、自分の声がその会社のイメージになるんだという気持ちで臨んでいます。ムヒの場合、2音で伝わりきるものではないと思いつつも、何か伝わるものがあればということを頭に入れて声にする。っていうことをすごく意識した最初のお仕事でした。

それ以来、放送されるものだけでなく、社内の研修ビデオや会社紹介ビデオなど、内部で使用されるナレーションをするときでも、そこをとても意識しています。


言葉になっていない想いをどれだけ込められるか

クライアントのことは、どこまでお調べになられるんでしょうか?

クライアントや商品のリサーチは結構する方だと思っています。会社のホームページはもちろん、自分でネットを使って調べられるものは結構見ますね。会社概要をはじめ、社長メッセージとか、社員の1日とか。この会社の人たちはどういう気持ちを持って働いているのかなとかを知るようにしています。また、商品だったらその商品を使っている人の口コミとかを見てみるということもしています。

事前に情報や原稿をもらえず、現場で原稿を頂く場合など、あまりヒントがないときは、クライアントのロゴを見るようにしています。例えば、同じ銀行だったとしても、三菱UFJ銀行だったら赤だし、みずほ銀行は青。コーポレートカラーというものに少しイメージがあるような気がしていて、その色を意識して声を出すこともあります。あとは、もちろん映像やBGMにも助けられますね。

原稿の文字を読み上げるだけ。というのではナレーターの意味がないと思っていて。言葉になっていないものをどれだけ込められるかがナレーターの腕の見せどころじゃないかなと思っています。ナレーションをするときは、文字をただ音声にするのではなく、どういう意図でその文章になっているのかというところを考えています。文字になる前の「想い」みたいなものを昇華させていくというのが、ナレーターの仕事なのかなと究極的には思っています。

私は、企業VPのお仕事を本当に多く担当させてもらっていますが、その中でも企業のブランドムービーや、企業説明のVPが多いです。個人的にすごく好きなジャンルなんですが、それは想いを伝えるということそのものだから、かもしれません。どうしてもナレーションって技術って思われますし、実際に技術も大事だと思います。ですが、やっぱり伝えるということが私たちができることなのかなと思っています。

これは養成所で習ったことでもあるんです。声を作ったりとか自分がどう綺麗に読めるかということは忘れなさい。それは一番いらない。声を作ることを出発点にせず、その原稿を感じて、その場に立ちなさいと。結構スピリチュアルっぽく聞こえるかもしれませんね(笑)原稿を感じて、それを表現するという立場に立ったときに出てくる声がその原稿に一番合った声だからと教わりました。

それまで、この原稿だったら低めに入った方がいいのかな?とか、可愛い感じで明るく高い声で読むべきかな?っていう考え方をしてたんですけど、原稿をまず感じるということの大切さに気づかされました。この考え方は今でも大切にしています。


想いを伝えるという点で、印象に残っているエピソードはありますか?

もう一つよく任せていただくジャンルで、館内放送というお仕事があります。ショッピングモールとか、大きい商業施設とかで流れてくる「本日はご来館くださいまして〜」というようなものですね。それもすごく好きな仕事です。

商業施設って色んな人が訪れますよね。色んな状況で来ている人たち一人ひとりに寄り添うような表現を出したいなと思っています。情報を伝えるということがメインなので、何時から何時までこのイベントやってますとか、今こういうキャンペーン中ですとか、閉館時間が何時ですとかなんですが、その情報を伝えつつ、また来たいなって思ってもらえるようなそんな館内放送にしたいんです。

館内放送って旅館の女将みたいな立ち位置だと思っています。来てくれている方を歓迎して、気持ちよく過ごしていただき、「またお越しくださいね」という気持ちでお見送りする。その感覚が旅館の女将のような感じがして、しっくりくるんです。聞いてくれる方にとって、流れてくるアナウンスがおもてなしになったらいいなというのを意識するようにしています。

館内放送をさせていただいている代表的な施設は、住友不動産ショッピングシティ有明ガーデンと羽田エアポートガーデン、そしてサンシャイン水族館・展望台です。いずれも日本語と英語、2言語のアナウンスを担当しています。

