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ゴルフらしさってなんだろうか。未来のゴルフってどうなるんだろうか。

フォルクスワーゲン・ゴルフという名車

本日Twitterをみていて、考えさせられたのがこちらのツイートです。
世界の大衆車のベンチマーク「フォルクスワーゲン・ゴルフ」の新型モデルについて「ゴルフはこうじゃない」というデザイナーさんのご意見でした。
これについて自分が思ったことを以下にツイートした次第です。

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初代フォルクスワーゲン・ゴルフが発売されたのは1974年、いまでは大衆車で当たり前の横置きエンジンの前輪駆動、前ストラット/後トーションビームのサスを採用した、合理的かつ画期的なハッチバックの車でした。
40年以上たった今も、大衆車の基本形としてこの構成は世界中の車が踏襲しています。オートマチック拳銃で言えばコルト1911、スマホで言えばiPhoneのような「元祖にして完成形」といったものです。

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対する日本の「カローラ」も代表的な大衆車ですが、前輪駆動を採用して無駄のない構造を採用したのはゴルフの登場から9年後の83年のことでした(※トヨタは先進的な技術に対してはいきなり採用せず、じっくり市場を見極めてテストした上で採用する傾向があります)

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その後、ゴルフはどんどんと進化を重ねつつも、いまでも世界中の自動車メカーがお手本にする「完璧な大衆車」として現在も世界で高い人気と販売台数を誇っています。

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とくに現在まで続くゴルフの方向性を決定づけたのが4代目のゴルフだとおもいます。3代目で一気にモダンになって「ゴルフらしさ」をさらに洗練させてサイズも大きくなり、品質や性能から見れば日本人からすると「高級輸入車」と呼んでもおかしくない「少しプレミアムなハッチバック」に進化し、いまでもゴルフはこの路線を踏襲しています。

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ゴルフらしさ、とはなんなのか

さて、話は最初の「ゴルフらしさ」に戻ります。初代から比べるとサイズも価格帯も大きく進化しました。当然デザインも大きく変わり、車に詳しくない人からすると、初代と比べると現在のゴルフは同じ名前の同じ系譜のクルマには見えないかもしれません。
もしかすると「ドラゴンボール」の漫画版とハリウッド版くらい違うかも。しかしそれとゴルフが大きく異なるのは、コンセプト=商品としての思想自体は変わっていない、というところだと思います。

ゴルフが目指しているのは「世界一の大衆車」なのです。つまり、当然その時代ごとの「大衆」のニーズや経済状況を貪欲に取り込んでいるわけで、70年代当時と2021年現在では「大衆車」に求められるものが大きく異なるわけですね。

ボディサイズやデザインだけを旧型モデルと比べてしまうと「ぜんぜん違う!こんなのゴルフじゃない」となるのはある意味で当然かも知れません。
(※高級車やスポーツカーは、ユーザー=金持ちのニーズが時代によってそこまで変化しないので「名車」のイメージやデザインを大きく変えずに済むのかもしれません)

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70年代当時の欧州の大衆車を見れば、フィアット500やローバーミニや、それこそ戦前に設計された空冷エンジンのシトロエン2CVやVWビートルなど、たしかに国民車として歴史的な名車だけども、日常用途には(今見ると)どこか難があるものばかりでした。
その「難」から大衆を解き放ったのが、ゴルフの役目だったわけです。

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静かだしヒーターもちゃんと効く水冷4気筒エンジン。シンプルだけど(シトロエンやミニのように)油圧やゴムばねを用いないので故障や劣化が起きにくく乗り心地の良いサスペンション。横置きエンジンの前輪駆動&ハッチバックで後席や荷室を無駄なく使えるレイアウト。むやみに小さすぎず、シンプルなモノコックボディ。そして安心安全の高い品質。
現在の大衆車の殆どが採用している「なんの変哲もない常識的な設計と高い品質」によって大衆をあらゆる不便から開放したこと、これが初代ゴルフの発明だったのだと思います。

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戦前にアドルフ・ヒトラーの命令で設計・製造され、70年代当時世界で一番売れていた(四輪自動車としては世界最多の累計生産台数「2152万9464台」)空冷リアエンジンのVWビートルの代替商品として作られたのがまさにゴルフだったわけです。
ゴルフの登場と成功によって、フォルクスワーゲンはようやくビートルという呪縛から開放されたとも言えるでしょう。

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初代ゴルフの登場から半世紀近い時が流れて、2021年に登場した8代目のゴルフは、初代ゴルフとは全く異なる「大衆車」としての役割を求められていると思います。

