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顧客ヒアリングのコツ:営業はRFP渡されたら負け

営業研修講師の海老原です。

「あなたは顧客からRFP(要求仕様書)や比較表を渡されたことがありますか?」

「営業は顧客からRFP渡されたら負けという言葉を聞いたことがありますか?」

先日の営業ヒアリング研修講師での一コマです。私の行う営業ヒアリング研修の受講者は、研修題材として自分の担当顧客の商談を持ち込みます。

Aさんは、提案中のある商談を営業ヒアリング研修に持ち込みました。Aさん曰く「顧客窓口担当者の話をよく聞いて対応している」とのこと。しかし、私には、どうも顧客担当者の表面的な発言内容に流されていると感じました。

この商談は、下記のように顧客からRFP(要求依頼書)を渡されたようです。

顧客窓口担当者から自社商品の問い合わせがあった
顧客訪問し商品説明を行った。「検討します」とのこと
2日後にRFPがメールできた。1週間で比較表を埋めてほしいとのこと

一見、問題ないように思えます。しかし、私は営業ヒアリングがうまくいっていない、と感じました。どういうことでしょうか?

営業はRFP(要求仕様書)渡されたら負け

私は、なぜ、営業ヒアリングがうまくいっていないと感じたのでしょうか。営業ヒアリング研修で、Aさんと顧客窓口担当者とのやりとりをより具体的に教えてもらいました。

顧客からRFPを渡された負け ?

Aさん:今回の商談を持ち込んだ若手営業
Bさん:一緒に研修を受講したベテラン営業

【海老原】「『RFP渡された負け』って言葉、知ってますか?
【Aさん】「初耳です。」
【Bさん】「知っています。RFPの内容は、提案する営業担当者が主導して作るべき、という話しですよね。」
【海老原】「そのとおりです。RFPという体裁に限らず、最終的には顧客から営業に必ず提案依頼がきます。
しかし、RFPを渡されるときは、営業担当者に提案依頼する要件が固まったときです。たいてい要件が固まる前に顧客企業内では、検討が始まっているはずです。
RFPを渡されるより先に商談がはじまっているべきです。」
【Bさん】「えっ? 今の商談で、まさにRFPをもらっています。『負け』なんでしょうか?」
【海老原】「もちろん、必ず失注となるわけではありません。
しかし、RFP作成過程に食い込めなかった時点で、後手に回っていることは確かです。
RFPが出る前から商談している競合企業がいる可能性が高い。」
【Bさん】「そうなんですか。」

顧客からRFP(要求仕様書)の次に比較表作成依頼

【海老原】「顧客担当者は、RFPを何社かに出しているでしょう。その場合、次はRFPを元に『比較表』を作ることが多いですね。」
【Bさん】「えっ? 今『比較表』作らされています。」
【海老原】「比較表の項目は指定されていますか?比較項目が指定されている場合、次の2つのどちらかです。

1.相見積のための比較表。つまり値下げ交渉材料
2.顧客担当者が比較表を作ること自体をゴールとしている
 【Bさん】「そういえば、『比較表作れと上司に言われた』そうです。」
【海老原】とすると、顧客担当者は、購買決定に特別意志を持っていないかもしれません。つまり、意志決定者は、あくまで上司。上司に言われ、手足として比較表を作っているだけですね。
【Bさん】比較表を埋めることしか考えていませんでした。カナヅチで打たれたような、感じです。

RFPを営業に渡すとき顧客社内で起きていること

顧客がRFPを営業に渡すとき、顧客社内では何がおきて、担当者が何を求めているのでしょうか。具体的にイメージします。

RFPを渡されたとき、顧客社内でなにか起きているかを、できるだけリアルに想像してみましょう。よくあるのが、以下のような流れです。

1.顧客上司から担当者に製品調査の依頼が来る
2.顧客窓口担当者は、5件程度、ネットで調べたり、資料請求する
3.顧客窓口担当者は1、2社に会う。資料説明をしてもらう
4.顧客上司へ中間報告すると、比較表作成を依頼される
5.顧客窓口担当者は、詳しい説明を受けた会社の資料を元に比較表原案作成。資料請求をした会社に比較表穴埋めを依頼する
6.各社の情報を集め比較表完成。意思決定者である上司にわたす

