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マイナンバーカードの実情と未来

マイナンバーカードの取得率は、2024年2月20日時点で総人口の86.6%。この一年で10ポイント程度上昇している。

かなり普及してきたマイナンバーカードであるが、持っているだけという人も多いのではないだろうか。役所に出向かなくてもコンビニで様々な書類が取得でき、e-Taxによる確定申告と活用の範囲を広げつつあるマイナンバーカードであるが、見方を変えるとまだまだDXというには程遠く感じる。

2024年12月2日に現行の健康保険証の発行を停止し、厚生労働省が主導する「マイナ保険証」に一本化することになっているが、マイナ保険証非対応の病院は多く存在するのが現実で、現行の健康保険証を手放せない人は多くいる。

国家資格である医師、薬剤師、看護師、行政書士、教員、情報処理安全確保支援士などの資格情報をデジタル化することが予定されており、実現すれば就職時の資格情報の確認がより確実になると期待できる。

民間レベルでは、社員証や学生証として利用する場合もある。情報がデジタル化され、情報取得のパスキーとしてマイナンバーカードを利用するというエコシステムが進んでいる一方で、物理カードに依存している点が気になる。

マイナンバーカードをスマホで読み込めば、携帯の契約などできるようになってはいるが、「eKYC方式」のため、物理カードをカメラで撮影してアップロードする必要がある。マイナンバーカードに紐付けされた情報を読み込むためにもカードリーダーに物理カードを通す必要がある。

情報がデジタル化され、情報管理が一元化に進んでいるように見える反面、何かと物理カードが必要になるというのは矛盾しているように感じる。2024年1月1日の能登半島地震において、JR東日本の協力で避難所に1.8万枚のSuicaカードと3,000台のカードリーダーの提供が行なわれ、現地で活用されたのである。

本来であればマイナンバーカードが活躍する場面でありながら、「必要なカードリーダーが用意できない」事情と「被災者と避難所の状況を一元的に把握できるIDの存在」が必要に迫られたからこそ、Suicaの話が出てきたそうである。

マイナンバーカードの普及やサービス内容がいくら充実しても実際の現場で利用できなければ意味がないはずである。災害避難時のマイナンバーカードによる個人確認を実証実験でも行っているのであれば、避難所に持ち込めるカードリーダーを常備していてもいいものだが、常備されていなかったということが露呈されたのだ。

DXという観点から、物理カードからの脱却は必要ではないかと強く思える話だ。緊急時にマイナンバーカードを持ち出す人はどれだけいるかは分からないが、連絡用にスマホを持ち出す人はかなり多いと予想できる。

内閣府の消費動向調査によると、2023年において総世帯における世帯ベースでのスマホの普及率は89.9%である。ほとんどの世帯で誰かがスマホを持っていることになる。この現状を考えると、マイナンバーカードのスマホ搭載が進んでいれば、より迅速に対応ができたろう。

現状はまだAndroidのおサイフケータイ対応機種のみに限られている為、実際のスマホ搭載数は少ないと思われる。日本の場合、2024年1月段階でのOSシェア率は、Androidが28.44%に対して、iOS(iPhone)は70.79%と圧倒的にiOSが多いのである。この結果から、もしほとんどの人がスマホを持ち出したとしても、3人に2人は物理カードを持ち出さなければならないことになる。

もしマイナンバーカード搭載機種がiPhoneまで広がれば、一気にマイナンバーカード機能の利用可能台数が増加し、全世帯の9割がスマホだけでマイナンバーカード機能を利用できたことになる。勿論、世帯普及率と個人普及率は一致するものではないが、大多数の人が恩恵を受けることは間違いない。

スマホ搭載の利点は普及率だけではない。スマホではそれ単体でロック解除に本人確認が行われているので、照合番号B(マイナンバーカードの表面に記載されている生年月日6桁、有効期限の西暦4桁、セキュリティコード4桁の計14桁の数字)+顔認証のような仕組みを必要としない。
セキュリティ的にも、紛失時や盗難時にはスマホ自体をリモートワイプで消去するか、あるいは新しい端末で新たにマイナンバーカード機能の登録を行なえば、以前の端末内の電子証明書は自動的に無効化される為、物理的なマイナンバーカードで指摘された「紛失時の悪用」は非常に難しいと考えられる。

利便性やセキュリティ面を考えても、マイナンバーカードのスマホ搭載は利点が高いのである。現在のAndroid端末向けのマイナンバーカード機能も電子証明書(「署名用電子証明書」と「利用者証明用電子証明書」)の搭載のみに限定されてはいるが、今後はオンライン申請などでの個人情報の入力補完に必要な券面APの搭載も予定されているなど、物理カードとほぼ同等の機能を備えるようになる。物理カードに縛られなくてもよい社会が目の前まで来ているのである。

スマホにおける電子決済は日常に浸透し、クレジットカードそのものを出すことが非常に少なくなってきている。スマホに入れているから、使っているという人もいるだろう。利用者の利便性を考えなくては、どんなに素晴らしいサービスでも普及しない。

マイナンバーカードが目標とするエコシステムは素晴らしいものであり、日本のDXを大きく推し進めると言っても良い。カードリーダーがないというような「つまらない理由」で使えず、別の方法を模索しなくてもいいような周辺整備が急務だろう。マイナンバーカードを「日本のインフラ」とするべく、河野太郎デジタル大臣やデジタル庁には一層の尽力を期待したい。


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