電車内でメイクをする是非について

電車で出かけた。
隣に座った若い女性がバッグの中をゴソゴソと探り、化粧ポーチを取り出してメイクを始めた。

電車内で化粧をする女性についてその是非が話題に挙げられ始めたのは、私の記憶では30年くらい前からだ。ひょっとしたらそれよりもっと以前から車中で化粧をする女性は存在したかも知れないが、少なくとも私が見かけるようになったのは私が高校を卒業してからで、計算すると私が高校を卒業したのは1993年だから1990年代の半ばあたりから増え始めたことになる。

人前で化粧をするなんてみっともないとか、乗車マナーが悪いとか、基本的に評判は悪かった。

そろそろ自分達も化粧をし始めるようになった私や同世代の友人たちの間では「あんな揺れる中でなぜ化粧できる?なぜ失敗しないのだ?」という驚きがあった。

ファンデーションなら顔全体だし、チーク(頬紅)やアイシャドウ(瞼の色付け)は肌にボカシながら色をのせるから多少手元が揺れてもまあまあなんとかなるかなと思うが、アイブロウ(眉を描く)やアイライン(目の縁に描く線)、カーラー(まつ毛をカールさせる道具)、マスカラ(まつ毛に塗る)となると少し手元が狂うだけで化粧が台無しになる。下手をすれば尖った硬いもので目玉を突く事故になる。わりと危険なのだ。口紅だって電車が揺れた拍子に唇からはみだしてしまえば、肌についた口紅を拭き取るのはこれまたなかなか大変なのである。よくもまああんな細かい作業を揺れる電車の中で手鏡片手にできるよなという驚嘆があった。

隣に座った女性、化粧を始める前にちらりと見えた横顔は特に目立つところのない地味な顔立ちだったと思う。とびきり美人だったりものすごいブスだったりしたら目につくが、別に何も目につかなかった。若い女性だなと判別するだけでそれ以上なんの興味もわかない関心も続かない、そういうただ隣に座り合わせただけのなんの変哲もない女性だった。

私はもともと車中で化粧をする女性に嫌悪感は持っていない。お行儀が良いとは思わないし、推奨すべきことだとはカケラも思わないが、かといって迷惑加減で言えばスポーツ新聞を広げてポルノ記事を読んでいるおっさんの方がはるかに不快というものだ。

化粧が済んだ顔は、横目でちらりと見ただけでもグッと華やかで綺麗に変わったのだから、化粧しないよりもした方がいいじゃないかと思うから車中メイクに目くじら立てる気などさらさら起きない。

しかし化粧ポーチの中から次々と取り出される化粧道具を見た時、これは流石にいただけないと感じた。

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