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覚書 ばぁちゃんが会いに来た

家に帰ったら、居間にばぁちゃんが座っていた。おばちゃんが、ばぁちゃん来たよ、と言った。ばぁちゃんはにこにこ笑っていた。よく知っている、体調を崩す前のばぁちゃんで、中身だけ若返ってしゃきしゃき話をしていた。家も、いまの実家ではなく、幼いころ住んでいた古い懐かしい家。

ばぁちゃんはいつも半透明に透けていてさわれなかった。だけどいるだけで嬉しかった。ばぁちゃんはときどき姿が見えなかったけれど、あるとき昼間出かけるところに出くわした。どこへ行くのかと聞いたら、はずんだ様子で「演奏会にね」と言って、小さな弦楽器のケースを抱えていった。ケースも半透明に透けていた。

四十九日が明けて、ばぁちゃんが帰る日になった。お母さんは居間で絵を描いていて、おばちゃんは別の部屋で来客中。私はひとりだった。
泣きそうな私を叱りつけ、笑顔で「泣くな」と言って、軽く頬をたたいた。

ばぁちゃんを迎えに来たのは、クレオパトラみたいな格好をした、美人で小柄な女性。マントのように薄布を纏って、薄暗い廊下の向こうから、ゆっくりこちらに近づいてくる。白と黒のメイクにふちどられた大きな目で、じっと私を見つめながら。
私は身動きが取れず、徐々に強くなる冷気に背中がぞわぞわした。

彼女とすれ違った途端からだが重くなった。
私のはいた白い息が、口元からうすべったく広がり川のようにうねっていき、廊下を抜けた向こう側、大きな窓へとつづく道をつくった。

彼女と連れ立って、ばぁちゃんは白い道の上をすべって飛んでいった。
ばあちゃんの魂は、エジプトの何かになるといっていた。

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祖母が亡くなり、何をしていても涙が止まらない時期。夢を見て明け方目覚め、とりこぼしたくない思いで必死にとったメモ。

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