静かな夜に。

ここ一ヵ月ほど寝付きが良くない。

布団の中で時折淡く微睡みながら、真夜中の二時過ぎまで、何度も寝返りを打ちつつ、眠気が来るのを待っている。
枕元に裏返しに置いたスマートフォンへと手を伸ばしては、ため息を付くような心地で時刻を確認している。

今日はもう開き直って、こうして文章を書くことにした。

元々ショートスリーパーで、四時間ほど眠ると、それ以降は上手く眠れない体質だった。幸いなことにここ三年は薬の作用で六時間以上眠れるくらい改善されていたのだけれど、反面、日中も眠いという副作用がついて回った。それを主治医はかねがね気にかけてくれており、数カ月ごとに薬を変えて様子を見ている。一ヶ月ほど前にも、

「薬を変えてみましょう」

と提案を受け、現在に至る。

結論から言うと今の薬は体に合っていない。一番の理由としては、吐き気がある。私は逆流性食道炎で胃が荒れやすいので、副作用として追加で消化器官に影響が出るのは、体質と噛み合っていないのだろう。あと、喉が凄く乾く。その上、夜布団に入ってすぐに入眠できなくなった。薬を変えるまでは、真夜中に何度か目覚めるものの、割合すぐに寝付いていた。

利点が少ない。

人間の三大欲求として、食欲と性欲と睡眠欲があるけれど、私はとにかく寝ていたい。なのに、朝は大体アラームの三十分くらい前に目が覚めてしまう。あと三十分眠れたのに勿体ないと切に思いながら、アラームが鳴るまでの間、羽毛布団の柔らかさを頬に感じつつ、目を瞑って、取り戻せない睡眠時間を惜しむように横になっている。

薬を変えて以降、夜眠れなくなった割に、相変わらず日中は眠たい。

ついに先日、花粉と気圧による怠さと寝ていたい欲が高じて、朝目が覚めた瞬間、最低限のこと以外はせずに一日中寝ると決めて、再度布団に潜った。自堕落であるとしても、心と体が要求しているので従うことにした。
登校する娘を見送り、白湯を飲んで寝室で横になった。カーテンを閉じたまま、細切れに眠る。結局夜までは寝ていられなくて、夕方五時過ぎに起き出して遅い朝ご飯を食べた。それからシャワーを浴びて、お風呂上がりに外用薬を全身に塗った。

今まで飲んでいた薬は、眠りの効果が強く出ていて、日中も眠たいが夜も眠れていた。今飲んでいる薬は、夜中眠れない分、寝足りなくて日中眠たい。薬の効果とは繊細である。
明日からは、眠れないときにと併せて処方されているとんぷくを、就寝前に服用する事にする。

三年ほど前までは、二時間睡眠や一睡もできないまま動き回ることもよくあったので、今真夜中に起きている感覚は、慣れた風でもある。もう二三年遡れば、夜な夜な音声配信を聴きつつ、ノートパソコンに向かって絵や漫画や文章を創っていた。

あれからもう五年以上経ったのかとしみじみ振り返る。嬉しいことも悲しいことも、出来事だけを記憶に残して、感情が薄れてゆく。あの時。胸が痛くなるほど思い悩んで真夜中にこぼした涙の理由を、今の私には実感するのが難しい。

いくつも文章を書いて追いかけた、自分自身の足跡を辿る旅は、多分、命の終わるその時まで、終わらないのだろう。人の日々の営みは、月日という波間を漂う旅のようなもので、一人ひとりが、各々の答えを持って生きている。

真夜中に、虚空に向けて問いかける。
あなたは生きて、何を成したい。

静かな夜に問いかける。

微睡みを待ちながら。


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