2018自選5

2018年の自選30首

ふるさとのバスはカーブの向こうから滲み出るようゆっくりと来る
お揃いの鈴鳴らしゆく隊列のロードバイクの膝のあかるさ
思い出せない お寿司屋でプラッシー飲ませてくれた伯父の声とか
汗吸えば藍の濃くなる法被ぬぎ兄は今年で町を離れる

みどりごに土踏まずなし生まれ落ちまだ土踏まぬ足のふくふく
さるすべりなみきのみきにふれながら通うわが子のひたいあかるし
ステンレス槽でからまってるパジャマ脚が二本じゃ多すぎるかも
ラトビアの手編み模様に触れている知らぬ草木の名を繰り返す
霧雨を背中いっぱい貼りつけて羊のころを想うセーター

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弱い犬なら堂々と点火せよ第二校舎に打つ昼花火
国境を越そうポテトとバーガーを買おう今だけ撃たないでいて
平等のむずかしさ、雨、冷えた首(パリが燃えるの何度目だろう)
街灯に雨筋しろく針となり展翅されゆく僕の両足
神様はまだ怒らない 今日僕は並行世界を五つ壊した

繋がれた管から洩れる酸素すら僕からとおく逃げようとする
本のない日々に渇いて点滴のラベルもすでに暗記しており
(人はいや?)空の写真に占められたカメラロールに問われる心地
皮剥かれ冷凍室に横たわるバナナ 南の歌を聞くかい
服越しにふれるあなたの手の圧は真夏みたいなヘクトパスカル

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わたしたち美しいままいましょうね百合の雄蕊はティシューに捨てる
ほおずきのくちびる軽くひらかせて言葉ではないかたち教える
汗ばんでうれしい わたし汗かきじゃないしこれまで演じてばかり
背中から沈んでいくの甘からぬ思い出ばかり知ったシーツへ
手のうちに水を乗せたる心地してこぼれぬように運ぶ水茄子

からっぽの部屋で鋏の音ばかり響かせている切るものがない
スプーンのようなカーブでえぐられたかつて善意と呼ばれたかたち
疲れとも慣れとも違う、飽きたのよ 耐熱皿の焦げは取らない
君なしの日々も上手に生きられる洗濯ばさみはさっき砕けた
ストリートビューを開けばアパートのドアにあなたの今は無き傘

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さらさらと缶の底には紅茶葉のかすかに薫る過去の瞬き

久しぶりに店の焼鳥が食べたいです!!サポートしてください!