顧客担当者は上司命令でRFPの情報収集しているだけ

顧客担当者の情報収集姿勢でよくあるのが「主体は上司、部下である窓口担当者が上司命令で情報収集しているだけ」というパターンです。

つまり、担当者と上司の意識が下記のように大きく異なります。

【担当者の意識】今回の商品選定に対する特段強い意志があるわけではない。上司命令をこなすこと、比較表を作ること自体がゴール。あとは上司の仕事

【上司の意識】実質的キーマン。商品選定に対する意思を持っている。自分の時間がないので、情報収集・取りまとめ作業は部下に依頼している。

この場合、比較表原案を作成する前でコンタクトがとれている企業が有利です。つまり基本要件を考える、課題定義をする段階でコンタクトをとり一緒に課題解決方針を考えている状態が理想です。

顧客窓口担当者が、比較表作成で考えること

比較表の項目が決まっており、比較表の穴埋めだけ依頼される場合があります。このとき顧客担当者の目的は「比較表作成自体がゴール」か「相見積で値下げさせるための材料づくり」の、どちらかです。
上司に渡す比較表の体裁を整えたい

比較表を作る場合、社内説明上、最低3社は比較したいところ。本命は2社で、数合わせのために3社目、4社目に穴埋めだけ依頼することもあります。
比較表を使って相見積もりで値下げ交渉したい

また、必要とする承認スペックが大体決まっていた場合、比較表上は同等になる商品を、2、3個相見積もりをとります。こうして、値下げ交渉に使うのが、購入側の常套手段です。

典型的には、「比較表を使ってスペックが要件にあう企業を2,3社に絞る」「残った2,3社にさらに相見積もりをして値下げ競争をさせる」ことになります。

ソリューション営業は顧客RFPを作る

RFPや比較表を顧客から出されたら負け。では、どうするか。ソリューション営業の理想は、顧客と一緒にRFPを作ることです。顧客社内の課題を整理し解決方針を考え、一緒に要件定義を作ります。この要件定義が、そのままRFPになります。

RFP作成時に真っ先に相談される存在になる

RFPを顧客と一緒に作る状態を作るにはどうしたらよいか。まずは、定期的にコンタクトをとって、思い出してもらう存在になることです。次に、相手の相談に乗ること、そのときに相手にとって価値のある情報提供をしてあげることです。

顧客社内で最初に課題があがったときに、いきなり何社も営業を呼ぶ人間はいません。最初は、まず相談しやすい人、相談に答えてくれそうな人にコンタクトします。顧客キーマンの頭のなかで、真っ先に相談したい人として思い浮かべてもらえるか、が勝負になります。

まとめ:典型的購買意思決定プロセス

意思決定関与者が2名(上司とその部下1名)の場合の典型的な購買意思決定プロセスを示します。

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RFPから顧客ヒアリングが始まったとき

顧客からRFPを渡されるということは、購買意思決定プロセスの二次調査段階です。ここでは購買の基本方針、つまり仕様や価格の概要もほぼ決まっています。

基本方針が決まっているのに、なぜ依頼するのか?理由は2つ。「稟議書を提出するためにベンダー比較が必要だから」と「相見積もりで値下げ交渉するため」です。

RFP依頼からスタートした場合、仕様が決まっているため商談に勝つ方法は1つしかありません。価格勝負です。ただ、自社商品を値下げすれば競合他社も値下げしてきます。一般に比較表に載る商品には大きなコスト構造の差はありません。商談に勝つには赤字覚悟の大幅値引きが必要になります。

基本方針相談から顧客ヒアリングが始まったとき

顧客担当者は知見のない商品は見積もり依頼、提案依頼の前に情報収集を行います。ここで情報収集から基本方針作成の相談に載ることがソリューション営業が目指すべきところです。

この段階で相談するのは、1、2社。多くても3社です(RFPの段階では5,6社に増える)。この一次調査・基本方針検討段階で声をかけられる関係を作っておきます。

基本方針の段階で相談を受ければ、自社に有利な仕様をRFP・比較表に織り込むことができます。比較表の枠の中ではなく、比較表の項目自体を顧客と一緒に作成します。

(文責:プロジェクトファシリテーター 海老原一司)

https://project-facilitator.com/sales-interview-rfp/


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