大山さんが館内放送を担当されている有明ガーデン

館内放送に関しては、サンシャイン水族館が初めての収録だったのですが、普段流れているものの他に、災害時のアナウンスも収録したんです。災害時のアナウンスは流れない方がいいアナウンスですよね。他のアナウンスは必ず流れるものと決まっているし、流れてほしいものですし、流したいと思っているものです。ですが、この時ナレーターとして初めて流れてほしくないアナウンスを録ったんです。ただ、前回の記事、Chizukoさんの記事を読んで、まさに私もそうだなと感じたんですけど、もしそれが流れたとき1人の人の命を救うかもしれないという強い使命感を感じました。

それまではナレーションって情報を伝えることや、その情報を元に誰かがなにか感じたり、行動を起こしてくれる。それがナレーションであるべきだと思っていたんですが、この仕事はそれの最たるものというか、人の命に最も関わっているという印象を強く持ちました。その後から他の館内放送でも、その意識を持って収録をするようになりました。

落ち着いて行動してほしいんだけれども、安心感も感じてほしいという非常に難しいさじ加減ですよね。深刻になりすぎても不安な気持ちになっちゃう。まずは安心感を与えられるよう、次に落ち着いて行動できるようにという点を意識しました。苦労しましたが、やりがいがあった仕事でした。


気持ちや声のイメージというのはどのように作られているのでしょうか?

どんなナレーションをするときもそうですが、視聴者意識を大切にしています。もちろん声を発しているのは自分なんですが、私だったらどういう声が流れてきたら安心するかな?とか、どんな声でこの情報を聞いたら行動できるかな?というのをすごく意識するようにしています。館内放送は基本的に日英両方担当しているので、英語のアナウンスに関しては、ネイティブスピーカー以外の方にも聞き取りやすいように、よりわかりやすく丁寧にというのを心がけました。


大山さん流 表現力の磨き方

大山さんって想いを言葉に載せるということに熱量がありますよね。
世間一般のみなさんがどう受け取るか、客観的な表現力の磨き方についてはどのようにされていますか?

磨こうと思って磨いてはいなくて、もっと色々研究しないとなんですけど…
おっしゃる通りで、自分がどう感じるか ー 例えば、どういう声を聞いたら安心できるかというのは自分軸だと思うのですが、その自分を少しずつ広げていくということはできると思っています。客観的に見るというか、その声が客観的にどういう風に聞こえるかということです。ですが、客観的に見るというのもどうしても自分がないとできないことなので、自分の感情の引き出しを増やすみたいなことですかね。自分があー怒っちゃったってなったときも、なんで怒ってるんだろう?こういうことかな?というのを考えてみたりとか、色んな視点で感情を分析するようにしています。

他にも本を読むのが結構好きで、本を読むことで自分の感情の幅を広げられているかもしれません。本は色んな登場人物が出てくるし、心理描写も出てくるので。


どのような本をよく読まれるのでしょうか?

私は小説とノンフィクションが好きでよく読みます。小説は本当に心理描写が多いですしね。ノンフィクションは、事件のルポとか、社会派ドキュメントみたいなものが結構好きで、最近はそういうジャンルをよく読んでいます。痴漢の冤罪の話とか。すごくリアルなので。勉強のためにというよりかは、趣味で読んでますけど(笑)

表現力に関しては、養成所で演劇の指導を本格的に受けたのが大きいと思います。演技に力を入れる養成所だったので、舞台での芝居もたくさん経験しました。

中でも、ロシア発祥のスタニスラフスキーシステムという演技のメソッドとして有名なものがありますが、その創始者である演出家のスタニスラフスキーが書いた『俳優修業』を読んだことがすごく勉強になりました。簡単な話で言うと、俳優志望の男の子が、師匠から色々指導を受けながら一人前の俳優になるための修行を積んでいくという構成なんです。俳優になりたい男の子が自分に重なって、その当時ものすごく刺さりましたね。

大山さんが実際にお持ちの『俳優修業』。付箋がたくさん貼られている。

例えば、悲しいシーンや泣く演技ってあるじゃないですか。そういうシーンの指導で「母親が、抱いている子どもを取られて処刑されるというとき、その母親の感情はどんなものだと思うか」と師匠に聞かれて、主人公は、「悲しい」とか「絶望」と答えるのですが、セリフの裏側にある感情は名詞や形容詞ではない、常に動詞であるべきだと師匠が言うんですね。つまり「悲しみ」とか「絶望」を表現するのではなくて、「私の大切な子を返して!」とか「あの子に酷いことしないで!」という動詞由来の感情に突き動かされてセリフが出てくるという。役を生きるというのはそういうことだ、って師匠が言うんです。感情は動詞だ。っていうのを読んだ時に、ものすごく感動しました。

