【ほねなしエッセイ#3】フジノハナガイはもう波に乗りたくない

4年通った新潟大学は海の近くにある。海なし県から来た私にとっては夢のような立地だった。

建物の高いところへ登ると海が見える。よく研究棟の非常階段から日本海に沈む美しい夕日を眺めて黄昏ていた。風の強さも相まって、刻一刻と変わる景色。うっすら見える佐渡島。幸せな時間だったなぁ。

一番近い五十嵐浜は見渡す限りの砂浜で、生き物を探すには正直あまり面白くない。それでもやっぱりいるにはいる。

ある日、波打ち際で遊んでいると友人が小さな白い二枚貝を見つけた。そこら辺の砂を掘ってみると、いくつかポロポロと出てきた。

この貝、砂浜に放っておくと打ち寄せた波が引いた瞬間、ものすごいスピードで砂に潜っていく!!!

え?と思ったらもういない。
掘り返す。また放っておく。波がくる。波が引く。潜る!

何回繰り返したでしょう。。。

でも,なんせそのスピードが速い!二枚貝ってこんな動きするの!?とあまりに驚いてしまって,何度でも見たくなる。

しかもさらに面白いのは,どうやら潜る方向が決まっているらしいことだった。

貝殻は綺麗な扇形ではなく、片側が直線的で平たくなっており左右対称ではない。平たい方を下にすると木の新芽のような形で立ちそうなくらいだ。

そして,その平たい方(私は勝手にお尻と呼んでいる)を必ず上にして潜っていく。キュッキュッキュッと3回ぐらいの潜行運動でもう姿は見えなくなる。

すごいなぁーすごいなぁー。どうやって潜ってるんだろう?どうやって波が来たことを察知してるんだろ?

感動と疑問いっぱいで帰ってから調べてみると,どうやらフジノハナガイと呼ばれる二枚貝のようだった。藤の花の形に似てるからだね!なるほど。

お仲間にナミノコガイというのもいて、こちらは波の子貝。なんと,波に乗って移動するから波の子。そういうことかと謎が解けた。

つまりフジノハナガイやナミノコガイは波打ち際の砂地に住んでいて,自分が移動したい時に砂の上に出てきて波に運んでもらう。一斉に貝が砂の上に出てきて波に運ばれる様子が観察できることもあるそうだ。

ということは砂に埋まっていたあのフジノハナガイたちは今は移動する気がないわけで。波が引いた後にすぐに潜ってしまうあの子たちはもう波に乗る気がないわけで。

何だか無駄な運動をたくさんさせてしまったな・・・と申し訳なくなった。
いっぱい掘り返してごめんね。

いつか自ら波に乗る様子を見てみたいものです。


☆☆生き物からのラブレターを読み解くため、生き物との出会いや体験を綴るほねなしエッセイ連載中☆☆

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