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ふらっと沖縄⑤〈夕暮れを見届ける〉

海辺はひとを詩人に変える。多分に漏れず、私もそのひとりだ。しかたないのである。圧倒的なその美しさを前にしたとき、心は鎮められ、鎧を脱がされ、素に戻った自分と向き合うしかなくなる。

海に行ったからといって、いつでも望み通りの景色が拝めるとは限らない。雨が降るかもしれないし、台風が近づけば波は高くなり、水の透明度もかわる。空が暗く曇っていれば、海の青さも半減する。そこで生活しているならともかく、ほんの数日滞在するだけであれば、見たい景色に立ち会えるかどうか、これはもう運でしかない。

夕方になると、空が少しずつオレンジ色を帯びてきた。晴れてはいるが厚い雲がかかった水平線、どうやら、まんまるの太陽が沈むような夕暮れは見られそうにない。けれど、うつりゆく雲の形、空や海の色はどれも今日だけのもの。陽が落ちるまで見届けようと、浜辺におりた。からりとした海風が肌に心地よく、夏が終わることを告げに来ているようだった。

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雲の切れ間から、今日の太陽がさいごの光を放つ。

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気が付くと、隣の部屋の家族連れが、少し離れたところで夕暮れをみていた。朝から晩まで走り回っている元気なちびっこも、静かに空をみつめていた。お母さんと目があったので、にこっと笑って会釈をし、お互いゆっくりと海へ視線を戻す。知らない人たちと、同じ景色をただ静かに分かち合う。それがなんだか愛おしく、少しさみしく、でも幸せだった。

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太陽が沈むまぎわ、紅を1本ひいたかのように水平線が赤く染まった。雲と海との境界線は、ぐっと濃さを増し、薄れゆき、やがて夜が訪れる。


小一時間海辺に座っていたので、からだがすっかり冷えていた。立ち上がって腰をのばし、砂を払って部屋に戻る。お湯をわかして、熱いコーヒーを飲もう。着替えてごはんを食べに行こう。夜になったらまた浜辺に降りて、星を見上げよう。明日の予定をわくわくしながら考えよう。

今夜も、この海のそばにいることが出来る。日は暮れても楽しみは減らない。



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