EV化の推進、内燃機関エンジン車の販売禁止政策(もしかすると走行禁止)などの環境保護推進・低炭素社会化の波。経済格差、世界的な不況、高齢社会、そして皮肉にも一連のゴルフシリーズを手本に品質・性能が向上した大衆車があふれかえる良質かつ激安な中古車市場
新車の大衆車を販売するには逆風のつよい社会の中で(先行きが不透明な中やや先代からの進化幅は狭いかもしれませんが)完熟の粋に到達した最新のゴルフはフォルクスワーゲンが考える「2021年の最高かつ究極の大衆車」なのだと思います。

この状況で「新車でゴルフを買うユーザー」が求めるものはなんでしょうか。価格帯からして成熟した先進国の、中流からやや上流の人たちが主なユーザーになるのでしょうか。

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個人的には「どんな場所に、いつ誰が誰とどんな用途で乗って行っても恥ずかしくない、幸せになれるクルマ」というのが売れる大衆車の条件だと思っています。
会社員のパパがゴルフに行ってもいいし、主婦のお母さんがお買い物に行ってもいいし、大学生の息子が彼女とのデートに使ってもいいし、高校生の娘を学校や駅に迎えに行ってもいい。家族みんなで旅行や冠婚葬祭にも。
日本だとプリウスやミニバン、SUVやN-BOXでしょうか。おそらくヨーロッパの一般家庭においてはゴルフが最高の選択肢の一つになると思います。

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未来のゴルフ、フォルクスワーゲン

それでもEV化推進・内燃機関車の規制が今後も強まっていく世の中で、もしかすると今回のゴルフは「最後のゴルフ」になってしまうのでしょうか。それとも電気自動車になって生き残るのでしょうか?
将来に向けて、フォルクスワーゲンも何もしてないわけではありません。これまで通りの路線を守った新型ゴルフを発表する一方、昨年2020年からはEV(完全に電動の電気自動車)のID.3を販売開始し、低炭素社会化の推進の対応も着々と進めています。

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一方で、高級化・肥大化するゴルフや完全電動EVのID.3だけでなく、途上国や低所得層・セカンドカー需要向けに(まるで初代ゴルフのように)シンプルでコンパクト&低価格な純ガソリン車のUP!もラインナップ。
これまで通りゴルフより少しコンパクトなポロもちろん販売しているし、アウディやシュコダ、セアトなどのブランドを持っており、各ブランドでフォルクスワーゲンの各車種をベースとした多数の車種を展開しています。

※UP!を実際にドイツでレンタルしてアウトバーンを走ってきたのですが、いい車でした。

話を最初に戻すと新型ゴルフに対する「ゴルフはこうじゃない」という意見についてでした。
フォルクスワーゲンのすごいのは新型ゴルフが気に入らなかったとして未来に向けたEVが欲しい人にはID.3を、初代ゴルフのようなシンプルかつ低価格でコンパクトが欲しい人にはUP!やポロを、そもそもフォルクスワーゲンのブランドが気に入らないという人にはアウディやシュコダなどのブランドを、それでも新車を買わない(買えない)人には中古車が多数存在しているところです。

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つまり「ゴルフはこうじゃない」というユーザーが仮にいても、車を買うという意思があれば、あらゆる選択肢が用意されているところなのです。
それでもなおフォルクスワーゲンはいやだ、という人は新型ゴルフに文句をいわず黙って他の車を買えばいいだけなのです。

さいごに:新車にモノ申す人について

Twitter上では新車に文句を言ってる人をよく見かけるのですが、そういう人たちが実際に新車を買っているケースはあまり多くなく、たいてい中途半端に型落ちの中古車に乗っているか、なぜかゲームやミニカーや自転車の写真ばかりあげてる人ばかり目に付きます。
※「代わりに競合他社のクルマを買いました」というのはわかるのですが、そういうケースはめったに見られないです。

自分は何度も言っているのですが、新車というのは「新車を買う人」のために作られています。新車を買う人のために、市場調査されて設計されて製造されディーラーで販売されてメンテナンスされるのです。

ですから、新車を買うつもりがない(もしくは新車を買うお金や、そもそも運転免許がない)人は新車について文句をいうのはあまり意味がなく、真剣に購入を検討しているユーザーに対して真剣に車を作ってる人に対して無礼極まりないので控えたほうが良いのでは?と思っています。

最後に、自動車愛好家やデザイナー、アマチュアの評論家など様々な人が、ユーザーの立場ではなく商品を評価することはあると思うのですが、必ずその場合は「マニアとしての好み・趣味趣向」ではなく「ターゲットユーザーの目線」で評価するように心がけるべきだと思っています。

とくに、自動車マニアのためだけではなく、一般の消費者を主にターゲットとして作られている、フォルクスワーゲン・ゴルフのような大衆車の場合は特に。

最後までご覧いただきありがとうございました😊

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