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廃棄食材による新素材製造技術〜東京大学の挑戦

食品ロスという言葉が世に出てからどれくらい経つだろうか。日本では農林水産省及び環境省の令和3年度推計によると年間523万トンもの食材が廃棄されている。SDGsを含めて様々な方面で食品ロスは対応策を模索される中、廃棄食材から飼料や肥料、バイオプラスティック、メタンなどが生成され、すでに利用されている。

様々な対応の中で、特に興味を惹かれたものがある。廃棄食材から新素材を作るという取り組みである。

東京大学で開発された技術で、乾燥させた食材を粉砕し、加熱・加圧により成形することで、建材などに使用可能レベルの強度を付与することができる。この新素材はコンクリートの4倍近い曲げ強度を有し、建材に利用する強度を有する。白菜から生成された厚さ5mmの新素材の板は、30kgの荷重に耐え、折れることもないほどの強度を有する。接着剤を使わず廃棄食材100%だけでこれほどの強度を付与できるのは驚きだ。

熱圧縮成形において、熱により食材中の糖類が軟化し、圧力により糖類が流動して隙間を埋めることで、強度が上がったものと見られているが、そのメカニズムは完璧には判明していないらしい。理論より実践でこの新素材を世に出したことに大きな意味がある。何故ならば、理論構築には膨大な時間がかかり、その分、実用化されることが遅れがちだからだ。実用化レベルの技術ならば、あとはトライ&エラーで修正をかけながら社会に投入することで、恩恵を受ける人が生まれ、社会に寄与することになる。

現在、東京大学発のベンチャー企業fabulaが「食べられるセメント」という謳い文句で新素材を売り出している。食材により強度が異なるようで、白菜が一番強度が高く、トマトは強度が低いそうだ。新素材は、独特の風合いや香りをもつ唯一無二の特徴をもっており、蜜柑の皮から作ると蜜柑の香りがする。檜風呂のように近くにいると香るという感じである。接着剤など余計なものが含まれていないので、食べることもできる。味は保証しないそうだが。ヘンデルとグレーテルのお菓子の家のように食べられる家ができるということになる。また、この新素材は、粉砕すれば、再度新素材に再構築可能ということで、不要になった後も無駄にならない。

完璧のように思える新素材だが弱点もある。それは水への耐性が低いという点である。屋内の内装としてであれば実用的だが、屋外で使用する場合は木材用の強い耐水剤を塗るなどする処理が必要になる。どのようにして水への耐性を上げるかというのが今後の課題といえる。屋内利用は現在でも可能ということで、すでに製品として家具もサンプル作成されているそうなので、近いうちに商品化されるかもしれない。

faburaは2021年に発足した若い企業である。CEOの町田氏を中心に20名ほどで開発、製品化に向けて動いている。これほど未来に向かって社会貢献が期待できる企業ではあるが、事業パートナーを募集しているのが現状である。この技術に何故、資金援助をしないのかと疑問に思う。

これが諸外国なら、どこからか資金援助がありそうなものだ。

クラウドファンディングなどを利用して自分たちで資金を集めることもできるが、そのために社員は営業活動を余儀なくされているようで、それもどうかと思う。まだ知名度が低いのもあるが、東京大学での研究で国が知らないわけがない。国が手を差し伸べれば、製品化に向かう時間はかなり短くなり、社会貢献が進むのではないだろうか。町田氏はテレビの取材を受けたりとメディアを通じて新素材をアピールしている。素晴らしい技術を持った若い企業が潰れる前に支援できる日本であってほしい。

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