それはナレーションにも言えることで、さっきお話しした館内放送であれば、「安心感」を表現するんじゃなくて、「私は聞いている人に安心してほしい」、という風に、原稿に対するアプローチの出発点が少し変わったんですよね。

私は、英語ナレーションのレッスンもしているのですが、どうしても英語で読むとなると、アクセントとか発音があってるかなとか、綺麗に英語を読むということに重きを置いてしまう方が多いんです。やはり日本語と違って外国語なので、自分が正しく読めているかということにフォーカスしてしまうことが結構多くて。本当は伝えることが一番ポイントなのに、そちらにとらわれてしまうととてももったいないと感じます。なので、私のレッスンでは英語ナレーションであっても、日本語と同じく想いを伝えるということの大切さをお伝えしています。

大山さんによるレッスン風景

ちなみに、『俳優修業』の話をしたことは今までなかったので今回が初めてです(笑)

以前は、バイリンガルナレーターといってもそんなにバイリンガルの仕事があるわけじゃないしな〜とか、日本語に絞った方がいいのかな〜とか迷ってたんですけど。意外と日本語と英語でナレーションして翻訳までやれるという人はあまり多くないんです。そこで、同じ映像で日英両バージョンのVPを作成するような案件では、日本語原稿をいただいて、雰囲気や強調点、カット割りなどを理解した上で英語原稿に翻訳し、日英同じトーンでナレーションするところまで1人でできるので、重宝されていたりします。

あとは完全に英語だけのナレーションというときにも、例えば日本の技術や文化を世界に伝える内容などの場合、「日本人が読んでいる雰囲気で」や、「地名や人名などの固有名詞は日本語アクセントで読んでほしい」などのご要望をいただくこともあるので、日本人でバイリンガルナレーションができるという人材をもっと増やしていったら、いいことがあるんじゃないかなと。以前の私のように諦めそうな方がもしいたら、全然道はあるよっていうのを伝えたいです。


言葉と声でみなさまの想いを世界に伝えるお手伝い

大山さんの今後の目標について教えてください。

私は日本語と英語でナレーションができることが1つの軸としてあるので、今までは、バイリンガルナレーションというのをメインとしてやってきました。ちょうど2年前くらいにマネージャーに入ってもらったタイミングで、今後の動き方を整理していく機会がありました。私が今後一番やっていきたいことってなんなのかなっていうことを考えた時に、言葉と声で皆さまの想いを世界に伝えるお手伝いだと気づいたので、それをVisionというかMissionにしました。「言葉」と「声」の2つは自分の中で大きい2つの要素です。

日本語か英語かどちらか選んでやっていかなきゃいけないのかな。と思ったこともあるんですけど、今はそれを両軸にしてやっていきたい。今後の動き方を整理して以降、翻訳もやっていますということを公表していくようになりました。今はナレーションの翻訳をはじめ、CMのコピーや絵画のタイトルの英訳などクリエイティビティが求められる分野でも翻訳を任されることが増えてきました。より言葉と声で皆さまの役に立っていくということを体現できる動き方になっているのかなと思っているので、今後は、もっと多くの方に認知していただいて、「言葉」と「声」で、よりお役に立てる存在になっていけたらなと思っています。

▼大山さんへのお仕事依頼はこちらから

これからも、「HITOCOE」ではナレーターに特化した上質な記事を連載予定です。今回の記事を気に入っていただけたら、スキやフォロー、サポート(投げ銭)を頂けると幸いです。いただいたサポートは、今後の活動費として役立たせていただきます。

ライター/あきはら しほ

ナレーター・MC。普段は企業広報として働く傍ら、フリーで活動開始。ナレーターの木村 匡也さんに師事。Voicy公式「思考力10分UPDATE」パーソナリティ。2022年8月〜HITOCOEライター。
Twitter @chum_voice


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