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すず音ストリッパー

まみちゃんは、一見男好きのする女の子だった。ゆるく波打った長い茶髪に童顔、すらっとした足にショートパンツがよく似合った。居酒屋を営むお家の看板娘であるせいか、人との垣根がなく、ノリもよくてとにかく盛り上げ上手。20代が大勢集うカラオケの場で、誰も知らない演歌を熱唱し、全員を巻き込んだ大合唱に仕立て上げたときは、この子はスターだと思った。みんな、明るいまみちゃんが好きだった。


演劇のワークショップで「ストリッパー」という課題があった。いわゆるストリップとは目的を置き換え、「○○をする(見る)と興奮する」という設定が観客に与えられる。例えば、ひじ=胸、手のひら=局部のように置き換えをする。ストリッパー役はその設定をふまえ、観客をいかに煽り、焦らし、熱狂させるように演じられるかを課す、という内容だった。

何人目かのストリッパー役で、まみちゃんが選ばれた。「椅子に座られると興奮する」観客たちに挑んだまみちゃんは、椅子に座りそうで座らないテクニックを無限に繰り出し、からだの柔らかさと小悪魔っぷりを駆使した見応えのあるストリップを見せつけ、男女問わず全員の劣情を煽りきった。観客役はいつしか演技ではなく本物の観客になってしまい、ひきつけられ、まみちゃんがついに椅子に座った時には大歓声があがり、その日一番の盛り上がりを見せた。


いつだったか、まみちゃんのご実家で飲み会を開いた際、お母さんが「すず音」というお酒を差し入れてくれた。あまり数つくってないみたいなんだけど、美味しいからみんなで飲んでみて、と持ってきてくださったそのお酒は、まるで飲めない私でもぐいぐいいきたくなる甘口で、しゅわりと控えめに炭酸が効いていた。緑色の小ぶりな瓶も可愛らしく、つい持ち帰らせてもらったくらいだ。
その日もまみちゃんは、お店を手伝ったり、こちらで座って一緒に飲んだり、相変わらず自由で楽しそうに笑っていた。


今日スーパーに寄った際、通りがかりにすず音をみつけた。曇りガラスに印字されたきれいな名前、緑色の瓶のなつかしさ。いまの部屋ではもう、すず音の瓶は飾っていない。
まみちゃんが彼氏と沖縄に引越していったのは10年以上前で、いまどうしているかもわからない。
かわらない可愛い瓶をみたら、まみちゃんの笑顔と見事なストリップ、みんなで大合唱した「けーつえーきガッタガタ~」という謎の歌を思い出し、ちょっと笑顔になれた。

http://www.ichinokura.co.jp/syohin/t/suzune.html


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